現在の裁判所の考え方では、①有責配偶者からの離婚請求の場合には裁判離婚を認めるための条件は厳しくなるが、②それでも一定の場合には認めてよい、とされています。なお、ここでいう「有責配偶者からの離婚請求」というのは、「浮気し不貞行為をした側からの離婚請求」というのとほぼ同じことを意味しています。
離婚したい有責配偶者側としては、たとえ相手方が離婚に応じない場合であっても、その一定の場合にあたると裁判所に認めてもらえさえすれば離婚できることになります。
逆に相手側の立場からいえば、自分が離婚拒否を貫けば離婚にならないと高を括ってよいわけではありません。

有責配偶者って何?

婚姻を破綻させた側のことです。

婚姻を破綻させたことについて専ら責任のある側の配偶者のことをいいます。
もっとも、結婚生活の中でどちらかが一方的に責任があるということは、どちらかといえば少ないように思われます。責任があるということを「有責性」といいますが、この有責性はどちらにもあるという場合の方が多いでしょう(たとえば有責性が夫:妻=6:4とか)。

有責配偶者からの離婚請求は認められるの?

問題となるのは「不貞行為をした側の配偶者」

そうすると、「有責配偶者からの離婚請求」というのは、具体的にどういった場合を想定しているのでしょうか?
ほとんどの場合、有責配偶者というのは、第三者と肉体関係を持った(=不貞行為をした)側の配偶者のことが想定されています。

浮気・不貞した側からの離婚請求が認められるか?

たとえば「浮気して第三者の女性と肉体関係を持った夫が、離婚してその女性と結婚したいと思っている。妻は離婚を望んでいない。夫が裁判離婚を請求したとき、裁判所は離婚を認めてくれるか?」というのが問題とされている事柄です。客観的にみれば夫婦の婚姻関係が破綻していると認められる場合に、離婚を拒む妻の意向にかかわらず夫の離婚請求を認めてよいのかという問題です(ちなみに客観的婚姻破綻がなければ、そもそも離婚原因がありませんので、裁判離婚は認められません)。
有責配偶者からの離婚請求だということになると、裁判離婚が認められるためのハードルは高くなります。有責配偶者が一方的に婚姻を破綻させておきながら、相手方が離婚を拒んでいるのにその意向を無視して裁判離婚が認められてしまうのはおかしい、という理屈は何となく常識でわかると思います。
しかし、全く認められないというわけではありません。冒頭で述べたとおり、最高裁は一定の場合には離婚を認めているのです。

別居期間、未成熟子、過酷状態(3要件)

最高裁昭和62年9月2日判決は、①別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれるなど離婚を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情が認められない限り、有責配偶者からの離婚請求であっても離婚を認めることはありうる、といっています。

別居期間

「○○年あれば相当の長期間といえる」と単純には言いきれません。
それでもあえて言うならば、概ね10年前後の別居期間は必要だとされているようです。

未成熟子の不存在

親から経済的に独立して自分の生活費を稼いでくることを期待されていない子ども(未成熟子)が存在しない、ということです。ここでいう未成熟子というのは、未成年の子とは違います。例えば定職についている18歳の子どもは未成熟子ではありません。
未成熟子がいる場合、有責配偶者からの離婚請求は認められにくい傾向にあります。もっとも、未成熟子が存在していても、これまで相当の生活費を送金してきたような場合に離婚請求が認められた事例もあります。

経済的過酷状態

上記最高裁判決では「精神的・社会的・経済的」な過酷状態と表現されてはいますが、その後の裁判例で問題とされているのは、ほとんどの場合「経済的」過酷状態です。考え方によっては「相手方が大きな精神的ショックを受けてしまう、浮気した側から離婚されてしまうなんて世間体が害されてしまう」といえるかもしれませんが、そのようなことではなく離婚によって相手方が経済的に厳しい状態に置かれてしまわないか、が問題とされているのです。
有責配偶者が相応の生活費を支払ってきたのか、相応の財産給付を申し出ているのか、あるいは相手方配偶者の経済状況はどうなのかといった点が考慮されます。

浮気した有責配偶者からの離婚請求の問題点とは?

請求する側

別居により婚姻破綻を作り出す

上述のとおり、そもそも婚姻破綻の状態がなければ、離婚原因がなく裁判離婚も認められません。したがって、まずは婚姻破綻の状態を作り出すことが、具体的には別居期間を積み重ねることが必要です。

3要件

別居期間については、婚姻破綻を作り出す過程で、相当の長期間といえるだけの積み重ねがあるはずです(それがなければ離婚原因がないわけですから、裁判離婚はできません)。そのため、残る未成熟子、過酷状態の要件が問題となります。

未成熟子がいる場合

その生活を悪化させないために相当額の送金をするなど、その子に対する手厚い配慮が必要とされると思われます。

経済的過酷状態

離婚後の生活を補償する確実な財産給付を約束するなど、離婚によって相手方が経済的に過酷な状態に置かれることはないという形にしておく必要があります。
離婚請求する側が経済的に不安定な状態である場合には、裁判離婚は認められない方向に判断される可能性が高いです。

いつかは離婚できる!?

離婚請求を認めてもらうために重要なのは、別居期間を積み重ねることと相当の財産給付を行うことだということになります。そしてこれは、自分の意思でコントロールしやすい要件です。極論すれば、いつかは離婚できるといえるかもしれません。

すぐ離婚したいなら・・

先に述べたとおり、裁判離婚を認めてもらうには、大雑把にいえば10年程度の別居期間が必要とされます。さらに経済的過酷状態が発生しないと裁判所に認めてもらうためには相応の財産給付が必要とされます。
それまでに離婚したいのであれば、交渉で相手方に離婚に応じてもらうしかありません。そのためには相場よりも高額(高い割合)の財産分与を約束するなど、金銭面でかなりの好条件を提示していく必要が出てくることが多いでしょう。

請求される側

離婚を拒んでいればよいわけではありません。

現在の裁判所の考え方に従えば、仮に離婚請求する側が別居を選択してきた場合、そのままではいずれ裁判離婚が認められてしまう可能性が出てきてしまうということをまず認識しておく必要があります。

別居阻止

そのため、まずは別居されて婚姻破綻状態が作り出されてしまうのを防ぐ必要があります。別居を思い止まらせる、仮に別居されても頻繁な交流を保つようにするなどの方策が必要です。

未成熟子、経済的過酷状態は?

子どもは、いずれは未成熟子ではなくなります。
また、請求する側が相当高額の財産給付を支払うと約束し、その約束が確実に守られそうだということになれば、経済的過酷状態の要件も問題ないと裁判所に判断されてしまう可能性があります。
これらの2要件は請求される側でコントロールしがたい(請求する側がコントロールしやすい)要件であることに注意が必要です。

条件交渉も一つのやり方です。

「別居して夫婦生活の実態もないが、それでも籍だけは抜きたくない(抜いてやらない)」という考え方もあるでしょう。しかし、上述のとおり、特に請求する側に相当の資力がある場合には、いずれは裁判離婚が認められてしまう可能性があります。
考え方次第ですが、相場よりも相当有利な条件を引き出したうえで離婚に応じるというのも一つの選択肢です。請求する側としては、あなたが話し合いで離婚に応じない限り、すぐには離婚ができない状態にあります。そのため、相当有利な立場で交渉することが可能になります。

まとめ

浮気した有責配偶者≒不貞行為をした配偶者からの離婚請求の場合、通常よりも裁判離婚を認めてもらうためのハードルが高くなります。しかし、別居が相当の長期間継続し、未成熟子がおらず、離婚により相手方が過酷な状態に置かれることがないという要件がクリアされれば、裁判離婚が認められる可能性があります。
「これから長期の別居期間を置かないと裁判離婚を認めてもらず、再婚もできない」「このまま離婚を拒否しても、いずれは裁判離婚が認められてしまうかもしれない」という双方の懸念を踏まえると、請求する側が相当好条件の財産給付を提示する内容での離婚が話し合いでまとまる可能性もあります。