交際相手の配偶者から慰謝料を請求されて●●円を支払ったが、その際に示談書(合意書)を作っておらず、後でトラブルになった、というご相談を受けることがたまにあります。特に弁護士を入れず、ご本人達のみで解決した場合によく生じる問題です。

もちろん、示談書を作成しなくても、双方が納得した慰謝料を支払えば解決となる場合もあります。しかし、示談した内容をきちんと書面の形にしておかないと、後で相手方から問題を蒸し返される可能性がありますので、特に慰謝料を支払う場合は、自身の身を守るためにも、きちんと示談書を作っておくべきです。

口約束でも示談は有効なの?

示談自体は有効です。

「示談をする際には書面でなければならない」というような決まりはありませんので、口約束でも示談は有効です。口約束で決められた金額を支払って一件落着となったのであれば、結果的には何の問題もありません。

口約束での示談の危険性

細かい取り決めができません。

口約束だけで細かい内容の示談をすることはかなり難しいですので、せいぜい●●円を●月●日までに払う、というような内容でしか取り決めができないことが多いでしょう。そうすると、そのような取り決め以外についての争いが後で発生する可能性が大きくなってしまいます。

示談内容についての争いが発生する可能性があります。

もっと危険なのは、そのような取り決めの内容自体について後で争いが発生し、示談内容を証明することが困難となるリスクがあることです。100万円で合意したのであなたがその金額を払ったという場合を例に取ると、①そもそも100万円で合意していないとして、更に請求される可能性があります。また、たとえば②「その100万はあなたが身銭を切ったものではなく、私の配偶者が用立てたものだ。あなた自身がきちんと(追加で)100万払え」などと相手方が主張したり、あるいは③支払った100万円についてあなたが交際相手(=相手方の配偶者)に求償請求(これ自体は法律上正当な請求です)したところ、相手方が、求償請求するつもりなら、100万円では足りない等と述べてあなたに対して更に請求する可能性も否定できません。

示談内容自体についてこのような争いが発生してしまった場合、示談書がないと「言った」「言わない」の話になってしまい、非常に面倒な事態になってしまいます。しかし、きちんとした示談書を作ってさえおけば、このような事態を避けることが可能です。

示談書を作るときの注意点

示談書を作るのは、最終的に解決するためです。

示談書を作るのは、不倫慰謝料問題を最終的に解決するためです。示談書の中に色々な内容が書かれることがありますが(ex.相手方に対する謝罪のことばなど)、「そこに書いてある約束を果たせば、お互いに一件落着とする」という意味で作るものです。

金額、支払日の確定

示談書で最も重要な内容は、慰謝料額をいくらとするか、それをいつまでにどのように支払うかです。書面できちんと「100万円」と明確に記載しておけば、金額についての争いはかなり発生しにくくなります。もちろん、「自由意思を抑圧されて示談書にサインさせられた」というように示談書が無効になるような例外的な事情がある場合は別ですが、そのような事情がない限り、金額について後に争いになる可能性はほとんどなくなるはずです。

清算条項

「この書面で明確に約束していること以外には、すべきことは一切ない」という意味の条項です。たとえば①あなたが相手方に100万円を支払う、②この清算条項がある、という示談書の場合、「あなたが相手方に対してすべきことは100万円を支払うことだけで、それ以外にすべきことは一切ない(さらにいえば、相手方もあなたに対してすべきことは一切ない)」ということになります。

お互いが同じ内容の示談書を一部ずつ保管します。

当事者だけで話し合って示談書を作ったが、「相手方だけが持っていってしまい、私は控えすら渡してもらっていない」というようなご相談を受けたこともあります。これではどういう内容で示談したのかという肝心な点が分からず、あなたにとっては示談書を作った意味が全くありません。示談書を作るのであれば、同じ内容のものを示談する人数分(※)だけ作って、各自が一部ずつ持ち帰って保管する形にしてください。

(※)一般的にはあなたと相手方の二部ですが、たとえばダブル不倫のケースで四人全員で示談するような場合なら、四部作ることになります。

示談書の内容に拘束されるのは、サインをした当事者だけです。

示談書にサインをしていない当事者が、その示談書の内容に縛られる理由はありません。たとえば、あなたが相手方の配偶者とダブル不倫したケースで、「あなたが相手方に100万円を支払う、清算条項がある(=それ以外にすべきことはない)」という示談書に、あなたと相手方の二人がサインをしたとします。この場合、あなたの配偶者はその示談書にサインをしていないわけですから、あなたの配偶者が相手方の配偶者(=あなたの交際相手)に対して慰謝料を請求することは可能です。あなたの配偶者が、その示談書の清算条項に拘束されることはありません。

まとめ

不倫慰謝料を請求されたとき、示談書を作らず口約束でまとめてしまうと、そのとき合意されていない点について、あるいは合意したと思っていた内容についてすら、後で争いになってしまう可能性があります。そのような事態を避けるため、きちんとした示談書を作ったうえで、その内容に基づいて慰謝料を支払う形にすべきです。不倫慰謝料を請求されているあなたの立場からいえば、相手方に後からゴールポストを動かされてしまわないように、あなたが相手方に対して果たすべき約束の内容を固定するために作るのが示談書だというわけです。

もっともその反面、示談書を取り交わすと、後からその内容に不満が出てきてもこれを反故にするのは難しくなってしまうというリスクもありますので、迂闊な内容を示談書にまとめてしまうのは非常に危険です。もし内容に納得できないのであれば示談書にサインをすべきではありません。相手から押される形で納得しきれない内容が記載された示談書にサインしてしまい、後にトラブルとなる例も少なくありません。

ところで、当事者間で示談書を作るという場合、インターネットから(多くの場合は慰謝料請求する側が)拾ってきたサンプルを流用し、単純に名前と金額だけを書き換えて作るという場合もあるようです。それが一概に不適切とはいえませんが十分であるとも限りません。重要なことは、①相手方とどこまでを合意することになり(ex.支払額と期限を合意に入れる)、どこからは合意から外れることになるのか(ex.相手方の配偶者への求償請求は外れる)をきちんと認識したうえで示談し、②その内容について争いにならないように示談書にまとめることです。

不倫慰謝料を請求された際に弁護士に依頼するのであれば、示談内容についての相手方との交渉(ex.慰謝料の減額、口外禁止条項の挿入)はもちろん、示談書作成も弁護士が行います。しかし、あなたが独力で対処する場合には、このような点にも気を付けて対応する必要があります。

なお、不倫慰謝料を請求された場合の一般的解説については、リンク先をご参照ください。