はじめに

「妻から離婚を切り出されてしまった。確かに自分にも落ち度はあるけれど、別れるのは耐えられない。どうしたらいいでしょうか?」

このように、離婚拒否や夫婦関係修復についての相談を頂くことがあります。また実際、このように離婚を請求された側(離婚したくない側)からの依頼を受けて、離婚手続きを拒むための行動を弁護士がお手伝いすることもあります。

ところで、離婚を切り出された場合、こちら側に何らかのはっきりとした落ち度があるケースがあります(ex.他の女性との不貞行為)

切り出された時点で、もはや謝罪や反省の言葉だけでは修復困難になっていることも多いです。

また、その落ち度が法律上の「離婚原因」に該当するなら、裁判離婚が認められてしまう可能性もあります(不貞行為は離婚原因の典型です)

あるいは、こちらにはっきりとした落ち度がなく「離婚原因」もなさそうな場合もあります(ex.「特に理由はないが結婚生活に飽きた」と言われた)

こちらは離婚したくないのですから、離婚を突っぱねることも一つの選択肢ではあります。

しかしその場合でも、相手方が離婚請求を諦めない場合、現実問題として精神的・金銭的にかなり厳しい状況に置かれる可能性もありうることは、覚悟しておく必要があります。

そして重要なことは、「離婚請求を拒むこと」と「夫婦関係を修復すること」とは同じではない、ということです。

「離婚請求を拒むこと」というのは法律的な手続きの問題ですが、「夫婦関係を修復すること」は夫婦の気持ちの問題です。

離婚したくないという気持ちを優先して離婚請求を拒んでも、相手方と円満な夫婦関係を取り戻せるとは限りません。その点は分けて考える必要があります。夫婦関係修復は二人の気持ちの問題ですので、弁護士ではなく自分自身が頑張るしかありません。

まずは冷静に…

「離婚を切り出され、気が動転して何から手を付ければいいか分からない・・・」

「突然何を言い出すの、一体どういうことなの・・・」

そのように当惑する気持ちは分かりますが、まずはあなた自身が落ち着いて物事を判断できる状態になることが先決です。

当惑するあまり、離婚なんて考えられない、どうしても離婚したくないという気持ちから、怒りのままに相手方に罵詈雑言を浴びせることもあるでしょう。

しかし、そのような行動をしてしまうと、それ自体が関係修復を遠のかせてしまいます。

場合によっては念のため不受理申出書を

たとえば、何らかの事情で、あなたが記名済みの離婚届を相手方が持っているような場合もあるでしょう。

相手方が離婚届を独断で提出してしまう可能性がある場合には、役所に不受理申出書を提出しておくことも検討しましょう。

「反省している」では済みません。

「自分が反省していることをしっかり相手方に伝えて、修復してくれるよう頼みたいと思っています・・・」

そのようなことを法律相談で仰る方もいます。

しかし、相手方の気がそれで済むくらいなら、そもそも離婚を切り出される事態にはなっていません。

離婚を切り出すためには相当の熟慮・勇気が必要です。離婚を切り出された時点で、言葉だけでは関係修復が非常に困難になっていることも多いです(すぐに「離婚だ」と言う人もいるかもしれませんが)

言葉だけではなく行動が必要です。相手方が不信を抱いている原因を自ら取り除き改善しているのだということを、実際の行動で示すしかありません。

相手方を変えるには、まず自分から

夫婦関係のことですから、あなたにも多々言い分はあることでしょう。

しかし、それをそのままぶつけたところで、相手方が納得することはまずないでしょう。相手方との修復を最優先するのであれば、まずはあなたが自分自身を変えて、これまでとは違う形で婚姻関係を継続していくことができる可能性を示さなければ、相手方の翻意は期待できません。

離婚を望まない側が一方的に我慢し続けるべきだと言っているわけではなく、まずは自分が変わらないと相手方も変わらないのでは、ということです。あなたと相手方のお互いが、自分が改めるべき点は改めてやり直そうという気持ちになって初めて、関係修復に向けた一歩を踏み出すことができます。

「夫婦関係は修復したい。でも自分に落ち度はないのだから、相手方に頭を冷やして考え直してもらいたい」

そういった内容を、離婚を切り出された方からの法律相談で伺うことがあります。

その気持ちは分からなくはありませんが、とはいえそういう態度を続ける限り、現実問題として修復はまず不可能と思われます。「自分は悪くない、悪いのは相手方だ」というところから歩み寄りをする気がないのなら、最終的には離婚に応じるほうがお互いにとって幸せかもしれません。

(備考)「客観的に見ても一方的に相手方のほうが悪い」と思われる場合もありえますが、たとえそういう場合でも、相手方の行動を指弾し矯正するというのは極めて困難と思われます(場合によっては慰謝料が認められたりすることはあるでしょうが)

ちなみに「落ち度は自分になく相手方にある」という場合は、相手方から極力有利な条件を引き出したうえで離婚に応じてあげる、というスタンスで解決を図ることも考えられます。

関係修復と離婚請求阻止とは異なります。

相手方がこちらを許してくれれば、もう一度やり直そう(=関係修復)となり、その結果として離婚請求がなくなります。

逆に、離婚請求を阻止したからといって、常に関係が修復されるわけではありません。たとえば、相手方がさしあたり離婚手続きを進めることをあきらめただけで、いわゆる仮面夫婦になる可能性もあります。

当たり前だと思われるかもしれませんが、いざ離婚を請求されたとなると、その点を取り違えてしまうこともよくあります。繰り返しになりますが、この点はよく頭にいれておいてください。

仮にあなたが「離婚したくない」ということで離婚の手続きを阻止する行動をいくら頑張ったとしても、夫婦でやり直そうという気持ちをお互いに取り戻せない限りは、本質的には離婚問題を後回しにしているだけかもしれません。夫婦関係を修復したいのなら、離婚手続きの阻止以上に、相手方の気持ちを取り戻すための努力が必要です。

そもそも修復すべきなの?

離婚に応じたくない場合であっても、夫婦関係を修復すべきなのかどうかについて疑問が残る場合もありえます。

たとえば、離婚請求してきている相手方が日常的に暴力を振るっている、というような場合です。

夫婦関係を修復するかどうかは最終的には自分自身で決めるべき問題ですが、身内などの第三者に意見を求めてみてもいいかもしれません。

「離婚原因」がなさそうなときは?

離婚したくないという気持ちを貫いて離婚の合意を拒み続けることも選択肢の一つです。

仮に相手方が離婚裁判を提起してきたとしても、裁判離婚は認められないという結果で終わらせることも期待できます。

とはいえ、執拗に離婚を迫ってくる相手方に対して拒み続けるのは簡単なことではありません。協議でも調停でも、相手方が、あなたの欠点を色々あげつらって罵ってくることもよくあります。

「そこまで言われるのなら、こちらだってもういい」

そういう気持ちになることも多いですし、耐えて関係修復を望む気持ちを持ち続けるのは、実はかなり難しいことです。

くどいようですが、離婚原因がなさそうなことを理由に離婚請求を拒むことができるとしても、それ自体でやり直そうという気持ちを取り戻せるわけではありません。夫婦関係の修復に向けた努力が別途必要です。

別居+婚姻費用分担請求をされるかも?

離婚を求めてきている相手方があなたよりも収入が低い場合があります。

その場合、別居とともに婚姻費用分担請求をされる可能性があります(別居のメリット・デメリットについての別コラムをご参照ください)。

「離婚原因」がなさそうでも、別居期間が長くなれば、それ自体が「離婚原因」にあたる可能性がでてきます。

そのうえ離婚をしない限り婚姻費用分担義務がありますから、「多額の出費を強いられ続けながら別居期間が積みあがるのを待っているしかない」という状況に置かれることもあります。

上記のような状況が継続すると、当初は離婚したくないと言っていても、「一緒に住んでいるわけでもない相手方に婚姻費用を支払い続けるのは納得できない」というように離婚請求を認める方向に心変わりすることも、非常に多いです。

修復のための調停申立て

修復に向けた夫婦間協議に相手方が応じてくれない場合もあります。

その場合、あなたが調停を申し立てることによって、修復するための話し合いの場を裁判所に用意してもらうということも考えられます(円満調停、同居調停)

これらの調停では、第三者である調停委員を介してお互いの言い分を伝え合うことになります。調停委員があなたの言い分を相手方に伝えるとき、修復に向けある程度の説得をしてくれる可能性もあります。

とはいえ、相手方の離婚意思が固いとこれらの調停は不成立で終了してしまいますので、過大な期待はしないほうが良いです。落ち着いて話をするチャンスが得られるだけ、くらいに思っておきましょう。

ちなみに、法律上、離婚訴訟の前に調停をしておく必要があるという要件があります。これらの調停で離婚についても話し合った場合には、その要件が満たされることになります(通常であれば、相手方が離婚調停を申し立て、調停不成立の後で離婚訴訟を提起してくるという流れになります)。

まとめ

離婚請求を拒むことと夫婦関係を修復することとは同じではありません。

離婚したくないという気持ちは分かりますが、離婚拒否をいくら頑張ったところで修復への努力がなければ(努力したとしても相手方が理解し受け入れてくれなければ)、夫婦関係の円満修復は叶いません。

相手方は、「離婚原因」がなさそうでも本気で離婚したいなら、別居した上で婚姻費用分担請求を進めてくることがあります。

その場合、婚姻費用の負担は耐えることが可能だとしても、別居期間が長期となればいずれ離婚が認められてしまう可能性も高くなってきます。

そうなると考え方次第ですが、そうなる前に有利な条件で離婚に応じるのも一つの方法ではあります。

離婚拒否できる状態であるにもかかわらず応じる代わりに、それに見合った条件(ex.財産分与、慰謝料など)を要求するということです。

いずれにしても、何を優先して進めていくのかをよく考えて進める必要があります。

①相手方との夫婦関係の修復を最優先するのなら、まずはあなたがこれまでとは違うということを見せなければ、修復はかなり困難でしょう。あなたと相手方とのどちらが悪いのかということは一旦置いておくべきです。

②最終的に離婚することには異議がないものの、相手からの離婚請求自体や相手が提示している離婚条件に不満があるという場合は、修復はさておき離婚請求を拒む方針で対応し、相手方から納得できる条件を引き出せた段階で離婚に応じることを検討する、という方向になってくるでしょう。