民法770条1項1号から4号の離婚原因(不貞、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、強度の精神病)があっても、裁判所は、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができます(民法770条2項)。これを裁量棄却といいます。

裁量棄却が問題となった裁判例

不貞行為

不貞行為をした夫に対する離婚請求を裁量棄却した古い裁判例があります(千葉地裁昭和40年2月20日判決)。しかし、その結論には強い批判があります。

強度の精神病

最高裁は、「諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない」のが民法770条1項2項の意味するところであると述べています(最高裁昭和33年7月25日判決)。これを「具体的方途の理論」といいます。

その後最高裁は、「具体的方途の理論」を前提にしつつ、①妻の実家は裕福である一方で、夫は生活に余裕のない中、過去の療養費を妻に支払っている、②将来の療養費も可能な範囲で支払う意思を示している、③子どもは出生当時から夫が引き続き養育しているという場合に、夫からの離婚請求を認めています(最高裁昭和45年11月24日判決)。これは最高裁として初めて精神病離婚を認めた判決で、上記昭和33年判決の要件を実質的に緩めたものだという評価がなされています。

現在でも上記の「具体的方途の理論」は維持されています。そのため、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」 (770条1項4号)に該当すると主張・立証しただけでは、離婚請求は認められません。離婚判決を求める原告としては、配偶者の具体的方途の見込みがついたということを立証すべく、具体的な事情・裏付けをもって立証活動を行うことが必要となります。