このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
Aに配偶者Bがいることを知っているけれど、「Aはもうすぐ離婚できるみたいだ、そうしたら自分と結婚してくれる」と思って交際を続けているCさんがいるとします。
このCさんのように、既婚者である交際相手Aから「離婚してあなたと結婚するつもりだ」と聞かされていたのに、全く離婚の話が進んでいる様子がなく、聞いてもはぐらかされてしまう。結果として何年も付き合ったにもかかわらず、いつまで経っても籍を入れてくれなかったため、他の良い人を探すチャンスを逃してしまった。そういうケースは少なくありません。
特に不倫関係が配偶者Bにバレてしまったあとで、交際相手Aが離婚を躊躇し、このような話になってしまうこともよくあるようです。
このような場合、Cさんは、離婚してくれなかった交際相手Bに対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか?
結論から言えばケースバイケースで、交際の経緯などの諸事情によって異なりますが、少なくとも「既婚と知っていた以上全く認められない」というわけではありません。
妻子ある男性と関係を持ちその子を出産した女性が、男性に対して慰謝料を請求したというケースがあります(最高裁昭和44年9月26日判決)。
この最高裁判決は、①肉体関係を持った原因が主として男性の詐言(ウソ)を信じたことによる場合において、②男性側の動機、詐言の内容・程度、その内容についての女性の認識など諸般の事情を考慮して、③肉体関係を持つに至った責任が主として男性側にあり、男性側の違法性が著しく大きいといえる場合には、女性の男性に対する慰謝料請求は許容されるべき、と述べています。
「交際相手が既婚者だと知りつつ肉体関係を持った以上、交際相手に対する慰謝料請求を認める必要はない」という立場もあります。
しかし、現在の最高裁は、そのように一切否定をしているわけではありません。
原則として慰謝料請求は認められないとしつつ、交際相手の違法性が著しく大きい場合には例外的に認めているのです。
いきなり交際相手に対して訴訟提起するのではなく、その前に示談による解決を試みることが多いでしょう。
そうすると、交際相手のキャラクターにもよりますが、謝罪の上で解決金の支払などを提案してくることもありえます。
交際相手としても、訴えられて紛争が長期化するリスクなどは望まないことが多いからです。
交際相手の提案内容にあなたが納得できない場合や、そもそも交際相手が謝罪も何らの提案もしないような場合には、あなたのほうで、今後どうするのか、訴訟提起などをするのかどうかといったことを、交際経緯などの事実関係や証拠の有無などを踏まえて検討していくことになります。
ケースバイケースであり、このような事情があれば可能、なければ不可能、ということがはっきり決まっているわけではありません。
公開されている裁判例を参考として検討すると、例えば次のような事情が必要だと思われます。
なお、これらの事情は裁判所で考慮されるものとして重要ですが、示談交渉段階でも同様に重要となります。
ウソの発言をするなど悪質な言動のあった交際相手としては、多少の罪悪感を抱くことも多いですので、こうした事情が存在すればするほど、交渉段階である程度の支払いを認めるなど相応の対応をしてくることがあるからです。
上記最高裁判決の内容を踏まえれば、交際相手と肉体関係を持った主たる原因が交際相手のウソに基づく、といえる必要があると考えられます。
逆に、交際相手に配偶者がいることを承知の上で肉体関係を持ち、当初は交際相手と結婚するつもりがあったわけでもなく離婚も無理だろうと思っていた、交際相手のウソをウソだと分かっていた、というような場合には、慰謝料請求は認められない可能性があると思われます(東京地裁平成25年2月6日判決参照)。
裁判所は、年齢が上がれば社会経験も豊富になり、交際相手のウソを見抜くだけの力が備わってくるはずで、見抜けなかったのは相当落ち度がある、と考えているような節があります。実際に、上記昭和44年最高裁判決のケースでは、女性が交際相手と関係を持ったのは高校卒業後すぐの年齢であったようです。
交際相手の方が不倫に積極的・主導的であった場合でなければ、「交際相手の違法性の方が著しく大きい」とはいえないと思われます。交際相手とはそもそもどういう経緯で知り合い関係を持つに至ったのか、あなたから関係解消を切り出したことがあるのか等々といったことが問題になってくるでしょう。
交際相手から具体的にいつ、どのような内容のことを言われたのかといった点をメモに控えておいたり、可能なら録音したりしておきましょう。
交際相手から独身だと当初偽られていたとか、離婚話が一切出ていないのに協議中だと説明されていたとか、いろいろありうるでしょう。
Cが交際相手を既婚だと知って肉体関係を持った以上、その配偶者Bとしては、Cに不貞慰謝料を請求できる立場にあります。
仮にCが不貞慰謝料をまだ請求されていない段階で、Cが交際相手Aに慰謝料を請求していくと、Bからの不貞慰謝料請求を誘発してしまうというリスクがあります。
その典型は、Cから追及を受けたAが、Cへの牽制・意趣返しのために、不貞の事実をあえてBに伝えて慰謝料請求するようそそのかす、という場合です。
(備考)もっとも、Aが「Bに不貞を知られたくないから、伝えることもそそのかしもしない」というケースも多いでしょう。
実際にそそのかしを実行するかどうかは別として、CがAに「離婚するといっていたのにどうなっているの」などと追及すると、上記リスクを振りかざして言い逃れようとしてくることは、しばしば見受けられることです。
そのためCの立場としては、「たとえ自分が不貞慰謝料を請求される可能性があっても、交際相手にはきちんと責任を取らせたい」という覚悟をもって慰謝料請求をしていくのか、あるいはそういうリスクを考慮して慰謝料請求せずに済ませるのかといった方向性を、自分自身でよく検討しておく必要があります。
「悪いのは離婚するといっていた交際相手Aなのだから、自分がBから慰謝料請求されても払わない」というCの言い分は、基本的には通りません。そう言いたくなる気持ちは分かりますが、交際相手の言動の悪質性を追及したいのならばAに対してすべきであり、その配偶者Bに対して言うべきことではありません。ただし交際経緯等の事実関係によっては、「主導的・積極的だったのはAだからAが重い責任を負うべきだ(=自分の責任は相対的に軽いはずだ)」という反論をBに対して言えることもありうるでしょう。
前述のとおり、交際相手の責任(違法性)のほうが著しく高い場合には、慰謝料請求が認められる余地があります。逆に言えば、著しく高いとまで言えないなら慰謝料は認められない、ということになります。
交際相手に慰謝料の支払を求める訴訟を提起したとしても、著しく高いということを主張立証できずに請求が認められなかった、という結果で終わってしまうリスクがあります。
もっとも、訴訟を提起してすぐ判決に至るわけではありません。
裁判官を介して和解交渉が試みられることも多いです。
その中で、ある程度の責任を交際相手が認めてくるかもしれません。
不倫関係にある交際相手が既婚だと知ったうえで関係を継続してきたという場合、不倫の当事者双方に、それなりの落ち度があるということになります。
原則としては交際相手への慰謝料請求は認められませんが、最高裁は、例外的に認めています。
双方の落ち度を比べたときに交際相手の方が著しく大きいといえる場合には、交際相手に対する慰謝料請求が認められる余地があるのです。
将来結婚しようなどと伝えられたうえでズルズルと関係を続けてきたのであれば、関係をきっぱり清算するために、交際相手に慰謝料を請求することも一つの選択肢です。
ただし、交際相手の配偶者からの慰謝料請求を誘発するリスクはあります。
実際に交際相手に慰謝料を請求すると、交際相手のキャラクターによっては、示談交渉段階で非を認めて示談に至ることもありえます。
もっとも、責任を否定してきて訴訟提起を検討しないといけない場合もあります。
訴訟では、交際相手の慰謝料支払義務が当然に認めてもらえるわけではありません。
交際相手の責任(違法性)が著しく高いことを主張立証する必要があります。それができなければ、判決では慰謝料が認められず終わってしまいます。
裁判官を説得して、和解交渉を有利に進め、あるいは判決で慰謝料を認めてもらうには、自分にとって有利な事情を数多く拾い上げていくことが必要となります。
離婚しない交際相手への慰謝料請求を考えるのであれば、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
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法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
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