相手方との交渉のポイント
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はじめに
不倫した相手方に対して怒りを覚えるのは当然のことですし、その感情を相手方にぶつけないと気が済まないというのも自然な感情かと思います。
しかし、それだけでいいわけではありません。
配偶者との関係を終わらせることを約束させるなり慰謝料を回収するなり、きちんとした形で決着をつけることを目指して交渉する必要があります。
不貞相手との交渉のポイントは、突き詰めれば2つに集約されます。
①あなたがどんな要求を優先するのかを決める
②裁判ではどうなるかを意識する
以下ではこの①②を解説した後で、実際の交渉で気を付けるべき注意点についてまとめています。
(備考)なお、説明の分かりやすさを優先しておりますので、法的議論の正確さを犠牲にしている部分があることはご了承ください。
①どんな要求を優先するのかを決めましょう。
不貞相手に請求する内容は基本的に自由です。
あなたが不貞相手に請求する内容は、基本的には自由です。
配偶者と一切連絡を取るな、慰謝料を払えというのが典型です。
それ以外にも、(不貞相手が配偶者の同僚なので)職場を辞めろ、転職しろというような内容もありえるでしょう。
不貞相手が本当に自分の自由な意思でそれに同意するのなら、その内容の約束は基本的に有効です。
(備考2)とはいえ、退職約束が守られなかったからといって、法的に退職を強制できるかどうかは別問題です(困難だと思われます)
ただし場合によっては、公序良俗違反などを理由に約束が無効になることもありえます。
法律上はお金の問題になります。
法律上は、相手方との不倫慰謝料問題は慰謝料という形で決着をつけることとされています。
一切連絡を取るなとか会社を辞めろというようなお金以外の内容が判決で認められることは、ありません。
不貞相手に対する要求。何を優先する?
あなたの要求を不貞相手が全て丸呑みすることは、まずありません。
不貞相手に何を要求しようと基本的には自由です。
しかし不貞相手との交渉の中で、「○○にはある程度応じられるが、●●には応じられない」というような条件交渉が、何がしか出てきます。
このとき、あなたは○○と●●のどちらを優先するのかを決める必要が出てくるでしょう。
判決ならあなたの要求が全て認められると確信できる、というような場合はほとんどないからです。
たとえば「接触禁止を約束させるのを優先する。慰謝料は低くてもしょうがない」ということがあります。
先に述べたように「一切連絡をしない」というのを判決で認めてもらうことはできません。
ですので、接触禁止文言を付けたいのなら、あなたがどこかで譲歩して交渉をまとめるしかないのです。
要するに、不貞相手との不倫慰謝料問題をあなたがどのように決着させたいのか、が問われるわけです。
②裁判ではどうなるかを意識しましょう。
「もしこの交渉がまとまらず裁判になると、一体どうなるのか?」を意識することもポイントの一つです。
以下、不倫慰謝料裁判の流れを簡単に見た後で、裁判になるとどうなるのかを解説していきます。
裁判についての前提知識
裁判の流れ(概略)
訴訟を提起すると、裁判所から、不貞相手の住所に訴状が送達(配達)されます。
訴状送達の後は,多くの場合,以下のような感じで進みます。
第1回目 | 原告(あなた)のみ法廷に出席 |
(注1)弁護士に依頼していれば、これ以後尋問以外は、あなた自身の出席は基本的に不要です。 | |
第2回目 | 被告(不貞相手)も出席 場合によってはこの回から弁論準備手続に |
(注2)裁判所内の小部屋で、裁判官を間に挟んで双方の意見をすり合わせ、和解に向けて話し合う手続きです。手続きは第三者には非公開です。 | |
第3回目~数回 | 弁論準備手続 和解がまとまれば訴訟終了 |
第●回 | 尋問手続き |
(注3)裁判官の面前で、あなたや被告自身が事情を聴かれる手続きです。手続きは公開の法廷で行われます。 | |
その後数回 | 弁論準備手続 |
第◆回 | 弁論終結 |
(注4)あなたや相手方が裁判手続きで何かをするのは、この日が最後です。あなたも相手方もお互いに訴訟で言うべきことを言い終わり、和解がまとまらないことも確定して、後は裁判官の判決を待つだけ、という状態になります。 | |
判決 |
裁判官は和解を勧めてきます。
裁判になったら話し合いもなくなるというわけではありません。
「弁論準備手続の回数がやけに多いな」
上記の流れを見ると、それに気が付くでしょう。
弁論準備手続は、一言でいうと和解に向けて話し合うための手続きです。
「裁判になると、傍聴人の見ている法廷でお互いがやり合う」
そういうイメージをお持ちかもしれませんが、実際は全く違うことがお分かりいただけるでしょう。
弁論準備手続の中で、裁判官は、あなたと相手方双方を説得したり色々なプレッシャーをかけたりして、何とか和解を成立させようと働きかけます。
そのため、交渉がまとまらず訴訟になった場合でも、和解の形で訴訟が終了することは非常に多いです。
和解がまとまらないと尋問があります。
弁論準備手続は非公開の手続きです。
他方、尋問は傍聴人に公開された法廷で行われます。
とはいっても、あなたの知人などが傍聴に来ていてプライベートな内容を知られてしまうような事態になる可能性は、一般的にはかなり低いです。
尋問はどういう形で進むのでしょうか。
あなたの弁護士からの質問に返答します(質問内容と返答内容は、ふつう予め打ち合わせ済みです)。
被告(不貞相手)の弁護士から色々質問をされるので、それに返答します。
最後に裁判官からの質問に回答して、あなたの尋問は終了です。
もし判決になったらどうなるの?
尋問後も、裁判官は和解をまとめるようお互いを説得してくることがあります。
どうしても話がまとまらなさそうなら、最終的には判決が下されます。
あくまでお金の問題になります。
あなたと相手方が判決で決着をつける場合、「相手方はあなたに対していくら支払うべきか」という点だけが判断されます。
つまり、お金だけの問題になるということです。
それ以外の問題は考慮されません。
和解の話し合いでは、接近禁止や求償権の放棄といった点についても交渉がなされることがあります。
その点でお互いが合意すれば、和解の内容に盛り込まれます。
判決では、そのような金額以外の内容は一切考慮されません。
前提知識を踏まえると?
以上の前提知識を踏まえると、次のようなことがいえます。
不貞相手に対し、訴状が自宅などに届くというプレッシャーを掛けることができます。
交渉がまとまらないとき、不貞相手に対して訴訟を提起するかどうかの選択権は、あなたにあります。
訴訟を提起すると、裁判所を通じて訴状が不貞相手の自宅などに送達されることになります。
不貞相手が一人暮らしの場合はともかく、家族と同居しているような場合だと、訴状が手元に届くことで不貞の事実が家族にバレるのではないかと恐れることも多いです。
したがって、交渉がまとまらない場合、それなら訴訟を提起するとプレッシャーを掛けるのは、一つの有効な手段になります。
相場を踏まえた金額が認められる可能性が高まります。
裁判官が、相手方とあなたの双方に対して、和解に応じるよう説得をしてきます。
「この後、散々時間を掛けて訴訟を続けても、最終的に私が判決を書くなら●●円くらいになりますよ。それなら、今の段階で話をまとめたほうが良いでしょう?」
というようなことを言って、裁判官は双方が何とか折り合うようにと働きかけてくるわけです。
その結果、不貞相手が、裁判前の交渉では全く支払意思を見せてこなかった場合でも、裁判後には支払いに応じてくることもよくあります。
その金額を極力高額にするためには、あなたにとって有利な事情を、法的に構成して裁判官に伝える能力が必須となります。
裁判官に全て任せておけばよいというわけではありません。
和解がまとまらないと,尋問に対応する必要があります。
和解がまとまらないと尋問手続が実施されます。
少なくとも不貞相手本人とあなた本人は、法廷の証言台に立って、色々な質問に対して受け答えをする必要があります。
弁論準備手続は非公開でしたが、尋問手続は公開で行われ、傍聴人に発言内容を聞かれてしまう可能性があります。
そのことをあなたがどう捉えるかです。
「不貞相手の悪質性や自分がどれだけの精神的苦痛を受けたか、法廷で明らかにしてやる」という考え方もあれば「夫婦関係の詳細などを他人の前で聞かれるなんてまっぴらだ」という考え方もあるでしょう。
どちらが正しいとか間違っているとかいうわけではありません。
あなたがどう捉えようと、不貞相手としては、最終的な慰謝料の減額を目指して積極的に尋問に対応してくることがあります。
たとえば、あなたの配偶者が言葉巧みに不貞相手を肉体関係に誘ったことや、あなたとの夫婦関係は既に終わったと説明されていたことなどを語ってきたり、あなたの配偶者に証人尋問したいと言ってきたりするかもしれません。
不貞相手がそこまで腹を据えて反撃してくるときに、あなたの方が尋問を怖がっていては、どうしても不利になってしまいます。
金額以外の約束を望むなら、和解するしかありません。
くどいようですが、判決では、慰謝料の支払い以外を命じられることはありません。
仮にお金以外についての約束を望むなら、それに不貞相手が応じるように和解交渉をまとめていくしかありません。
注意点
そもそも交渉できるとは限りません。
不貞相手のキャラクターによっては,全く話にならないことがあります。
「私はあなたの配偶者に騙されただけだ。離婚寸前と聞いていたのに…。請求したいのなら配偶者にすればいいだろう!」
そのように開き直った態度に終始するような場合です。
このような場合、あなた自身で話をするのはまず無理です。
あなたの持つ証拠の内容にもよりますが、弁護士に依頼のうえ、訴訟も視野に入れて対応するのをお勧めします。
あなたの対応に相手方が恐怖して、弁護士がつく可能性があります。
不貞相手に怒りを覚えるのは当然ですが、その不貞相手も生身の人間です。
あなたが声高に責めれば責めるほど恐怖を感じ、自分では対応できないと思って、あなたとの対応を弁護士に依頼する可能性が出てきます。
そうなると、その弁護士との間で理性的に話を進めることができるメリットは出てきますが、あなた自身で話を進めていくのはかなり負担になってくるでしょう。好むと好まざるとに関わらず、あなた自身も弁護士をつけて対応せざるを得なくなると思われます。
示談するなら示談書を作りましょう。
分割払いなら公正証書にしましょう。
一回払いならともかく分割払いで示談する場合には、公正証書で示談書を作り、支払いがない場合には強制執行も可能な状態にしておくべきです。
裁判を怖がると不利です。
一般的には、裁判を怖がるのは被請求側である不貞相手のことが多いです。
しかし、「尋問が嫌だ」「自分の側で弁護士を依頼するのは嫌だ」という理由などで、不倫慰謝料を請求する側が裁判を怖がることもあります。
「裁判はしたくないが、裁判所の相場の額くらいは欲しい」というのは,ある意味欲張りな願いだともいえます。相場の額を望むのであれば、裁判を怖がってはいけません。
一般的には、不貞相手の方が訴訟を嫌がることが多く、訴訟提起をちらつかせると、それなりの額を支払うと提案してくることもあります。それなのにあなたの方も裁判を恐れていると不貞相手に思われてしまうと、交渉では完全に不利になります。
裁判では、裁判官を説得することが必要です。
基本的に裁判官は和解をまとめたいと思っており、双方を説得してきます。
高額な慰謝料を認めてもらうためには、なぜあなたのいう金額が妥当だといえるのか、根拠をもとにまず裁判官を説得しなければなりません。訴訟を怖がる必要はありませんが、だからといって徒手空拳で臨んでよいわけでもありません。
尋問は双方にとってプレッシャーです。
尋問はかなり大変な手続きで、あなただけでなく不貞相手にとっても、相当大きな重圧がかかります。
このことをプラスにできるかマイナスになってしまうかは、あなたの巧拙次第です。
仮に弁護士をつけずに対応したとしても、マイナスにしかならないでしょう。
まとめ
相手方の交渉のポイントを端的にいえば、どんな要求を優先するのかを決めることと、裁判ではどうなるかを意識することです。
不貞相手としては、訴訟を提起されることを恐れていることがふつうです。
弁護士をつけて訴訟も視野に交渉をするほうが、良い結果につながることが多いです。
当事務所では不倫慰謝料問題を多数手がけてきております。
不貞相手への請求をお考えであれば、まずは今後どう対応すべきかご相談いただくことをお勧めします。