このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
示談書を作らず口約束で不倫慰謝料を支払うのは、避けるべきです。
「この件はお互い内密に済ませましょう」
そんなふうに交際相手の配偶者(=相手方)から言われて、示談書を作らず不倫慰謝料を支払ったものの、その後トラブルになってしまった。そういうご相談は少なくありません。
「示談書を作らないと後で絶対にトラブルになる」とまでは言えませんが、示談書を作らず不倫慰謝料を支払うリスクが大きいのは確かです。何故かというと、示談内容をきちんと書面の形にしておかないと、後で相手方から問題を蒸し返されたり、きちんとした決着がつかなかったりする可能性があるからです。
示談書を作るメリットは、不倫慰謝料を請求される側・する側の双方にあります。慰謝料を支払うあなた側にとっては、自分の身を守るためにきちんと作っておくべきものです。慰謝料を請求してきている相手方にとっては、あなたの約束を明確化することができます。
(参照)不倫慰謝料の示談書(請求側・される側双方の視点から)
「示談をする際には書面でなければならない」という決まりはありません。ですから、口約束であっても示談は有効です。口約束で決められた慰謝料を支払って一件落着となったのであれば、結果的には何の問題もありません。
しかし、既に口約束で済ませていてその後相手方から音沙汰は無いとしても、本当に一件落着したと安心できるとは限りません。実際には、冒頭述べたように、「解決したと思っていたのに後でトラブルになった」というケースが後を絶たないのです。
仮に、これから示談書を作らず口約束で終わらせようとしているのであれば、それは慎重に考えるべきです。その理由は、示談書を作らず口約束で済ませると、次に述べるような危険性が残ってしまうからです。
口約束だと、具体的にどういう内容で示談したのか、示談内容についての争いが後になって生じる可能性があります。さらに、示談内容を後ではっきりさせようとしても難しくなってしまいます。
口約束をするその場では、お互いの認識が一致しているように思えたとしても、後になって食い違いが露呈することも少なくありません。しかし口約束では「何が合意されたのか。逆に言うと何は合意されなかったのか」というのが紙で残っていません。そのため、示談書を作る場合と比べると、どういう内容で示談したのか食い違いが発生しやすくなります。さらに、そうなった場合に示談内容の証明が難しくなってしまいます。
例として次のような場合を考えてみましょう。
「相手方との口約束で不倫慰謝料100万円を払うことになったので、支払った」
このような口約束の場合、たとえば次のようなトラブルが後に発生することが懸念されます。
①「100万円で全て終わりにするとは言っていない。最低でも100万円はないと納得できないという意味だった」と相手方が言ってきた。
②「100万円は、不倫が3ヶ月前からと聞いていたからだ。本当はもっと長かったのだから、追加で払え」と相手方が言ってきた。
③「その100万は私の配偶者が用立てたものだ。あなた自身できちんと身銭を切って100万払え」と相手方が言ってきた。
④あなたが支払った100万円について交際相手に求償請求した。するとそれが相手方に伝わり「あなたに全額支払ってもらうつもりで100万円にまけてあげただけだ。求償請求するなら100万円では足りない」と相手方が言ってきた。
⑤「配偶者に一切接触しないのは当たり前だ。それなのに接触したのだから追加で慰謝料を払え」と相手方が言ってきた。
示談内容についてこのような争いが発生してしまった場合、口約束だけだと「言った」「言わない」の話になってしまい、非常に面倒な事態になってしまいます。
しかし、きちんとした示談書を作ってさえおけば、こういったトラブルが生じる可能性をかなり低減することができます。
「示談書にはっきりここにこう書いてある(=こういう内容で合意した&これ以上は合意していない)」と後から証明することができ、最終的・終局的な解決を図ることが可能になるのです。
示談書を作るのは、不倫慰謝料問題を最終的・終局的に解決するためです。
示談書の中には、慰謝料の額以外にも、色々な内容が書かれることがあります(ex.相手方に対する謝罪のことばなど)。本質的には「そこに書いてある約束を果たせば、お互いに一件落着とする」という意味で作るものが示談書です。
不倫慰謝料を請求されているあなたの立場からいえば、解決した(と思った)後で相手方にゴールポストを動かされてしまわないように、あなたが相手方に対して果たすべき約束の内容をきちんと固定するために作るのが、示談書です。
(備考)相手方にとっても、あなたの約束した内容を明確化する、というメリットがあります。
示談書で最も重要な内容は、不倫慰謝料額がいくらか、慰謝料をいつまでにどのように支払えばよいかです。
書面できちんと「100万円」と明確に記載しておけば、金額についての争いはかなり発生しにくくなります。もっとも、次に述べる清算条項を設けておく必要があります。
「示談書の中で明確に約束していること以外には、すべきことは一切ない」という意味の条項です。
たとえば「あなたは相手方に100万円を支払う。清算条項有」という示談書の場合、「あなたが相手方に対してすべきことは100万円を支払うことだけで、それ以外にすべきことは一切ない」ということになります。
(備考2)ちなみにこの場合、相手方の義務は記載されていませんので「相手方があなたに対してすべきことは一切ない」という意味にもなります。
示談書は契約書ですので、双方が一部ずつ保管すべきものです。ところが実際には、次のようなケースも多いようです。
「双方本人同士で話し合って示談書を作った。示談書は相手方だけが持っていってしまい、私は控えすら渡してもらっていない」
そうなると、あなたには「どういう内容で示談したのか」という肝心な点が分かりません。あなたにとっては、示談書を作った意味が全くないのです。
示談書を作るのであれば、同じ内容のものを示談する人数分だけ作って、各自が一部ずつ持ち帰る形にすべきです。あなたとしては、「そういう形にならないなら示談書にはサインできない」といって、示談書へのサイン自体を断るべきでしょう。
(備考3)一般的にはあなたと相手方の二部です。しかし、たとえばダブル不倫のケースで四人全員で示談する場合なら、同じ内容のものを四部作って各自保管することになります。
示談書は、それにサインをした人同士の約束です。サインをしていない人は、示談書にサインをしていない以上、示談書の内容に縛られる理由もありません。
たとえばダブル不倫のケースで、「あなたが相手方に100万円を支払う、清算条項有(=それ以外にすべきことはない)」という示談書に、あなたと相手方の二人がサインをしたとします。
この場合、あなたの配偶者は示談書にサインをしていませんので、その内容には拘束されません。あなたの配偶者はあなたの交際相手(=相手方の配偶者)に対して不倫慰謝料を請求することが可能ですし、それが100万円を超える額であっても、示談書違反になるわけではありません。
示談書を取り交わすデメリットもあります。典型的には「後からその内容に不満が出てきても、これを争うことが難しくなってしまう」というリスクです。示談書は双方の約束内容を明確化するために作るわけですから、その反面として、ある意味当然のことでしょう。
したがって、よく考えもせずに迂闊に内容を示談書にまとめてしまったり、相手方から言われるまま示談書にサインしたりしてはいけません。
ところが実際は、相手方の要求に抵抗しきれず示談書にサインしてしまい、後から不満・不安が出てきたという例も少なくはありません。
「不倫慰謝料300万円を払うという示談書に書かされた。相場からすると高すぎるみたいなので減額したい」
そういうご相談は、しばしば目にするところです。
あなたとしては、そのような事態に陥らないように、サインする前に細心の注意を払うべきです。あなたの立場で相手方の要求やサインを断るのはどうしても気が引けるかもしれませんが、そんなことを言っている場合ではありません。きちんと内容に目を通し、もし納得できない点があればサインすべきではありませんし、減額交渉などを試みるべきです。自分自身で試みることは精神的に耐えられない人も多いでしょう。それならすぐに弁護士に依頼すべきです。
示談書にサインした後でその内容を争うというのは、どうしても難しくなりがちです。そのことを忘れてはいけません。
(備考4)当事務所では、示談書でサインさせられた額から減額する形での再示談を成功させた例もいくつかあります。もっとも、示談書にサインしていない場合に比べれば、相対的には不利になることは否めません。
弁護士を入れずに双方で示談書を作るという場合、インターネットから(多くの場合は慰謝料請求する側が)拾ってきたサンプル・テンプレートを流用し、単純に名前と慰謝料額だけを書き換えて作るというような場合もあるようです。
それが一概に不適切とまでは言い切れませんが、かといってそれで十分だとは限りません。重要なことは、①相手方とどこまでを合意することになるのか(ex.100万円を9月末日までに支払わなければいけない)、どこからは合意から外れるのか(ex.相手方配偶者への求償権行使は禁じられていない)をきちんと認識したうえで示談し、②その内容について争いにならないように示談書にまとめることです。
不倫慰謝料を請求されて口約束だけで慰謝料を支払ってしまう人は、実際少なくはないようです。
「正式な示談書を作るのは気が引ける」「示談内容を流出させられたら困るから紙には残したくない、口約束で済むならそのほうがありがたい」といった理由のようです。
しかし、示談書を作らず口約束でまとめてしまうのは大きなリスクがあります。合意して一件落着と思っていたのに「まだ合意していない」と言われることすらあります。何を合意したのか、何は合意していないのかについて後から揉めることもあります。
このような事態を避けるため、きちんとした示談書を作ったうえで、その内容に基づいて慰謝料を支払う形にすべきです。示談後にトラブルになる可能性は、示談書を作れば絶対に無くなるとまでは言えません。しかし、そのリスクをできるだけ下げることは可能です。
示談書を作ることで、その内容に不満があっても覆しづらくなるというデメリットもあります。逆に言えば、示談書にサインする前に、減額交渉などを試みておく必要があります。
不倫慰謝料問題を弁護士に依頼すれば、どういう内容で示談するかの交渉(ex.慰謝料減額、口外禁止条項の挿入など)はもちろんのこと、示談書作成も弁護士が行います。そのため、相手方から言われるがままの内容で示談書を作ってしまう事態も避けられます。あなた自身で相手方に対応する精神的重圧なども考えれば、相手方から不倫慰謝料を請求された時点で、弁護士に依頼して対応していくことをお勧めします。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
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