このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
不倫慰謝料問題について話し合って示談することになったら、双方で約束したことを書面にまとめることになります(示談書)。
示談書は示談の証として作成するものですが、その内容や作成経緯によっては、後になって有効性が争いになることもありえます。
はじめに示談書について簡単に説明します。
その後、不倫慰謝料を請求された側/請求する側それぞれの視点から、どのような点に気をつければよいのかを解説していきます。
示談というのは法律用語ではありませんが、「民事上の争いを、法律的な手段をとることなく話し合いで解決すること」というような意味です。
示談内容を書面にしたものが示談書です。なぜ示談書を作るのかというと、一言で言えば約束内容を明確化するためです。
(備考)示談とよく似たものとして和解契約があります(民法695条)。和解契約では当事者が互いに譲歩することが要件とされています。一方が他方の要求を丸呑みした場合、互いの譲歩はありませんので和解契約ではありません。
示談書を作らず口頭だけで済ませると、「そもそもそんな約束はしていない」と揉めてしまう可能性があります。
約束したという点では認識が一致していても、何をどこまで約束したのか、内容について争いになるかもしれません。
相手方が「口約束だけだから守らなくても平気だろう」という態度に出てくることもあり得るでしょう。慰謝料を支払った後で蒸し返されるかもしれません。
示談書を作るのは、そうしたことのないように、事件を最終的に解決させるためです。
不倫慰謝料に関する示談書としては、例えば以下のような内容を入れるのが一般的です。
もっとも具体的な経緯・事案の内容によって、入れるべき事柄は異なってきます。
①示談をする当事者の氏名など
②不倫についての謝罪のことば
③慰謝料額、支払方法
④今後は会わない、連絡しないといった約束(接触禁止条項)
⑤この内容でお互いすべて解決とする、後で蒸し返さないという約束(清算条項)
(備考2)接触禁止条項については次のリンク先をご参照ください。→ 接触禁止文言とは
(備考3)示談後に再度不貞があった場合は清算条項の対象外です(不倫慰謝料を別途請求しうる)。
示談の意思表示に問題があったり、示談内容自体が公序良俗違反に当たったりする場合には、示談書が無効になる(=裁判所の力を借りて約束を守らせることができなくなる)ことがありえます。
そもそも示談書で約束したことを守らなければならないのは、当事者が自分の自由意思に基づいてその内容を約束したが故です。
示談の際に当事者に誤解があったとか(錯誤)、脅迫行為があった(強迫)ような場合は、その内容を守れとは言えなくなるからです。
また、約束の内容自体が公序良俗違反となる(=公の秩序や善良の風俗に反する)場合、裁判所としてもその内容を守れとはいえないからです。
もっとも、示談時にちょっと誤解や気後れがあったからといってただちに錯誤や強迫が成立する(示談取消し→無効となる)というわけではありませんし、内容的に慰謝料額が高めだからといってそれだけですぐ公序良俗違反になる(→無効となる)わけでもありません。
不倫慰謝料を請求された側にとっても、示談書を作るメリットはあります。
相手方に対して果たさなければならない約束の内容を明確化し限定できるというのは、非常に重要なメリットです。
その約束さえ果たしてしまえば、相手方との不倫慰謝料問題は終わりになるからです。
示談書の内容がたとえば「100万円を9月末までに払う、清算条項」というものであったとします。
この場合、払わなければならない額は100万円に限定されることになります。すなわち「100万円は払う。しかしそれを超えては何も約束していない」と言えるわけです。もっとも、示談書作成にあたってきちんと内容を吟味しておかないと、約束の内容が限定されておらず、したがって不倫慰謝料問題も最終的に解決されてはいない、ということになりかねません。
(備考4)示談書を作らずに不倫慰謝料を払うのは避けるべきです。約束内容が明確でないため、同じことで後から追加請求を受ける可能性があるなど、リスクが高いからです。参照:口約束で不倫慰謝料を支払って大丈夫?
不倫慰謝料を請求された側の立場からいうと、何よりもまず注意しておかないといけない重要なことは、示談書作成後に内容に異議を唱えるのは事実上難しくなることです。
言い換えれば、「内容に不満があるのなら示談書にサインしない」「サインする前に示談内容が適正になるようにきちんと交渉しなければいけない」ということです。
ただ実際には「相手方に呼び出されて示談書にサインさせられた。どうしたらいいですか」というご相談も多いです。
「サインさせられた」というのは不倫がバレた手前サインを断ろうにも断れなかった、条件交渉にもならなかった…ということでしょうが、その程度で示談書が無効になるというという可能性は低いと言わざるを得ません。
ではもうどうしようもないのか?というと、そうとは限りません。項を改め説明します。
(備考5)「サインさせられる」のは、相手方からの呼び出しに応じてしまうからです。出向かず弁護士に依頼すべきです。そして「弁護士を通じてきちんとお話し合いをさせてほしい」と言えば、話し合いの意思があることは相手方に伝わります。出向くことが唯一の選択肢ではありません。
(備考6)呼び出しに応じても、相手方が激怒しており交渉にならないとか、相手方への引け目から条件交渉が憚られるというようなことも多いです。そこで諦めてサインするのではなく、サインせずにその場を辞し、弁護士に依頼すべきです(後述)。
「不倫慰謝料800万円を9月末までに払うという示談書にサインさせられてしまった。内容的に不利すぎると思っている」というような場合、その示談書を持参のうえで弁護士に相談すべきです。
当事者同士で取り交わした示談書には、内容や作成過程において問題が見受けられることも多々あります。自分1人で悩まないで弁護士に見てもらいましょう。
(備考7)最善なのは、示談書にサインする「前に」弁護士に相談することです。弁護士に依頼すれば、示談内容についての交渉等もしてもらえますから、不満のある内容で示談を強いられることがそもそも無くなります。
示談書を作った後に内容に異議を唱えるというのは、先にも述べたように難しいのが現実です。
とはいえ、その示談書に不服がある=約束を守れないと現実に主張しているわけですから、相手方としても「示談書で取り付けた約束が守られなさそうだ」と認識することになります。
そうすると場合によっては、相手方が早期解決のため「多少譲歩するから、その内容はきちんと守れ」と言って、示談書の作り直し(=再示談)に応じてくれるかもしれません。特に示談書に色々と不備が見られる場合には、その可能性も高まってくるでしょう。
相手方としては、示談書作成によって約束を確実に取り付けたと思っています。そのため「示談書で解決済みだ」ということで、再示談交渉ができないこともあります。
この状況で示談書の約束を果たさないと、相手方が訴訟を提起してくる可能性が高まります。
先の例でいえば、示談した800万円を9月末までに支払わなかったら、相手方が「800万円を払え」という訴訟を提起してくる可能性が高いです。
(備考8)「800万円を払わず支払期日を過ぎたが、相手方から訴訟は提起されていない」ということもあるでしょう。しかし、消滅時効期間満了までには訴訟提起される可能性が極めて高いと思われます。
仮に相手方と再示談交渉ができない場合は、相手方が提起してきた訴訟の中で示談書の不備を指摘して有効性を争っていき、示談よりも有利な解決を目指すことになります。
相手方(原告)としても、判決まで至るとなれば解決までに相当長期間がかかるうえ、判決で命じられた額を現実に回収できるか(きちんと払ってもらえるか、強制執行で取立て可能か)等について懸念を抱かざるを得ないです。
そのため、示談書よりも有利な内容で和解が成立する可能性もありえます。
和解がまとまらず判決となる場合には、法律的観点から示談の無効を裁判官に認めてもらえるかどうかの問題になります。
示談書の内容に全く異存がないという場合ならともかく、「この内容のまま作って大丈夫なのか、不利過ぎるのではないか」などと悩んでいるのなら、サインする前に弁護士に相談すべきです。
そして弁護士に依頼すれば、慰謝料額等についても相手方と交渉してくれることになりますし、相手方の言いなりの内容で示談を強いられることも無くなります。
相手方と示談が調う場合には、形式的にも内容的にも整った示談書を作成してくれますし、示談が調わず相手方から訴訟提起された場合でも、適切に対応していくことができます。
不倫慰謝料を請求する側にとっては、示談書を作ることで、相手方に求める内容を明確化し、その約束をきちんと果たすよう心理的圧力を掛けることができます(ex.「300万円を9月末までに払う」「示談日以降、夫と一切会わない」)。
そして仮に約束が果たされない場合に、その履行を求めることが容易になります。
たとえば示談書で300万円と合意したのに相手方が100万円しか払ってこなければ、相手方に差額200万円を請求できることになります。
示談書を取り交わしていない段階で「不倫慰謝料300万円を払え」という請求をするのと、「示談書の約束に基づいて300万円を払え」という請求をするのとでは、後者のほうが容易になります。
前者では精神的損害が300万円であることを最終的には訴訟の場で立証しないといけませんが、後者では示談書を見れば300万円と合意したことは明らかだからです。
不倫慰謝料を請求する側の立場から言うと、示談書を作成すれば「自分でその内容を約束したのだから遵守しろ」と相手方に言いやすくはなります。
とはいえ、ゴールは示談書作成それ自体ではなく、事件を解決し、約束を相手方に果たさせることのはずです。
作成経緯や内容について争いとなりうる火種を残すのは避けるべきでしょう。
示談書作成にあたっては、後に相手方から「自由意思でサインしたわけではない」などと言われないように、話し合いをする場所や言動に気をつけておくべきです。
喫茶店のようなオープンスペースで、相手方も自由に発言や退出ができるような状況で作成するほうがよいでしょう。
サインするときの状況を録音しておくのもよいかもしれません。
示談書を公正証書で作っておくことも一つの方法です。
この場合、①もし慰謝料が期日までに支払われないと、裁判を経なくても、公正証書を基に強制執行できるというメリットがあります。また、②示談書が有効だと判断される可能性が高くなることもメリットです。
ただしデメリットとして、作成するには費用が掛かってしまいます(公証人への手数料)。
公正証書は、不倫問題の当事者ではない第三者の(しかも法律の専門家である)公証人が関与する形で、当事者双方が中立の場所(=公証役場)に赴いて作成するものです。そのため、内容を公証人にチェックしてもらうことができますし、「この示談書(公正証書)は、勘違いや強迫によるものではないから有効だ」と後で言いやすくなります。
これに対し、示談書が公正証書ではない場合は、約束の金額が支払われなければまず裁判で請求する必要があります。
裁判に勝訴すれば、その金額を支払ってもらう権利があると認めてもらえたことになります。強制執行ができるのはその後のことです。
また、公正証書の場合と比べると、示談書の作成状況などを争われやすくなります。たとえば「示談書は脅迫されて仕方なく作らされたものだ」「監禁されてサインしないと帰さないと言われた」というような主張を、相手方がしてこないとは限りません。
示談書を作成するのは、その約束を果たすことで不倫慰謝料問題を最終的に解決するためです。
作成するメリットは、不倫慰謝料を請求する側/される側双方にあります。
不倫慰謝料を請求する側としては、相手方に約束を確実に守らせることに繋がります。双方で作成した示談書は一応有効だとみられるからです。
しかし、最終的に解決すべく作成しているのに、「有効だ、無効だ」という争いに形を変えてトラブルが続いてしまうのでは意味がありません。無効だと言われかねない要素は事前に排除しておくべきです。
不倫慰謝料を請求される側としても、示談書作成により、相手方に果たすべき約束の内容を限定(特定)することができます。その約束さえ果たしてしまえば最終的解決がもたらされます。
もっとも、一旦示談書を作成してしまうと、その無効が認められるハードルは高めです。そもそも約束内容に納得いかない(ex.慰謝料額が高すぎる)場合にはサインしてはいけません。サインせずに弁護士に依頼し交渉していくべきです。
仮にそれで話がまとまらなくても、裁判を通じて減額等ができるかもしれません。仮にもし不利な示談書にサインしてしまった場合でも、「もう争えない」とすぐ諦める必要はありません。弁護士に相談して対応策を検討しましょう。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
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