このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
浮気相手から慰謝料を請求された、という場合があります。
たとえば「夫Aには妻Bがいる。Aは女性Cと肉体関係を持っていた。AはCから慰謝料を請求された」というケースです。
(AからみればCと浮気しており、CからみればAと不倫している状況)
Aとしては「お互い合意のもとで男女の仲になって交際してきたのに、突然トラブルになった」と思っているかもしれません。
しかしC(浮気相手)の側としては「騙されていた、都合良く遊ばれた」などということで、強い怒りの感情を抱いていることがあります。
この記事では、浮気相手から慰謝料を請求された既婚者の立場から、その対応方法・対処法や裁判所で慰謝料が認められてしまうケースなどを紹介・解説しています。
まずは冷静に対応することを心がけましょう。
浮気相手の慰謝料を請求する意思が明確かつ確固である場合は、弁護士に相談することも考えましょう。
穏便かつ妥当な内容での解決に向けて、冷静に対応することがポイントです。
あなたがそのような姿勢を見せていけば、浮気相手も落ち着きを取り戻してくるかもしれません。
浮気相手のいう慰謝料額は、「私の精神的苦痛を慰めるにはこの額が妥当だ」といった趣旨のものです。
浮気相手のいう金額を裁判所が認めるかどうかは、もちろん別問題です。
しかし他方で「お互い合意のうえだったから、慰謝料が発生する余地は皆無」とは限りません(後述)。
浮気相手が慰謝料を請求してきたという時点で、それ相応の強い怒りの感情などを抱いていることが推測できます。
それに対してあなたが感情的に反応するのは、火に油を注ぐようなものです。
浮気相手から「配偶者にバラす」「動画をばらまく」などと脅迫されることにもつながりかねません。
浮気相手からの連絡を無視するのは避けるべきです。
無視していると、浮気相手が弁護士に依頼したり裁判にしたりするかもしれないからです。
浮気相手が「話ができないなら・・」といって自宅や職場を訪問してくるなど、事実上の抗議行動に出てくる可能性も否定できません。
話し合いの場を設けるなら、まずは誠意をもって話し合うことを心がけましょう。
もしあなたに不適切なところがあったのであれば、謝るべきところは謝ったほうがよいかもしれません。
とはいえ、浮気相手の認識を確認したり、認識が間違っていれば正したり反論したりすべきときもあるはずです。
落ち着いて理性的に話をしてみましょう。
発言内容が録音されており、証拠にされるかもしれません。
話をしてみた結果、何らかの結論や合意に至ることもあります。
一般的な話としては、浮気相手に金銭を渡す形で円満解決を図るような場合もありうるでしょう。
(いわゆる手切れ金を渡して穏便に関係を清算)
あえて示談書を取り交わさないケースも多そうですが、それまでの経緯等によっては、後でまた揉めないように取り交わしておくべき場合もあります。
「理性的に話をしようとしたが話が通じない」「話をしてみたがそれでも結論が見えない」といったこともあるかもしれませんが、それはそれでやむを得ません。
浮気相手としては、それでもあなたに慰謝料を請求したいという強い意思があるのならば、弁護士に依頼するなどして次の段階に進めてくるはずです。
「浮気相手の弁護士(法律事務所、弁護士法人)から連絡がきた」
「裁判所から訴状が届いた(訴えられた)」
こうした場合には、すぐに弁護士に相談すべきです。
弁護士をつけたとか訴えたということなら、浮気相手のあなたに対する慰謝料請求意思は固くて明確だからです。
この段階に至ってあなた自身で穏便に済ませようとしても、事実上難しいことが多いでしょう。
浮気相手本人からの請求の場合、慎重な検討が必要です。
「慰謝料を請求する」と言っていても、恨み言の一つにすぎず本気で請求していくつもりはない、という場合もありうるからです。
あなたと話したいのに話ができないのでそう言っているだけ、なのかもしれません。
これまでの経緯を踏まえて、浮気相手のあなたに対する慰謝料請求意思が固いと判断される場合には、弁護士に相談してみるのもよいでしょう。
浮気相手の慰謝料請求が認められるケースとしては、いくつかの場合が考えられます。
浮気相手から、貞操権侵害を理由とする慰謝料を請求される可能性があります。
貞操権というのは性的自由=誰と性交渉を持つのかを自由に決める権利のことです。
「既婚だと知っていれば、肉体関係なんて持たなかった。あなたは独身だと騙して、私の貞操権を侵害した」というわけです。
人格権侵害、自己決定権侵害といった名目のこともあります。
後記のとおり,貞操権侵害等を理由とする慰謝料が実際に認められた裁判例があります。
裁判例をみてみると「既婚者であることを隠したうえ浮気相手との結婚意思があると偽った」というケースが多いようです。
浮気相手が妊娠・中絶するとなると、母体が身体的・精神的苦痛にさらされたり、経済的負担をせざるをえなくなったりします。
裁判例では、「こうした負担は性行為によって生じる以上、性行為をした男女が等しく不利益を分担すべきである。不利益を軽減・解消する行為をしないとか分担しないということであれば慰謝料が発生する」と判断したものがあります。
つまり、浮気相手の妊娠・中絶について、その身体的・精神的苦痛や経済的負担を軽減する行動をせず無責任・不誠実な対応をしていたとか、自らの責任を全く顧みなかったような場合には、慰謝料が認められてしまう可能性があります。
また、浮気相手との性行為にあたって避妊せず妊娠・中絶させたというような場合にも、慰謝料が認められる可能性があります。
さらに場合によっては、浮気相手=被害者、あなた=加害者という刑事事件に発展する可能性もあります。
なお、慰謝料(精神的損害の賠償)以外にも、中絶費用や医療費など経済的損害の賠償が認められる可能性もあります。
重婚的内縁とは、配偶者のある人が別の人と内縁関係にある場合のことです。
あなたと浮気相手との重婚的内縁・婚約が法律的保護に値すると認められる場合には、浮気相手の慰謝料が認められてしまう可能性があります。
典型は、重婚的内縁を不当破棄した場合です。
重婚的内縁が法律的保護に値すると判断する前提として、婚姻関係形骸化を必要とする裁判例も少なくないようです。
つまり、あなたとの重婚的内縁・婚約成立を主張する浮気相手の慰謝料が認められるための条件として、あなたと配偶者との夫婦関係が破綻に瀕しており実態がない状況であることが必要である、という裁判例が少なくありません。
「浮気相手から請求された慰謝料の中身は、浮気相手があなたの配偶者に支払った慰謝料の一部である」というケースです。
この場合、浮気相手は「あなたの配偶者の慰謝料について、あなたも自分の責任を果たしてほしい」といって請求してきています。
(浮気相手から求償権を行使されている状態)
この場合、「浮気によって傷ついたあなたの配偶者の慰謝料を、二人がどのように負担しあうか」ということが問題になっています。
もともと、あなたの配偶者の慰謝料を支払う義務は、あなたと浮気相手がそれぞれ負っているものです。
あなたの配偶者の慰謝料を二人がどのように負担しあうかは、二人の責任割合によって決められることになります。
その際、浮気・不貞行為をどちらが主導したのか、どちらに大きな責任があるのか、といった点が問題になってきます。
浮気相手は「あなたから酷いことをされて私は傷ついた。だから慰謝料を払ってほしい」と言っているわけではありません。
そのため、浮気相手自身の慰謝料は問題にされていません(貞操権侵害などとは違います)
「浮気相手に対しての、民法上の不法行為・損害賠償請求権が問題になっている」状況とは違います。
公表されている裁判例から、例えばどれくらいの慰謝料が認められた判決があるのか、どれくらいが相場・目安なのかを見てみましょう。
裁判例はあくまで当該事案・事実経緯を前提にして下された裁判所の判断ですので、その点はご注意ください。
①「既婚者であることを隠し、結婚意思があるかのように偽って交際を継続し性交渉を行った。浮気相手に子供を得れば結婚できると信じ込ませた。浮気相手の年齢的に、妊娠するためには十分な時間的余裕がない時期であった。交際期間は1年未満」というケースです。
→70万円の慰謝料が認められています(東京地裁)
②「既婚者であることを隠し、自身のプライベートな話を打ち明けるかのような言動をして浮気相手に信頼感を与えたり浮気相手との結婚をほのめかす発言をしたりして交際・性交渉に及んだ」というケースです。
→50万円の慰謝料が認められています(東京地裁)
③「既婚者であることを隠し、浮気相手と婚姻する意思がないのにこれを秘して3年以上肉体関係を伴う交際を続け、浮気相手は子を産むための最後の機会ともいえる期間を無為に費やすこととなった」というケースです。
→400万円の慰謝料が認められています(東京地裁)
①「妊娠判明後、産むか中絶するか、産んだ場合には協力して育てるかいずれか一人が育てるのかを決定しなければならない事態に至ると、男性は有効な解決策を提示出来ずに話し合いに応じなくなった」というケースです。
→60万円の慰謝料が認められています(東京地裁。独身者同士の事例で、別途医療費等が認められています)
②「男性が、中絶手術を受ける病院を一緒に探したり、一緒に病院に行ったり費用負担をしたりしたことがあった」というケースです。「女性の妊娠・中絶の負担を軽減する義務の違反はないが、妊娠を避けるような方法を採るべき義務の違反はあった」とされています。
→80万円の慰謝料が認められています(東京地裁。独身者同士の事例で、別途治療費等が認められています)
③「男性が、既婚者である事実を告げずに交際を持ち掛け、交際開始後には妻とは離婚したなどと積極的に虚偽の事実を告げたうえ、将来的には結婚することもほのめかして避妊具をつけない性交渉を継続していた。さらには既婚者であることを隠しながら、女性が出産を希望するのを非難して中絶を余儀なくさせた」というケースです。「性に関する意思決定の自由や人格権を侵害する」ともされています。
→200万円の慰謝料が認められています(福岡高裁。別途、中絶関連費用等が認められています)
「男性が、妻との婚姻関係が形骸化したのち浮気相手と内縁関係に入った。20年以上にわたる内縁関係を一方的に破棄し、70歳近い浮気相手を相応の財産的手当をすることもなく遺棄している」というケースです。
→400万円の慰謝料が認められています(東京地裁)
弁護士に依頼すると、メリットがあります。
①浮気相手には弁護士が対応しますので、あなた自身で浮気相手に直接接触する必要はなくなります。
「浮気相手から毎日責められて、思い悩んで仕事に手がつかない」といった状況を脱却して精神的に落ち着きますし、生活が安定します。
②弁護士に依頼することで、浮気相手に対して、法的見地に基づいて対応していくことができます。
浮気相手の言い分やその根拠には、法的にみると無理があることも多いです。
とはいえ、あなた自身で慰謝料支払いを拒否するのは心情的にできない(言い出せない)ことも多いと思います。
その場合でも弁護士なら、支払いを拒否することもできるでしょう。
もし浮気相手が裁判を提起してきたとしても、弁護士が裁判手続きを代理しますので、あなた自身で裁判所に行く必要はほぼありません。
③弁護士が交渉すれば、減額、分割払や早期解決が実現できる可能性が出てきます。
浮気相手としても、「弁護士がついている以上、怒りに任せて要求を続けても埒が明かない。話が決裂したら裁判しかない」という認識をもつでしょう。
弁護士に依頼することで、浮気相手と合理的な話し合いができる可能性が出てきます。
浮気相手としても早期解決を志向して、慰謝料(解決金)を受け取る形であなたとの関係を清算することを希望するかもしれません。
弁護士に依頼する場合のデメリットは、費用面です。
費用の主なものは、着手金、報酬金です。
浮気相手に慰謝料を支払う場合、弁護士費用の支払いとダブルで発生することになります。
浮気相手から慰謝料を請求されたら、まずは落ち着いて対応しましょう。
慰謝料を請求する意思が固くて明確なら、弁護士に相談しましょう。
特に「浮気相手の弁護士から連絡があった」「裁判所から訴状が届いた」という場合です。
その場合、早期に弁護士に相談することが重要です。
浮気相手に言質を取られてからようやく相談するとか、浮気相手に向き合わないまま時間だけが過ぎて怒りを増幅させてしまった、というような事態は避けましょう。
裁判例でも、浮気相手からの慰謝料請求が認められた事例があります。
言い換えると「浮気相手も同意して関係を持っていたのだから、慰謝料を払う義務は無い」で済むとは限りません。
浮気相手からの慰謝料請求には、きちんと対応することが必要です。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
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