このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
「会社を辞めろ。今後一切夫に関わるな」というように、相手方(=交際相手の妻)から、強く退職を要求されることがあります。
交際相手が同じ職場の上司だったとか同僚同士の不倫の場合には、しばしば問題になることです。
会社を辞めろと言われても、当然ながらそう簡単に辞められるわけではありません。
とはいえ「ただでさえ不倫がバレて激高されているのに、要求を断ったりなんかしたらどうなるか…」と心配になってしまいますね。
不倫や不貞行為を理由に相手方から会社を辞めろと要求されている場合、どのように対応していけばよいのでしょうか?
(参照)不倫を会社にバラすと言われたら
不法行為というのは、故意(わざと)・過失(うっかり)で他人の利益を侵害することです。
不倫や不貞行為に及んで相手方と交際相手の婚姻関係を侵害した場合、それにより相手方が受けた損害を補填するための賠償をする義務があります。
(備考)不倫により損害賠償義務が発生するのは、主に不貞行為(=性交渉)があった場合です。
ここで相手方に発生しうる損害には精神的損害と経済的損害があります。
前者の精神的損害というのは精神的苦痛のことで、それを填補する損害賠償を「慰謝料」と呼んでいます。
後者の経済的損害というのは、たとえば調査費用(探偵の費用)や弁護士費用といったもので、その損害賠償が認められてしまう可能性もありえます。
もっとも裁判では、相手方の要求する内容がそのまま認められるとは限りません。
精神的損害(慰謝料)もそうですが、経済的損害(相手方が支出した探偵費用など)も同様です。ごく一般論としていえば、訴状で請求されている慰謝料額が高額すぎることはよくありますし、経済的損害が認められるとしてもごく一部に留まる可能性が高いと思われます。
仮に、相手方が探偵に300万円を支払っていたとします。
「不倫慰謝料●万円(精神的損害の分)+300万円(経済的損害の分)」の賠償を裁判官から命じられるのか?というと、そういうわけではありません。
経済的損害として認められるのは300万円のうちのごく一部にとどまる可能性が高いでしょう。また、判決で認められる弁護士費用は、相手方が実際支払った額ではなく、「損害額(≒慰謝料額。調査費用などが認められる場合はそれに加算。)の10%」が多いです。
(備考2)相手方の訴状でも、弁護士費用は実際支払った額ではなく、損害額の10%とされていることが多いと思われます。
示談・和解の場合、慰謝料でいくら経済的損害分でいくらという内訳よりは、ひっくるめた支払額総額が主たる関心事になることが多いでしょう。
相手方の精神的損害にせよ経済的損害にせよ、金銭で賠償することになります。これを金銭賠償原則といいます。
不法行為があったときの被害の補填(回復)は、不法行為をした者に金銭で償わせるというのが民法の立場なのです。
不倫・不貞行為が不法行為に該当する場合も同じで、不倫や不貞行為で相手方に与えた精神的苦痛等は金銭で賠償することで償うべし、というのが法律上の取り扱いです。
(備考3)例外として、不法行為の中でも名誉棄損の場合には「名誉を回復するのに適当な処分」(例えば謝罪広告)も認められています(民法723条)。
もっとも、金銭賠償原則があるからといって、「会社を辞めろという要求自体が一切禁止される」ということではありません。
もちろん場合によっては、その要求行動が刑罰法規に抵触するなどの可能性も出てきうるかもしれませんが、それはまた別問題です。
相手方とあなたが話し合って、あなたが納得のうえで例えば退職するとか別の事業所に移るといったような合意に至ることも、可能性としてなくはありません。
お互いが自由意思により納得し合意している以上、そのことに特段問題はありません。
会社を辞めろという要求に応じる法的義務はなくても、あなたが自由意思でそれを承諾するのなら別です。
退職後に自由意思では無かったなどと言っても事実上手遅れです。会社を辞めたくないなら「退職には応じない」という態度を貫いて対応すべきです。
民法では金銭賠償原則が採用されている以上、不倫や不貞が事実だからといって、会社を辞めなければならないような法的義務はありません。
もし相手方がそのような要求を裁判で主張し続けてきたとしても、裁判官が退職しろなどと判決で命じることは、通常は考えられません。
相手方が「会社を辞めるなら不倫慰謝料は払わなくて良い」と提案してくることもありうるでしょう。
双方がその内容で示談することを良しとするのなら、その合意に基づいて慰謝料を払う必要はなくなります。
もっとも、相手方から「『払わなくて良い』というのは、今は請求しないというだけの意味だった(不倫慰謝料請求を保留しただけ)」などと後から言われては困りますから、双方の約束ごとをきちんとした示談書の形にしておくべきでしょう。
(参照)不倫慰謝料の示談書(請求側・される側双方の視点から)
相手方が「不倫慰謝料を払わなくて良い」とまで言っていない場合には、要求に応じたから慰謝料は払わなくてよいはずだと言っても、当然ながらそれは通用しません。
裁判官が慰謝料額を決める際には諸般の事情が考慮されますので、相手方の要求に応じたことを多少考慮はしてくれるかもしれませんが、せいぜいその程度のことにすぎません。
会社を辞めろという要求に応じたうえに後から不倫慰謝料を請求されるとなれば、非常に大きな打撃を蒙ることになります。
「会社を辞めろ」と言われて、それにすぐ応じられる(応じようと思う)人は少ないでしょう。
応じられないのなら、要求を明確に拒否し続けるべきです。
もし少しでも応じる素振りを見せようものなら、ますます相手方からのプレッシャーが強まってしまいます。
先にも述べたように、不倫・不貞が事実でも、損害賠償を支払うことはともかくとして、退職に応じる義務はありません。
法律上義務のないことを要求されているのですから、拒否し続けても問題はありません。
「会社を辞めるという約束はできないが、それは交際を続けたいからではない。そのつもりはない」ということを粘り強く説明していき、不倫慰謝料や接触禁止約束などについてきちんと話し合いを進めていくことで、誠意を伝えるべきでしょう。
相手方としても「退職はさせられなくても、接触禁止約束を取り付けられるのなら」などと考え、交渉に乗ってくるかもしれません。
もっとも、退職しない方向で話し合いがまとまるとは限りません。相手方はなおも退職しろと言い続けるかも知れません。
その場合、あなたとしては話し合うためにできるだけのことをしたのであれば、示談交渉を断念して、相手方からの出方を待つことになります。
相手方が訴訟提起して判決に至る場合、損害賠償(お金)の金額だけの問題になり、退職を強いられることはありません。
訴訟提起せず延々と接触してくることもあるかもしれませんが、場合によっては警察に相談するなどの対応も考えられます。
「退職には応じられない」というだけに留まらず、業務上の必要もないのにプライベートで交際相手と頻繁に会っているとか、肉体関係も継続しているのではないかと疑われるほどに親密な関係が続いているというような話になってくると、相手方の精神的苦痛がさらに大きくなってしまいます。
そのような接触が継続していることを知れば、相手方がさらにあなたに反発するでしょうし、示談がまとまる可能性も遠のいてしまいます。
その後裁判になった場合も、裁判官があなたの行動を悪質だと考え、不倫慰謝料額を増額する方向で考慮されてしまうかもしれません。
不倫で肉体関係を持った交際相手が同じ職場の人だということはよくあります。
相手方から、関係が続かないように退職しろ、職場を変えろなどと要求されることは、しばしば見受けられます。
退職要求を拒否したいというのはごく自然なことですし、法律的にもこれに応じる義務はありません。
不法行為があった場合の損害は、金銭で賠償することが原則だとされているからです。
もっとも、退職に応じないだけではなく、その後も交際相手とプライベートで親密な接触を続けているような場合は、話し合いの機運が遠のきますし、裁判でも不倫慰謝料増額などの悪影響が出てくる可能性もあります。
退職する義務がないからといって要求を聞き流して無視すればいいわけではありません。
応じられないもの(退職)は応じられないが果たすべきもの(金銭賠償)は果たす、(自分が納得・遵守できるならば)一定程度で接触禁止に応じても良い、というような意思を見せてきちんと話し合うべきです。
その交渉に不安があるのであれば、弁護士に依頼して進めるべきです。
仮に交渉がまとまらず相手方から訴えられたとしても、弁護士が引き続き訴訟も対応していくことが可能です。
参考:弁護士に依頼するメリット
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
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