このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
「自己破産したら借金がなくなる」と聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
もし不倫相手が自己破産したら、不倫慰謝料請求権はどうなってしまうのでしょうか?
不倫相手が自己破産して免責が認められると、不倫慰謝料請求権(=不倫相手の側から見ると不倫慰謝料支払義務)は「消滅」してしまいます。
もっとも、この表現は正確ではありません。
「免責が認められた後でも請求することは可能。しかし、不倫相手が支払を拒んできた場合には、裁判所に訴え出ても慰謝料は認められない」
ということになります。
なお「免責が認められた後でなされた不倫についての慰謝料請求」というのは、また別の話になります。
「頑張っても債務を返済しきれない人が、裁判所に申し出て、自分の財産を差し出して債権者に配ってもらう」
自己破産というのは、ごく簡単に言えば、そういう手続きです。
(備考)債務というのは、お金を払う義務のことです。
(備考2)債権者というのは、お金を請求できる権利を持っている人のことです(お金の貸主や、不倫慰謝料請求権を持っている人)。
自己破産した後で、裁判所に免責を認めてもらえると、財産を差し出しても返しきれずに残った債務について、返済する責任がなくなります。
自己破産と免責とは、法律上は別の手続きです。
しかし、免責を認めてもらうために自己破産をするので、「自己破産したら借金がなくなる」というように言われるわけです。
言ってみれば「免責を受けると借金が消滅する・免除される」ということになります。
もう少し正確にいうと「免責を受けると、残った債務は自然債務となる。支払う責任はなくなるので、支払いを強制されることはなくなる」というのが、一般的な考え方です。
(備考3)自然債務というのは、支払う責任の無い債務=裁判で強制的に取り立てられることのない債務という意味です(「債務があるのに支払う責任がない」というのはピンとこないかもしれませんが)。強制ではなく真の自由意思で支払ったなら、その返済は有効です。この考え方からすれば、「免責後に真の自由意思で支払ったのだが、払う義務は無かったのだから、返済したお金を返してほしい」と言っても、返済を受け取った債権者としては返す義務は無い、ということになります。
非免責債権というのは、免責を受けたとしても返す責任が残る債務のことです。
免責を受けると支払う責任がなくなるのが原則ですが、それには例外もあるということです。
非免責債権に該当する可能性が全くないわけではありませんが(破産法253条1項2号、6号)、一般論としては該当しない場合のほうが多いと思われます。
ここでいう「悪意」というのは、不正に他人を害する積極的害意を意味するとされています。
「既婚者だと知っていた」という意味ではありません。
不貞行為の悪質性が高いとしても、それだけで直ちにこの「悪意」があるということにはなりません。
(備考4)東京地裁H28.3.11判決も、「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいう、としています。
わざわざ自己破産するのは、債務を返済する責任から逃れるためです。
不倫相手が、あなたから不倫慰謝料請求権を請求されている状況で、その請求権を債権者名簿に記載しないという可能性は極めて低いでしょう。
不倫相手としては、自己破産する以上、不倫慰謝料請求権も含めて責任から逃れるための手続きを踏むはずです。
具体的には、自己破産申立ての依頼を不倫相手から受けた弁護士が、不倫慰謝料請求権を債権者名簿に載せるはずです。
自己破産しても免責が認められないと(=免責不許可になると)、債務を返す責任はなくなりません。
もっとも、免責不許可となるような事態というのはかなり少ないのが現状です。
(備考5)破産法上は、過大な債務負担などが免責不許可事由(=これがあると免責が認められないという事情)として定められています(破産法252条1項)。しかし裁量免責(2項)が認められることも多いので、「免責不許可事由があれば免責は認められない」というわけではありません。
次のような例を考えてみます。
「R2.6.30に、不倫相手に関係をやめるよう伝えた。それ以後肉体関係はないようだ。翌月、不倫相手に不倫慰謝料を請求したが、R2.11.30に不倫相手が免責を受けた」
R2.6までの不倫について慰謝料を請求していたら、不倫相手が自己破産してしまいました。
そして免責を受けたので、不倫慰謝料を支払う責任から免れることになります。
不倫相手が免責を受けた後で、その不倫慰謝料を請求したらどうなるでしょうか。
不倫相手がもし自由意思で払ってきたら受け取って構いません。
しかし、自由意思で払ってくるケースよりは払ってこないケースのほうが多いでしょう。
不倫相手が払ってこず、あなたが不倫相手を訴えたとします。
おそらく不倫相手は「免責を受けたから支払う責任はない」と反論してくるでしょう。
そうなると、慰謝料を認めてもらうことはできません。
次のような例を考えてみます。
「R2.6.30に、不倫相手に関係をやめるよう伝えた。翌月、不倫相手に不倫慰謝料を請求したが、R2.11.30に不倫相手が免責を受けた。現在も肉体関係は続いている」
この場合不倫相手としては、自己破産免責を受けた後の不倫については、慰謝料を支払う責任があります。
不倫相手が慰謝料を払ってこないので訴えたとします。
もし不倫相手が免責を主張してきたとしても、自己破産免責後の分については、慰謝料が認められることになります。
自己破産しても全ての財産を差し出すわけではありませんし、破産手続開始決定後に財産を得ている可能性もあります。
したがって、免責を受けた不倫相手に請求しても無駄だとは限りません。
しかしながら、不倫相手にはそのような財産もなく回収困難で終わる、という可能性もありえます。
(めぼしい財産も収入も、一切ないかもしれません)
不倫相手が自己破産することがあります。
自己破産すると、事実上ほとんどの場合、免責を受けられます。
不倫慰謝料請求権が非免責債権に該当したり、不倫相手が免責後に慰謝料を自由意思で支払ってきたりする可能性は低いでしょう。
したがって、免責前の不貞についての不倫慰謝料請求権については、回収できない可能性が高くなってしまいます。
もっとも、免責の効力は、免責後の不倫についてまで及ぶわけではありません。
「債務としては不倫慰謝料の分しかない。しかしそれが払えないので自己破産する」
そのようなケースは少ないかと思われます。
しかし「多重債務を抱えていて払えない。さらに不倫慰謝料債務も請求されてしまった。もう自己破産するしかない」というケースはありえることでしょう。
不倫慰謝料請求権が認められるかどうかというのと、不倫慰謝料を実際に回収できるかどうかというのは別問題です。
そのことは、よく考えておく必要があるでしょう。
このコラムの監修者
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