このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
夫のお気に入りの風俗嬢に不倫慰謝料を請求することはできるのでしょうか?
「単に客から指名されたのでサービスを提供しただけだ」
風俗嬢の立場から言えば、そのようにもいえそうです。
裁判例でも、店内での肉体関係について、不倫慰謝料は発生しないとしたものがあります。
もっとも中には、風俗嬢が店外で夫と不貞関係を持っているというケースもしばしば見受けられます。
知り合ったきっかけがたまたま風俗店利用だっただけ。
それ以外は(風俗嬢ではない女性との)一般的な不倫と何ら変わりがない。
そういう場合もあります。
当事務所でも風俗嬢から慰謝料を回収した実績はあります。
(キャバクラ勤務の女性でした)
一般論としては、風俗嬢ではない女性との不倫の場合と比べると、不貞慰謝料請求の難易度が高くなる傾向は有るように思われます。
しかし上記のとおり、一般的な不倫と変わりがないケースも多々あります。
実際に不倫慰謝料を風俗嬢に請求してみると、風俗嬢がいくらかの不倫慰謝料を払う方向で交渉に応じてくる可能性もあります。
このあたりは具体的な事情にもよります。
場合によっては、夫への慰謝料請求に留めたり、夫に風俗店を利用しないよう誓約を求めたりするほうが無難な場合もあります。
ある風俗店に夫が入り浸っていると分かっても、どの風俗嬢なのか特定できないと、慰謝料請求ができません。
風俗店に慰謝料を請求できるわけではありません。
せめて名刺くらいの証拠は必要でしょう(逆に、名刺があればそれで十分というわけでもありませんが)。
風俗嬢が、夫が既婚者だと知っていた(=故意がある)
風俗嬢が,既婚者とは知らなかったがそのことに過失がある(=過失がある)
不倫慰謝料が認められるには、そのどちらかが必要です。
風俗嬢が店内でサービスを提供しただけなら、既婚者だと知る機会はなかったという場合も十分ありえます。
風俗嬢から過失は無かったと反論されると、一般論としては証明がなかなか難しいでしょう。
もっとも、風俗嬢が夫と風俗店外で(勤務外で)継続的に不貞関係を持っている場合があります。
勤務外で、個人的・親密なLINEメッセージを繰り返しやりとりしていることもあるでしょう。
そのような場合であれば、「既婚者だと知る機会があったはずだ」(=過失がある)といえる可能性もありうるでしょう。
後記裁判例が述べていますが、「婚姻共同生活の平和を害するものではない」として、そもそも不法行為にならないという考え方もあります。
もっともこの点については、“既婚者と知って肉体関係を持った以上、不法行為には該当する”というのが、どちらかといえば一般的な考え方のように思われます。
風俗嬢は性的サービス(例えばソープランドでは性交渉そのもの)を提供するのが仕事です。
そのため、“店での行為は正当業務行為であり、慰謝料支払い義務は発生しない”という考え方も強いです。
性交渉を持つのが“正当”業務なのか?という疑問をお持ちになるかもしれません。
その点はさておき、結論として、店内の行為については慰謝料支払義務は認められないという考え方が強いのではないかと思われます。
もっとも実際問題として、風俗嬢相手の不倫というのは「風俗店で知り合った後で、店のサービスとは別のところで(店と関係なしに)不倫関係を継続していった」というケースもしばしば見られます。
このような場合なら、店の業務とは関係ありませんので、正当業務行為にもあたりません。
こうした関係で,風俗嬢が夫と店外で交際をしているか、が一つの考慮すべき事柄になってこようかと思われます。
店外で親密なやりとりをしていれば、既婚者と知っていた(知ることができた)かもしれません。
店の業務(仕事)とは関係ありませんから、不貞を断ることもできたはずでしょう。
この裁判例は、「ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には、当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではない」から、不法行為にはならないと述べ、不倫慰謝料を認めませんでした(東京地裁平成26年4月14日判決)。
なお、枕営業は、ソープランドの風俗嬢とは違って誰に営業するかを自由に決められる(=「指名されたからサービスしただけ」とはいえない)のですが、そのことは無関係であるとこの裁判例は言っています(出会い系サイトを用いた売春やデートクラブと変わりないから、という理由です)。
夫がソープランド店内で風俗嬢と複数回性交渉を持ち、嬢が店を辞めた後も、店の利用料金と同額を支払って関係を継続したというケースです(東京地裁平成27年7月27日判決)。
この裁判例は、店内での性交渉については、不倫慰謝料は発生しないと判断しました。「利用客・・・が対価を支払うことにより従業員である被告が肉体関係に応じたものであると認められ、それ自体が直ちに婚姻共同生活の平和を害するものではないから、これが原因で原告とCとの夫婦関係が悪化したとしても、被告が故意又は過失によってこれに寄与したものとは認め難い」というのがその理由です。
なお、この裁判例でも、風俗嬢がソープランド店を辞めた後の肉体関係については不倫慰謝料が認められています。
一般論として、不貞慰謝料請求を行うのは①精神的苦痛を補填する損害賠償を回収することが本来の目的です。
そのほか、②配偶者に接触しないと約束させること(接触禁止文言のとりつけ)も事実上の目的になります。
(参照)接触禁止文言
もし風俗嬢が、店の客だからということで夫の相手をしているだけなのであれば、慰謝料自体が認められない可能性すらあります。
接触禁止についても「仕事で相手をしているだけだから断れない、接触禁止の約束もできない」と断られる可能性も極めて高くなります。
風俗店からの退職を強いることは不可能ですし、 請求しても成果が上がらないこともありえます。
このような場合なら、夫に対して慰謝料を請求するほうが無難のように思われます。
(備考)風俗通いを止めるよう説得しても改めないのなら夫が責められるべきでしょう(あなたがそれに耐えられないなら最終的には離婚も考えるべきでしょう)。「夫が聞く耳を持たないから風俗嬢に請求したい」というのは、お勧めは致しかねます。
しかし、もし風俗嬢が店外で個人的関係を夫と持っている場合ならば、慰謝料のほか、例えば「店を退職することはできないが、店外で面会したり交際したりしないとは約束する」というように、ある程度の接触禁止も取り付けることができるかもしれません。
このように、個別具体的な事実経過・事情をふまえたうえで、この風俗嬢に不貞慰謝料を請求することで何が実現できそうなのか、その実現可能性は高いのか否か、というのは事前に考えておくべきでしょう。
このようなことは、そもそも相手方が風俗嬢で無くても事前に検討すべき事柄ですが、風俗嬢の場合はなおさら慎重に検討すべきと思われます。
風俗嬢に不倫慰謝料を請求するにしても、そもそもどの風俗嬢だと特定できるのか、仮に特定できたとして夫が既婚者と知っていたといえるのか、という問題があります。
さらに風俗嬢の立場からいえば、客からの指名を断ることはできません。
そのため、店内での性交渉について不倫慰謝料を認めるのは酷だという考え方も成り立ちうるでしょう。
おそらく、上記裁判例もそのように考えたのだと思われます。
しかし、風俗嬢が店内だけではなく店外でも関係を持っている場合は、単なる客と店員との関係とは異なってきます。
その場合は「夫の不貞相手の職業が、たまたま風俗嬢であっただけ」「知り合ったきっかけが風俗店利用だっただけ」とも表現できるでしょう。
現実問題としては、①夫が店外で風俗嬢と関係を持っているケースよりは、②風俗店に入り浸っているというケースの方が多いかとは思われます。
ここで②の場合、風俗嬢に不倫慰謝料を請求したところで、問題が抜本的に解決されるわけではありません。
風俗であっても不貞行為として離婚原因になりえます。
場合によっては離婚の手続きを進めつつ,その中で夫に不貞を理由として離婚慰謝料を請求することも検討すべきでしょう。
(参照)離婚原因
しかし①風俗嬢が店外で個人的に不倫関係を継続しているケースも、決して少なくはありません。
このような場合には、風俗嬢に不貞慰謝料を請求したり、それと平行して接触禁止を求めたりすることも、検討に値すると思われます。
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