このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
ABが夫婦で、Bの不貞相手がCだとします。
不倫慰謝料をAがCに請求し、その問題は決着がつきました。
その後でCがBに請求するのが、求償権の請求です。
求償権の請求は、不倫慰謝料を最終的にどちらがどれだけ負担するかという問題です。言ってみれば不倫交際の後始末の問題です。
求償権請求の問題については、弁護士をつけずにCB二人が話し合ってある意味円満に解決していることが、実際は非常に多いものと推察されます。
しかし場合によっては、弁護士をつけたほうが良いこともありえます。
今回は、不倫の求償権について説明し、求償権請求で弁護士をつけたほうが良い場合について解説します。
求償権というのは、立て替えた分を払えという権利のことです。
不貞(不倫)は二人でしたことです。なのに、CだけがAに不倫慰謝料を払わされて終わりというのでは不公平です。Cの払った不倫慰謝料に、Bを立替えた分が含まれているのであれば、立替分の精算が認められるべきです。
不倫の求償権というのは、CがBに対して、「自分の払った不倫慰謝料にはBを立替えた分が含まれているので精算してほしい」と請求する権利のことです。
(備考)「BがAに慰謝料を支払って、その後にCに対して求償請求をする」というケースもありえます。本稿では単純化のため「Cが払ってBに求償請求する」という場面を想定します。
(備考2)民法改正による影響が出てきうるところですが、改正前の最高裁判例の立場に沿って説明しています。この立場の背景には、加害者BC間の負担の公平よりも被害者Aの保護を優先すべきだという考え方があると言われています。
関連記事 求償権とは責任割合というのは、「不倫(不貞)について、BCどちらがどれだけ悪いか」という割合のことです。「BCどちらも等しい責任がある」という状況なら、責任割合は50%ずつです。
「不倫慰謝料は200万円である。Cの責任割合は50%である。CはAに不倫慰謝料を200万円支払った」という場合を考えてみましょう。
Cは不倫について50%の責任しかないのですから、支払った200万円のうち100万円は自分の責任の分ですが、残り100万円はBの分を立替えたものです。
自分の責任割合50%(100万円)を超える100万円は立替えたものだから精算して欲しい、とBに求償請求できることになります。
もっとも、①不倫慰謝料の額について、Bが「200万円という額は妥当ではない」と争ってくる可能性があります。不倫慰謝料が200万円と決まったのは、あくまでAC間での話だからです(Bが訴訟告知を受けてCが敗訴判決を受けた場合は別ですが)。
②仮にBが不倫慰謝料の額を争わないとしても、責任割合についてCと認識が食い違うかもしれません。
求償請求でBCが争っていく場面では、たとえば次のように主張を交わすことになると思われます。
C「Aに不倫慰謝料を200万円支払った。私の責任割合は高くても20%だ。160万円は立替えたものだから支払え」
B「200万円と決まったことに自分は関知していないし、仮に200万円だとしても責任割合はせいぜい50%ずつだ」
関連記事 不倫慰謝料請求と訴訟告知求償請求でBCが争っていくケースよりは、既に述べたように、穏便に決着するケースのほうが実際上多いようには思われます。
たとえば「AC間で決まった不倫慰謝料200万円を、等分して負担しよう」というような場合も多いようです。
あるいは、AC間で決まった不倫慰謝料額を最終的にBが全て負担するという場合もありうるでしょう。
CがAに200万円を払った後で、BがCに200万円を払うということです。
どういう内容にせよ、不倫慰謝料の内部負担をどうするかについてCB間で話をして、双方が納得する形で落ち着きそうなら、わざわざ弁護士を入れる必要まではあまりないでしょう。
CがAに、Bに対する求償権を放棄すると約束することがあります。
求償権放棄をする主な動機は、CにとってはAに支払う不倫慰謝料を減額するため、AにとってはCからのBへの接触を許さないため、です。
当然ながら、CがAとの約束で求償権を放棄している場合、Bに求償権請求をすることはできません。
もし「求償権を放棄したのにBに請求した」ということがAに露見したら、Aとの間でも再度紛争になりかねません。
上記のように、求償権請求では、弁護士を入れる必要までないことが多いでしょう。
ところが、弁護士をつけて求償権を請求する場合、あるいは弁護士から求償権を請求されている場合、というのも実際にはあります。
求償権請求にどうして弁護士を入れるのか?
それは端的にいえば、「円満決着が見込めなさそうだ」とCBどちらか(あるいは双方)が判断したからでしょう。
以下、請求する側C/請求された側Bの各視点から考えてみます。
求償権請求をしてもBが応じてこないとか、応じてこなさそうなこともあります。
「Bは、不倫がバレて給料振込口座をAに管理されるようになったので、すぐに動かせるお金がないらしい。私自身で求償権請求をしても『お金がない』の一点張りではぐらかされそう」
というような場合が考えられます。
「求償権請求に応じないとは言わないが、自分の知らないところで決まった200万円を当然の前提として請求されても困る」
「50%なら認めるが、それを超えるなら払わない」
Bが求償権請求に対してある程度支払意思を示しているとしても、このように金額や責任割合で折り合わないこともあるでしょう。
たとえば、関係解消を巡ってCB間で温度差があったような場合が考えられます。
不倫慰謝料の額や責任割合・交際経緯等で言い分に差があって話がまとまらない場合、そのままでは、CはBから金銭(立替え分)を回収することができません。妥協していくらかでも回収するのも一つの方法ですが、もし自分の言い分を撤回せず回収していきたいのなら、弁護士への依頼を検討することになります。
求償権請求を弁護士に依頼するメリットの1つに、自分でBに接触するつもりはない、とAに示せることがあります。
特にAとの話し合いでBに接触するなと強く要求されていた場合、求償権請求のためとはいえ、自分でBに接触するのは憚られるかもしれません。弁護士をつければ、関係継続のために接触しているわけではない、ということを明らかにすることができます。
求償権請求に弁護士を付けることでAから疑念を持たれるのを回避したうえで、動かせるお金がないなどというBの言い逃れを許さず(=任意に支払わないなら訴訟提起や将来的な給与差押えも辞さない)、責任割合などについての自分の主張を展開していくことができることになります。
「Cから今後もし求償権を請求されたら自分はいくら払わないといけないのですか?」
と言う人も居ますが、それは先走りしすぎです。
もしかしたらCは、Aに対して求償権放棄を約束しており、請求してこないかもしれません。
求償権放棄を約束していなかったとしても、求償権という権利を行使するかどうかはCの自由です。
「Aへの支払完了で、不倫のことはもう全て終わったことにしよう」という気持ちにCはなっていて、求償権請求を実行しないかもしれません。
Bとしては、Cから求償権請求を実際に受けてかつ話がまとまらなさそうな段階に至って初めて、どうすべきか検討すればよいのです。Cがまだ何も言ってきていないのに一人で焦っていても、意味がありません。
Cが弁護士を付けてきたということをどう捉えるべきでしょうか?
求償権請求を当事者同士で穏便に話し合えない、自らの言い分を主張したい、とCが考えたからだと捉えておくべきです。
自分で接触するつもりがないと示すというたったそれだけの理由で、Cが自分で費用を掛けて弁護士を入れてくることはまずないでしょう。あえて弁護士を入れてきたからには、それを超える動機がある、と考えておくのが無難です。
もしかしたらCには、金銭的なこと以上に、交際からAとの不倫慰謝料事件解決に至るまでの経緯において、Bをどうしても許せないなどと思うことがあったのかもしれません。そのことを、求償権請求の場面で持ち出したいのかもしれません(責任割合についての争いとして表面化することになります)。
「求償権の金額はさほどじゃないから裁判までしてこないだろう」
そのようにBが甘く見ていると、本当に訴えられて、交際経緯においてBの悪質性が高かったからCの責任割合は低いなどと主張されたり、証拠を色々提出されたりするかもしれません。
もし弁護士から求償権請求を受けたのなら、Cの行動はかなりの覚悟を持ってのことであろうと推察されます。Bとしては自分で話をするより、弁護士を入れて対応すべきです。
「弁護士を入れると敵対的だと受け取られるのでは?」
そういう心配はありません。
むしろ弁護士同士で話を進めることにより、理性的に交渉ができ、合理的ラインで合意がまとまるかもしれません。
求償権は、立替えた分を払えという権利です。
不倫慰謝料はBC二人で背負っているものなので、CがBの分を立替えて支払っている場合には、CはBに求償権請求をすることができます。求償権請求は、事実上、CB間で円満に話し合って解決していることが多いのではないかと思われます。
求償権請求で弁護士を入れることもあります。
Cとしては、円満決着が見込めない場合等は、弁護士を入れるのを検討することになります。とはいっても、経済的合理性の観点等から、弁護士を入れずに済ませることも少なくはないと推察されます。
Bとしては、Cが弁護士を付けて求償権請求してきた場合、特にきちんと対応する必要があります。交際経緯について色々な言い分を申し述べたい、場合によってはその正当性を裁判所で争いたいといったように、金銭的なことを超える強い意思をCが持っている可能性があるからです。むやみに自分で対応するより、弁護士を入れて対応すべきでしょう。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
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