このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
「最後までしていないけど、不貞行為になる?」「キスやハグだけでも不貞行為になる?」
既婚者と性交渉はしていないけれど、それでも不貞行為として不倫慰謝料の問題になってしまうのか、どこまでなら許されるのか。
この記事では、異性の既婚者と親しくしている人、すなわち不倫慰謝料を請求された人やされるかもと心配な人を対象として、 弁護士が、「最後までしてない」行為が不貞行為にあたるのか、 肉体関係が無くても不倫慰謝料が認められることはあるのか、具体的な事例を交えながら徹底解説します。
どこからがアウトなのか、 慰謝料請求のリスクはあるのか、 証拠となりうるものは何か… 気になるポイントを分かりやすく解説しますので、 ぜひ最後までお読みください。
今後の展開を有利に進めるための戦略もご紹介します。
目次
不貞行為とは、既婚者と性的関係を持つこと、法律上の夫婦関係にある男女の一方が配偶者以外の者と性的関係を持つこと、を指します。
不倫慰謝料問題との関係では、多くの場合、性交渉・性行為(性器の結合行為)そのものを意味しており、性交渉一歩手前の行為は「類似行為」と表現することも多いです。
類似行為の典型は、性的部位への接触行為です。
もっとも、弁護士ではなく相手方本人が「不貞行為」と言う場合、「不法行為(民法709条)」という趣旨でその語を用いていることがあります。
不倫慰謝料を心配する人の「不貞行為になるか」という疑問の趣旨は、法的には「不法行為にあたるか、慰謝料の義務はあるか」ということです。
例えば、「キスは不貞行為にあたるか」というのは、「キスは不法行為(民法709条)に該当することになって慰謝料を発生させるのか」という意味の疑問です。
以下では、混乱を避けるために「不貞行為」=性交渉、「不貞行為になるのか」=不法行為になるのか・慰謝料が発生するのか、といったように分けて考えていくことにします。
「キスやハグだけ」「食事に行っただけ」ということであれば、不貞行為(性交渉)は当然ありません。
問題は「キスなどが不法行為に該当して慰謝料を発生させるのか」です。
こうした行為だけでも、①(本当は存在しないが)不貞行為の存在が裁判所で認定された場合、②(不貞行為の存在は認定されないが)夫婦関係の平穏が害された、婚姻関係を破綻させる蓋然性(可能性)のある行為があった、と認定された場合には、不倫慰謝料が認められてしまうケースもあります。
一般論として、「裁判所の認定した事実が真実と食い違っている」ということはありうることですし、「最後までしてない」のが真実にもかかわらず肉体関係があったと認定されてしまうことも、ありうることです。
キスやハグだけでも、日時場所やその時の様子、回数などの事情によっては、その他の事情(LINEのやり取りなど)をあわせて、不貞行為が存在すると裁判所に認定されてしまう可能性はあります。
例えば、熱烈な様子で何度も繰り返しているということであれば、「そういうことをしているのは、肉体関係の裏付けがあるからだろう」と判断されかねません。
食事だけなら大丈夫のように思えるかもしれませんが、裁判例では、社会通念上許容される限度を超えたとか夫婦関係の平穏が害されたということで不倫慰謝料の発生を認めているものがありますし、不法行為(民法709条)が成立するか(=慰謝料が発生するか)の判断にあたって、肉体的接触が必須とされているわけではありません。
さらには日時場所、内容、回数、頻度、金額などいろいろなケースが考えられますので、単純に「食事だけだから大丈夫」と言えるわけではありません。
もっとも、キスやハグなどの肉体的接触がある場合と比べれば、そのような接触がない分だけ相対的に違法性は低いでしょうし、その点だけを見れば、婚姻関係の平穏を害しておらず慰謝料は発生しないという判断に繋がってもおかしくはないように思われます。
「不貞行為になるか?」=不法行為に該当して慰謝料が発生するか?の判断において最も重要なのは、その行為が婚姻関係の平穏を害するものであったかどうか、それだけの違法性があるかどうか、という点です。
既に見たように、肉体関係がなければセーフというわけではありません。
不貞行為(性交渉)がなくても不倫慰謝料が発生することはあります。
不貞行為=性交渉である以上、たとえ一度きりの性交渉でも不貞行為に該当するのは当然です。
「一度でも不貞行為になるのか?」という疑問、すなわち性交渉が一度きりでも不法行為として慰謝料が発生するのか?という疑問については、基本的にはそのとおりです。
「1回だけだから慰謝料不発生」とはなりませんが、多数回継続して不貞行為に及んだ場合よりは、慰謝料額が小さくなる可能性は高いです。
次のセクションでは、「最後までしていなくても不貞行為と認められるリスク」について、さらに詳しく解説していきます。
先に見たように、不貞行為(性交渉)は実際に無くても、その他の事情から「肉体関係があった」と裁判所に認定されるリスクがあります。
例えば、「写真を撮られたのはキスの場面だけだが、熱烈で露骨なメッセージのやり取りを繰り返していたのが発覚した」というような場合が考えられます。
「キスを軽く頬に一度だけ、その一回きり」という場合よりは、「抱き合って唇を合わせることが多数回あった」場合のほうが、そのように認定されやすくなってくるでしょう。
夫婦関係の平穏が害された、婚姻関係を破綻させる蓋然性(可能性)のある行為をした、ということで、不倫慰謝料が認められるリスクがあります。
先に述べたように、不貞行為(性交渉)は、不法行為や不倫慰謝料の成立に必須というわけではありません。
裁判所が「不貞行為があったとは認められない(推認されない)」と判断した、つまり「最後までしてない」ということになったとしても、不倫慰謝料が発生する可能性はあります。
相手方が不貞行為があると疑うのは、例えば、「キスの写真以外にSNSなどのやり取りを掴んでいる」というような事情があるのかもしれません。
もっとも、相手方がやり取りを本当に把握しているかどうかというのは、示談交渉(裁判になる前の交渉)の段階では、はっきりとは分からないことも多いです。
裁判になれば、原告(相手方)が証拠として提出してきたものについては、その内容を裁判官も見ることになります。
例えば、キスの写真に加えてSNSのやりとりが提出されてきて、裸体や性器の写真を送り合っている、性行為の感想のようなコメントをしている、といったようなことが明らかになれば、「不貞行為がある」とか「婚姻関係を破綻させる行為があった」というような判断に繋がりかねません。
「最後までしてない」以上は不貞行為(性交渉)の直接的な証拠は存在しないはずですが、そうであってもその他の証拠をあわせて裁判官が総合的に判断することになるので、注意が必要です。
「精神的な繋がりだけでも不法行為に該当して不倫慰謝料が発生することはあるのか?」ということですが、先に見た裁判例の考え方からすると、ただちに否定することはできないと思われます。
既婚者とのコミュニケーションの内容によっては、2人を離婚させようとしている、婚姻関係を外部から破壊しようとしている、といったように裁判所から評価されることも、考えられなくはないからです。
精神的な繋がりは不貞行為(性交渉)には該当しませんし、例えば、友人として離婚の相談に乗るようなことがあったとして、裁判所がただちにそのことを問題視する可能性は、さほど高くないようには思われます。
とはいうものの、精神的な繋がりや関与の具体的な内容・程度によっては、違法性があると評価される場合もありうるでしょう。
「最後までしてない」場合でも、裁判では、相手方(原告)は、不貞行為や不法行為を立証するために、色々な証拠を提出してくるはずです。
ここでは、裁判で提出されてくる可能性のある証拠について解説します。
例えば、下着姿で一緒に寝ているところの写真などです。
不貞行為(性交渉)が直接撮られているわけではないですが、性行為や類似行為をするためという以外の理由で、既婚の異性と下着姿で一緒に寝ることはあまりなさそうにも思われますし、不貞行為の存在を推測させることが懸念されます。
ラブホテルは性行為をするための場所ですので、そこへ一定時間滞在したのであれば、不貞行為(性交渉)や類似行為があった可能性が高いと判断されやすくなってしまいます。
「交際相手自宅に夜に入室して朝まで一緒に居た、その間その家にはずっと二人きりだった」「泊りがけの旅行へ二人きりで出かけた」というような場合も、不貞行為の存在を疑わせる1つの事情になってくるでしょう。
少なくとも不貞行為に及ぶことが可能な状況ではあった、ということになる可能性があります。
調査報告書は、興信所・探偵の尾行結果をまとめたものです。
ラブホテルなどに出入りする写真等を相手方が入手するルートとしては、調査報告書によることが多いと思われます。
交際相手が相手方に自白した内容も、証拠になりえます。
相手方の立場からすると比較的入手しやすいものですので、「何も証拠はない」と思っていても、実は自白が存在していたということは、しばしばあります。
「最後までしてない」としても、類似行為の存在を自白している場合もありえます。
あるいは、例えば、交際相手が不貞行為(性交渉)を否定したところ、相手方から「キスだけでも不貞行為にあたる」と詰められて、その結果「〇月〇日、不貞行為があった」という一筆をしたためることになり、その書面が裁判に提出されてくる場合なども考えられます。
その場合、その書面が作成された経緯を追及したり、交際相手の書いたその「不貞行為」は性交渉ではなくキスの意味に過ぎないことや、その日時の具体的な状況を証明したりすることが必要になってきます。
メールやLINEなどのメッセージのやり取りも、不貞行為や不法行為の証拠となる可能性があります。
例えば、肉体関係の存在を窺わせる内容や、親密な関係にあると推測される内容が含まれている場合です。
交際相手の自白と並んで、相手方の立場としては比較的入手しやすいものになります。
証拠1つだけならさほどでないように見える場合であっても、証拠が複数存在しておりこれらを組み合わせてみると、肉体関係や親密な関係の疑いが強くなってくることがあります。
相手方から不倫慰謝料を請求された場合、不貞行為(性交渉)を認めずに戦うことも合理的選択肢の1つです。
ただし、法的には、不貞行為がなくても慰謝料が発生することはありうるので、不貞行為を否定するだけでは不十分です。
ここでは、不貞行為を認めない場合にどういう展開・事態が予想されるか、について詳しく解説します。
「相手方は不貞行為(性交渉)があったと主張している。他方、あなたは否定している。相手方には不貞行為の証拠がない」という場合もあるでしょう。
その場合、双方の意見の隔たりが大きく合意はまとまらず、相手方としては証拠がないため訴訟提起もしづらいという事態も考えられ、明確な解決に至らない、結論が出ないままになる可能性があります。
ばあいによっては、明確な解決ができないまま、相手方からの要求や連絡が延々と続く、といったことも想定されます。
不貞行為(性交渉)を認めないまま示談が成立することもありえますが、不貞行為そのものや不倫慰謝料支払義務の存否で隔たりが大きく、成立できない可能性が高くなってきます。
相手方としては、不貞行為や慰謝料を認めさせるべく、訴訟を提起してくる可能性が高まってきます。
裁判所は、提出された証拠に基づいて、不貞行為や不法行為があったかどうか、慰謝料支払義務の有無、義務が有る場合にはその金額を判断することになります。
裁判では、「(不貞行為はともかく)不法行為はあった」と認めるなどして和解成立に至る可能性もありますが、和解がまとまらず、判決で裁判官の判断を仰ぐしかない可能性も考えられます。
和解がまとまらず尋問・判決ということになれば、相応の時間が掛かることになります。
不貞行為(性交渉)を認めないことには、メリットとデメリット、そしてリスクが存在します。
以下にそれぞれをまとめました。
内容 | |
---|---|
メリット |
|
デメリット・リスク |
|
不貞行為を認めないとしても、「不法行為も慰謝料支払義務も無し」で完全拒否を貫くのか、何らかの点で譲歩を示唆しつつ交渉を試みてみるのかで、異なる方向性がありうるでしょう。
不貞行為(性交渉)が無くても不法行為があれば慰謝料が発生しうるのは、既述のとおりです。
すなわち「最後までしてなくても、不倫慰謝料が発生することもある」ことになります。
不法行為についてはどうするのか(不貞行為同様に認めないのか)、どちらにせよその後どういう展開が予想されるのか等について、検討しておく必要があります。
最後までしてなくても、現実問題として相手方から疑われている以上、その問題をどう解決するか、どういう内容の解決をしたいのか、そのためには何をどうしたら良いのか、どういうコスト・負担がかかるのか等々、戦略をよく考えてから対応すべきです。
1つの方向性として「不貞行為も不法行為もないから、支払義務は一切ない」で徹頭徹尾戦うことも選択肢の1つですし、逆の方向性として「不貞行為も不法行為もないが、相手方からずっと疑われるのは嫌だから、ある程度なら解決金を払ってでも早期解決したい(さっさと縁を切りたい)」という選択肢もありうるでしょう。
何を優先してどういう解決を望むのかによって、とるべき方向性は変わってきます。
不貞行為があったと相手方が指摘してくる場合、多くは不倫慰謝料の請求とセットとなっています。
「不貞行為をした。その慰謝料を請求する」というような形です。
ここでは、不倫慰謝料を請求された際の具体的な対処法について解説します。
まずは、相手方から請求されている内容と、その内容の根拠=言い分を確認します。
例えば以下のようなものです。
もっとも実際は、明確に記載・言及されていない場合もあります。
明確に記載されているのは請求金額と支払い期限だけで、あとは不明確、というようなことも多いです。
これらは、今後の対応を検討していくための基礎情報となります。
曖昧な点や不明な点がある場合、相手方に確認することも重要です。
もっとも、その確認のために接触したが、その際のやり取りで述べたことが一人歩きしてしまった、というようなこともあるので、注意が必要です。
請求内容を確認したら、次に、あなたの状況や希望を踏まえて、どのような対応を取るべきか検討します。
対応の方向性を決めるにあたっては、例えば以下の点を考慮しましょう。
例えば、「不貞行為(性交渉)の有無では見解が相違しているが、類似行為が有ったという点については双方争いはない」ということならば、類似行為と慰謝料支払義務を認める形で交渉してみることも考えられます。
他方で例えば、「不貞行為も類似行為もなく、そもそも男女交際すらなかった」ということならば、折り合いをつけることは難しそうですから、訴訟で真実を認定してもらえるように努力を傾けることになります。
早期解決を優先するのなら、できるだけ示談でまとめるべく試みることになります。
真実を明らかにしたいのを優先するのなら、判決で裁判官に真実を認定してもらえるよう、訴訟での活動に注力することになります。
「この事実関係からすると、判決ではこれくらいの慰謝料が認められるかもしれない」という金額を一括で支払う資力が無いのであれば、分割払を相手方と交渉しなければならないかもしれませんし、そのためにはある程度の譲歩が必要かもしれません。
こうした点などを総合的に考慮し、優先順位を明確にした上で、適切な対応を検討します。
優先順位を明確にしておかないと、「あれも嫌これも嫌、一旦は良いと思ったけどやっぱり嫌」というようなことになってきて、示談が進まず早期解決できない可能性が高くなります。
極論すれば、示談をする義務はありませんので、その意味では進まなくてもそれはそれで構わないとも言えますが、その代わり、訴えられたり、逆に明確な解決ができなかったりする可能性が高くなります。
対応の方向性が決まったら、具体的な対応方法を検討します。
具体的には、自分で交渉するか弁護士に依頼するかです。
不貞行為を否定する場合、いずれ裁判で争う可能性も高いので、交渉段階から弁護士に依頼しておいたほうが無難です。
自分で相手方と交渉する場合は、冷静かつ誠実な態度で臨みましょう。
不貞行為(性交渉)を否定する場合、双方が感情的な言動に及ぶこともありうるでしょうが、あなたとしては冷静な話し合いを心がけるようにします。
難しそうなら弁護士に依頼しましょう。
交渉がまとまらない場合は、訴訟に発展する可能性もあります。
訴訟になった場合は、弁護士に依頼して対応するのが一般的です。
訴訟では、法的な知識や経験が必要となるため、ご自身で対応するのは困難です。
訴訟では、相手方の主張を覆すための証拠を提出する必要があります。
交際相手が「不貞行為の事実はない」と語っていれば証拠になりうるかもしれませんが、その内容の信用性は問題にされるでしょう。
不倫慰謝料の発生を否定するためには、不貞行為(性交渉)だけではなく、不法行為の否定(度を超した交際はしていない)が必要です。
それ以外の反論、既に婚姻関係が破綻していたとか、そもそも既婚者だと知らずそのことに落ち度もなかった、というような主張・立証ができないかも、検討すべきです。
訴訟で争う可能性も高いですし、非常にデリケートな問題で精神的な負担も大きいため、弁護士のサポートを受けることをお勧めします。
対応 | 詳細 | 注意点 |
---|---|---|
請求内容の確認 | 請求金額や相手方の言い分などを把握する | 金額・支払い期限以外は明確でない場合も、実務上は多い |
対応の検討 | 相手方の主張内容と真実の相違を把握し、解決に向けての優先順位をつけたうえで、支払い能力を高めておく | 順位付けをおろそかにしたり支払い能力が不足したりすると、交渉成立の可能性が低くなったり、分割払い実現のために譲歩を強いられたりする |
交渉 | 冷静かつ誠実な態度で臨む | 冷静な交渉が不可能そうなら弁護士に依頼する |
訴訟 | 弁護士に依頼し、真実を認めてもらうべく全力を注ぐ | 真実を優先すると、尋問→判決となったり控訴審で争ったり、長期化する可能性がある |
不貞行為の慰謝料問題は、感情的な対立が激しくなりやすく、当事者間での冷静な話し合いが難しいケースが多々あります。
「最後までしてない」ということで不貞行為を否定する場合、なおさらです。
このような状況で弁護士に依頼することには、様々なメリットがあります。
相手方としては、本人同士の示談交渉で双方に開きがある場合、弁護士に依頼したり訴えたりすることを検討することになります。
ところが、「最後までしてない」ということで不貞行為(性交渉)の証拠がないとか、親密な交際をしている証拠がない、証拠が薄いので弁護士に依頼を断られた、といったような場合には、手詰まり状態になってきます。
そのような場合にあなたが弁護士に依頼すると、相手方が示談に応じる態度に転じてきたり、場合によっては慰謝料請求を事実上断念してきたりする可能性もあります。
もし示談に応じるなら、相手方としては、自ら費用をかけて弁護士を立てなくてもある程度の金額を早期回収でき、きちんとした示談書を交わせることになります。
どうしても示談に応じられない場合、それ以上手続きを進めることができず、請求を事実上断念する可能性があります。
「不貞行為(性交渉)は実際に無かったし、拒否するだけだから、精神的負担はさほどではない」と思うかもしれませんが、そもそも相手方が何の根拠もなしに疑うことはあまりなく、何がしかの理由・根拠が一応存在していることが多いです。
その理由・根拠に、裁判で不貞行為・不法行為の存在を立証できるほどの価値がどこまであるのかというのは、もちろん別の話です。
とはいうものの、相手方としては疑わしい理由・根拠があると認識している以上、これに対する説明や弁解、謝罪を繰り返し求めてくるなどの可能性も高く、自ら対応する精神的負担は大きなものになります。
弁護士に依頼すると、「最終的には、裁判官に適正な判断をしてもらう」ことも視野に入れたうえで、相手方と交渉していくことができます。
相手方に無理に譲歩してまで示談をまとめるということは、考えずに済みます。
その結果として、強気な交渉が可能になり、交渉を有利に進めることができるようになります。
弁護士は、法解釈や過去の裁判例、これまで取り扱った事件での経験などを駆使して、裁判所の判断を予測することができます。
これにより、訴訟になった場合の見通しを立てたり、和解交渉で裁判官がどのような内容を提示してきそうか、判決になった場合はどのような内容になりそうか、といった点を予測したうえで、適切な対応策を講じることが可能です。
「裁判所はどう考えそうか」という視点は、交渉を進めたり訴訟に切り替えたりする上で、道しるべになってきます。
このように、弁護士に依頼することで、ご自身の状況を客観的に分析し、法的な知識と経験に基づいたサポートを受けることができます。
これにより、精神的な負担を軽減しながら、有利な解決を目指すことが可能になります。
「最後までしてない」場合でも、状況によっては不倫慰謝料が発生する可能性があります。
不貞行為(性交渉)はなくても、類似行為(性交渉一歩手前の行為)がある場合、婚姻共同生活の平和を害する行為がある場合、度を超した交際がある場合などには、不倫慰謝料が認められる可能性があります。
「不貞行為の慰謝料」という言い方をしますが、「性交渉がなければ慰謝料は発生しない」という意味ではありません。
キスやハグだけでも、①それらの内容から不貞行為(性交渉)が存在すると裁判所に認定される場合、②不貞行為があるとまでは認定されないが、婚姻共同生活の平和を侵害する行為であったと裁判所に認定される場合には、不倫慰謝料が発生する可能性はあります。
不倫慰謝料が発生するかどうかの判断にあたって重要なのは、それらの行為が「婚姻関係の平穏を害する」と判断されるかどうかです。
単なる挨拶であるということで慰謝料が発生しないこともあるでしょうが、肉体関係がなければこのような濃密な接触をしないはずだということで慰謝料が発生することもありえます。
食事やメッセージのやり取りだけでも、同様に、①不貞行為(性交渉)が存在すると認定される場合、②婚姻共同生活の平和を侵害する行為であると認定される場合には、不倫慰謝料が発生する可能性はあります。
例えば、メッセージの中で裸体などの露骨な写真や過剰な愛情表現を送り合っているというような場合、肉体関係がなければそのようなことはしないだろうということで(①の理由で)慰謝料が発生することもありえます。
また、単なる友人関係を超えて特別な感情をお互いに抱いているようだとか度を超した交際があるということで(②の理由で)慰謝料が発生することもありえます。
不貞行為の慰謝料相場は、不倫期間の長さや不貞行為の回数・頻度、相手方の婚姻期間、夫婦関係への影響など、様々な要素によって大きく変動します。
一般的には、50万円~300万円程度が相場とされており、相手方が離婚に至った場合は、慰謝料が高額になる傾向があります。
具体的な金額は、個別のケースによって異なってきます。
不貞行為(性交渉)も不法行為も無い場合のほか、もともと夫婦関係が破綻していた場合、既婚者だと知らずそのことに過失がない場合などは、不倫慰謝料は発生しません。
例えば、「不貞行為は無かった。さらに、独身だと言われていてずっと信じていた」というような場合、不貞行為・不法行為がないという主張だけではなく、それに加えて「過失がない」と主張することも、検討に値するでしょう。
この記事では、「最後までしてない」場合、キスやハグといった行為で不倫慰謝料が発生するかどうか、その判断基準や法的リスクについて詳しく解説しました。
不貞行為(性交渉)の有無ではなく、婚姻関係の平穏を害する行為があったかどうかが重要であること、キスやハグなどであっても場合によっては慰謝料が発生する可能性があることをご理解いただけたかと思います。
また、不貞行為を認めない場合の対応や、不倫慰謝料を請求された場合の対処法、弁護士に依頼するメリットについても触れました。
「最後までしてない」にもかかわらず不貞行為の慰謝料を請求されてお悩みの方は、一人で悩まず、弁護士にご相談ください。
(監修:弁護士橋本俊之)
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
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