このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
不倫がバレた場合、相手方(=交際相手の配偶者)から要求を受けるとしたら、具体的な内容であることが多いでしょう。たとえば次のような要求はしばしば見受けられます。
「不倫慰謝料300万円を払え」
「今後一切夫と連絡を取るな。違反したら違約金300万円を払え」
「職場を辞めろ」
ところが、このような具体的な内容の要求がなされるケースばかりではありません。
たとえば次のような抽象的な要求を受けることがあります。
「そんなに反省しているというのなら、口座を教えておきますから、あなたが適切だと思う金額を払ってください。その内容であなたの誠意を量らせてもらいます」
「お金の問題じゃないからこちらから金額を言ったりはしない。どうしたらいいか自分で考えてきちんと誠意を見せろ」・・・など。
このような場合に、「できるだけのことをしなくては・・・」「この程度だと誠意を疑われてしまうかも・・・」などと考えて、自分から具体的な提案をしてしまう人も多いようです。
しかし、このように相手方が抽象的な要求しかして来ないような場合に、自分のほうから具体的な提案をしていくことは、あまりお勧めできません。まずは、相手方の要求内容を具体的にさせることから始めていくべきです。
そもそもの前提として、最初に認識しておくべきことがあります。
「不倫問題は、法的には、お金(≒慰謝料)の問題になる」
すなわち、不倫を巡る問題は、法的にはお金で解決する形になります。
(備考)不倫により相手方に与えた「精神的損害」を償うお金が慰謝料です。「経済的損害」が発生した場合は、それを償うためのお金が別途発生することもありえます(ex.調査費用)
不倫についての相手方との争いにおいて問題となるのは、突き詰めて言えば、相手方に支払う慰謝料の金額と支払時期です。不倫慰謝料を支払うのか支払わないのか、もし慰謝料を支払うのならそれは幾らでいつどのように支払うのか(一括なのか分割なのか)。本質的に重要なのはこれらの点です。お金のこと以外の内容というのは、金額と支払時期を合意するに当たって考慮されることはありえますが、あくまで付随的なものです。
こうした点を忘れると、「相手方の様々な要求に振り回された挙句、何の解決にもならなかった」という結果になりかねません。
ところで、仮に不倫が相手方にバレているのが確実だとしても、具体的にどこまでの内容がバレているのか、そしてその証拠として相手方がどのようなものを持っているのか、というのはまた別の問題です。もしかしたらですが、相手方は大した証拠を握っていないのかもしれません。
「誠意を見せろ」と言われて、謝罪をしたり、いくらかの金額を払うなりしたりすると、そのこと自体が後で証拠になることがあります。
謝罪したりお金を払ったりしたということは、それだけのことをしなければ事態を処理できないとあなたが考えたからだ(=相手方の主張する不倫が実際にあったからだ)、というようにも見うるからです。
(備考2)それとは別の話として、相手方が「誠意を見せろ」としか言ってきていない段階であなたが「100万円でどうか」と具体的提案をすると、100万円がスタートラインになってしまいます。そこからつり上がってくることはあっても、下がってくることはほぼ期待できないでしょう。
「誠意があるなら不倫の経緯を全部教えろ」
そういう要求を受けるかもしれません。これに応えて不倫の経緯を正直に教えることで、相手方の不満が和らいで穏便に済むという可能性も、場合によってはあるのかもしれません。しかし現実には、それで済まない場合も多々あります。
「私が夫から聞いている経緯とは違う」
あなたとしては正直に回答するつもりでも、細かいことはそもそも覚えていないかもしれません。覚えていないと相手方に告げたとしても、相手方からは「嘘だ、隠すつもりか。夫は不倫を認めてこう言っている」と非難されることもしばしばです。たとえあなたとしては嘘をついているつもりはなくても、交際相手が実際とは違う内容(あなたの認識する真実とは異なる内容)を相手方に告げていることもあるのです(交際相手が悪意なく勘違いしているのか、故意に嘘を言っているのかはともかく)
あなたとしては誠実かつ正直に不倫の経緯を回答したつもりでも、肝心の相手方がその回答を誠意の現れとして評価してくれるのか?というと、実際問題、ほとんど期待できないように思われます。
もし相手方が具体的な要求、たとえば「300万円を払え」という要求をしてくる場合、示談書を突きつけられてサインさせられることもあります。
(備考3)相手方の作った示談書にそのままサインすることは極めて危険です。特に相手方が自分で作ったようなものなら尚更です。その場では一切サインせず、一旦内容を持ち帰って検討すべきです。検討した結果、納得してサインする気になったのなら、それからサインすれば良いのです。
他方「誠意を見せろ」というような抽象的な要求を相手方がしてくる場合、示談書を作らないままに金銭支払いだけを要求してくることも多いようです。
きちんとした内容の示談書を作成しないということは、後から更なる要求・異なる要求が出てくる可能性も高くなります。
例えば、相手方から「誠意を見せろ。不倫を申し訳ないと思うなら、自分でふさわしいと思う金額を振込め」と言われたので、示談書も作らないままになけなしの100万円を支払った、というケースを考えてみます。
「そんな金額では全く誠意が感じられない」と相手方は更に追加の請求をしてくるかもしれません。あるいは、「夫が実はもっと昔からだったと認めた。だから追加で払え」と言ってくるかもしれません。またあるいは、もしかしたら,もともと50万円くらい払ってもらえば儲けものだと相手方は内心思っていたのに、あなたが100万円を支払ったことで調子に乗せてしまうかもしれません。
きちんとした内容=あなたの利益をも守る内容の示談書を作っておかないと、不倫問題を最終的に決着させることはできないのです。「示談書に記載された内容の約束さえ果たせば、あなたのやるべきことは全て終わり」だと確定できないからです。
(備考4)きちんとした内容の示談書なら、果たすべきことを確定できます。いくら「示談書」というタイトルが書かれていても、内容がきちんとしていなければあなたの身を守ることはできません。そういう「示談書」にサインしてはいけませんし、サインする前に弁護士に相談すべきです。
(参照)不倫慰謝料の示談書
法律上は「夫の不倫相手に慰謝料を請求できる」としても、それは「慰謝料を請求しなければいけない」わけではありません。そもそも不倫慰謝料を請求するかどうかは、相手方が自由に決めることです。
(備考5)不倫がバレたとしても、実際にあなたが不倫慰謝料を請求されるかどうかは別問題です。「不倫がバレたみたいです、相手方から連絡はまだ来ていませんがどうしたらいいですか」と泡を食って弁護士に相談する人がいますが、実際に慰謝料を請求されてから対処する形で十分でしょう。
相手方があなたに要求する内容も、一応相手方の自由です。法律上は不倫問題はお金で解決する形になっているとはいえ、「配偶者に接触・接近するな」とか「職場を辞めてほしい」などと要求することそれ自体が禁止されている、というわけではありません。
このように、あなたに対して何をどこまで要求するかは、相手方が(一応)自由に決めることができます。
ですから、あなたとしては、まずは相手方に要求内容を確定するよう求めるべきです。相手方が決めたその内容が、今後の交渉のスタートラインになってくるのです。
もちろんあなたとしては、相手方の要求内容に応じるかどうかを検討することができます。仮にあなたが要求を拒否しても、引き続き相手方と交渉した結果、話し合いがまとまることもあるでしょう。もしまとまらず、相手方が訴訟提起してきて判決の形で解決となる場合には、金額(お金)だけの話になります。接触しないとか退職といった内容が判決で命じられることはありません。
不倫慰謝料の相場を非常にざっくりといえば、離婚しないなら数十万~100万程度、離婚するなら200万~300万程度といった感じです。
(備考6)不貞期間、不貞回数などその他の事情も考慮されます。
これを踏まえつつ、相手方が離婚しそうなのかどうか、どのような証拠を持っていそうなのかなどの色々な事情を踏まえて、交渉を進めていきます。
交渉を進めた結果双方合意に至れば、示談書を作ったうえで、あなたとしては慰謝料を支払う(ことを中心とした)約束を果たしていくことになります。
相手方とどうしても交渉できない場合があります。
その典型は、相手方が客観的な婚姻破綻の証拠も示すことなく高額の慰謝料にこだわってくる場合です。
他にも、「不倫の経緯を全て教えろ。それまでは一切示談交渉はできない」と言ってくるような場合などがあります。
このような相手方とは合理的な交渉が困難であり、話し合いを続けても時間の無駄に終わる可能性が極めて高いです。だからといって問題をそのままにしておくと何の解決にもなりませんし、相手方からの連絡が入り続けるなどして精神的に疲弊してしまうことでしょう。
そうした場合は、まず弁護士に相談・依頼することをお勧めします。弁護士の法律相談を受ければ、あなたが今後どのように対応すべきか、相手方がどのように対応してきそうかと言った点について助言を得られます。さらに弁護士に依頼すれば、それ以後は弁護士が相手方と交渉していきます。そうすると相手方としても、譲歩するか自分も弁護士を付けるかという選択を迫られることになります。
もし相手方も弁護士を付ければ、まずは弁護士同士で交渉することになります。弁護士は裁判になった場合の見通しを踏まえて交渉しますし、弁護士同士の示談交渉がまとまることも多いです。
交渉がまとまらなければ、おそらく相手方の弁護士が訴訟を提起してくるでしょう。訴訟になれば、反論内容を記載した書類や証拠を裁判所に提出したり、裁判所での尋問(=裁判所の法廷で事情を聞かれること)へ対応したりすることが必要になります。もっとも実際は、尋問実施前に和解がまとまることが非常に多いです。和解に至らない場合は尋問を経て判決になりますが、そうしたケースはかなり少ないです。
(備考7)尋問以外は、ほぼ弁護士だけで対応できます。なお、判決が出ても控訴があると高等裁判所での訴訟が続きます。しかし、控訴となるケースはほとんどありません。
あなたが弁護士を依頼したのに対して、相手方が弁護士をつけてこない場合もあります。
この場合、弁護士はまず相手方と交渉をしてみて、これ以上示談交渉を続けても意味がなさそうだという場合は、交渉を断念して、相手方からの訴訟提起を待つことになるでしょう(場合によっては、相手方に対して債務不存在確認訴訟を提起する方法もありえますが)。
交渉の中で弁護士が相手方に反論すると、相手方からの連絡が途絶えてしまい、結論がうやむやのうちに請求が立ち消えになることもありえます。どうしてそうなるのかというと、①自分が費用を掛けて弁護士を依頼してまで不倫慰謝料などを請求する価値はないと思っている、②かといってあなたに譲歩してまで示談をまとめるつもりもない、ということかと推察されます。
相手方が「不倫慰謝料300万円を払え」などという具体的な要求をしてくるとは限りません。「誠意を見せろ」「自分で考えた金額を振り込め」などと抽象的な要求をしてくることもあります。
そのまま相手方と話を進めても、後で追加要求をされるなどの危険性がありますし、実りのある交渉はまず期待できません。
まずは、相手方に対し、要求内容をはっきりさせるべきです。
要求内容が確定したら、相手方がどういう認識や証拠を持っているのか等についても検討しつつ、不倫慰謝料の相場などを踏まえて減額交渉に臨みます。法的には不倫問題はお金での解決になることを念頭に置いておきましょう。さもなければ、相手方からの色々な要求に振り回されるだけで終わってしまいかねません。
相手方の請求内容や言動などから、交渉できない、話し合いにならないと考えられるような場合は、早期に弁護士をつけたうえで対抗していくべきです。
あなたが弁護士を付けると、相手方も対抗するために弁護士を付けてくる可能性が高まりますし、そうなれば合理的な話し合いが可能になるかもしれません。
「相手方が弁護士をつけると訴訟になる可能性が高くなるのでは?」と心配するかもしれませんが、そういうわけではありません。弁護士同士で話し合い、示談交渉が成立することはよくあります。
弁護士を付けていれば、訴訟になることを恐れる必要はありません。相手方本人と方向性の見えない話し合いを続けるよりは、訴訟を提起されたほうが、結局は早くかつ妥当な内容で解決できるかもしれません。
このコラムの監修者
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示談書を作らず口約束で済ませると、後で争いが生じたりする可能性があるため望ましくありません。交渉結果をきちんと示談書にまとめてから支払うべきです。
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