このコラムの監修者
-
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
不倫・浮気が発覚して、慰謝料について話し合い、示談することになったとします。
示談したら、双方の間で約束したことを書面に記載することになります。
その書面が示談書です。
示談書は示談の証拠書類として、約束した内容を確認することを目的として作成するものです。
示談書には慰謝料の金額、支払い期限などの内容を掲載しておき、作成後に双方で取り交わして、自分の分を手元に保管しておきます。
後から約束内容を確認できるようにし、約束違反が起きないようにするわけです。
示談書に記載した内容や作成した経緯によっては、後になって有効性が争いになることもありえます。
争いにならないように作成の準備段階から気をつける一方、協議により内容を詰めたうえで、自分の納得できる内容に落とし込んでから示談書を締結すべきです。
この記事では、はじめに示談書の知識・基礎について簡単に説明します。
次に、不倫慰謝料を請求された側/請求する側それぞれの視点から、注意点やポイントについて解説していきます。
示談というのは法律用語ではありませんが、「民事上の争いを、法的手段をとることなく話し合いで解決すること」というような意味です。
示談内容を書面にしたものが示談書です。
なぜ示談書を作るのかというと、一言で言えば約束した内容を明確化するためです。
示談とよく似たものとして、民法上の和解契約があります(民法695条)。
和解契約では当事者が互いに譲歩することが要件とされています。
一方が他方の要求を丸呑みした場合、互いに譲歩しているわけではありませんので、和解契約ではありません。
示談書を作らず口頭だけで済ませると、「そもそもそんな約束はしていない」と揉めてしまう可能性があります。
「約束した」という点では認識が一致していても、何をどこまで約束したのか、内容について争いになるかもしれません。
慰謝料請求する側が、相手方に支払債務を認めさせたと思ったら、その相手方が「口約束だけだから守らなくても構わない」という態度に出てくることもあり得ます。
慰謝料請求された側が、慰謝料を支払った後で、相手方から「これでは心の傷は癒やせない、もっと払え」と蒸し返されてしまうこともあり得ます。
「示談書を作らないと必ずトラブルになる」とまでは言えませんが、紛争になるリスクが高まってしまうことは確かでしょう。
示談書を作るのは、そうしたことを防止し、事件を最終的に解決させるためです。
不倫慰謝料に関する示談書としては、例えば以下のような内容を入れるのが一般的です。
(弁護士を入れずに当事者間で示談する場合、インターネットでサイトから無料テンプレートを拾ってきて使用することが多いかもしれませんが)
以下のうち最低限必要なのは①当事者氏名、③慰謝料額と支払い方法、⑤清算条項です。
その他、具体的な事実経緯・個々の事案の内容、双方の具体的な約束内容によって、入れるべき事柄は異なってきます。
①示談をする当事者の氏名など、押印
②不倫についての謝罪のことば
③慰謝料額、支払方法(一括払い、分割払い、支払期限)
④今後は会わない、連絡しないといった約束(接触禁止条項)
⑤この内容でお互いすべて解決とする、後で蒸し返さないという旨の約束(清算条項)
(備考)接触禁止条項については、次のリンク先をご参照ください。→ 接触禁止文言とは
清算条項に関連して付け加えると、示談後に再度不貞があった場合は、清算条項の対象外です。
(言うまでもないことかもしれませんが)
たとえば「1月31日に示談した(清算条項有)。その直後の2月から4月まで不貞行為に及んだ」という場合なら、示談で解決した対象は、あくまで1月31日までのことについてです。
示談の時点で、将来のこと(2月から4月の分)まで含めて示談している訳ではありません。
「2月から4月までの不倫・不貞で新たに精神的苦痛が発生した」というように考えることができますので、別途、不倫慰謝料を請求しうる(されうる)ことになります。
示談の意思表示に問題があったり、示談内容自体が公序良俗違反に当たったりする場合には、示談書が無効になることがありえます。
(効力がない、ということになる)
示談書が無効というのは、具体的には「裁判所の力を借りて、示談書に書いてある約束を守らせることができなくなる」ということです。
慰謝料を請求する側が「示談書記載の金額を払え」と訴え出ても、訴えられた側が示談書の効力を争って無効だと認められると、裁判所もそのお金を支払えという判決を書くことはない、という結果になります。
そもそも示談書で約束したことを守らなければならないのは、当事者が自分の自由意思に基づいてその内容を約束したからです。
示談の際に当事者に誤解があったとか(錯誤)、脅迫行為があった(強迫)ような場合は、その内容を守れとは言えなくなるからです。
そのほか、約束の内容自体が公序良俗違反となる(=公の秩序や善良の風俗に反する)場合、裁判所としてもその内容を守れとはいえないからです。
もっとも、示談時にちょっと誤解や気後れがあったからといって、ただちに錯誤や強迫が成立する(示談取消し→無効となる)というわけではありません。
慰謝料の金額が高額だからといって、それだけですぐ公序良俗違反→無効となるわけでもありません。
「示談書に署名する前にきちんと内容を確認・吟味しないといけない」というのは、どちらの側にとっても当てはまることです。
特に慰謝料を請求される側にとっては、とても大切なことです。
慰謝料支払いなど、しなければならない自身の義務が掲載されているからです。
示談書は契約書であり、双方で取り交わすことを前提とした書類です。
(2人で示談する場合を想定しています。「妻、夫、浮気相手女性の3人がそれぞれ約束をして示談する」ときは、3人で取り交わすことになります)
示談書と異なり、双方での取り交わしを前提としておらず、一方が相手方に差し入れる形を想定しているような書類も存在します。
「慰謝料を請求された側(浮気・不倫の加害者)が、請求する側(浮気・不倫の被害者)に『誓約書』といった書類を差し入れて、何がしかの約束・誓約をする」ということは、しばしば見受けられます。
このような書類についても基本的には同じことです。
特に差し入れる側にとっては自身の義務などが掲載されているでしょうから、署名前にきちんと内容を確認しないといけません。
不倫慰謝料を請求された人にとって、示談書を作るメリットは、「相手方に対して果たさなければならない約束(債務)の内容を明確化・固定し、限定できる」ということです。
不倫慰謝料を請求された側としては「示談書を作成するメリットなんて無いのでは…」「自分自身の義務が決められて不利なだけで、有利なことは何もなさそう…」と思うかもしれません。
自身の責任の内容を定めてしまうのは、気が進まないかもしれません。
しかし、「適正な内容にすべく減額交渉をしたうえで、きちんとした示談書を取り交わす」ならば、メリットはあるのです。
相手方から次々際限なく要求され困り果ててしまう事態を回避する、すなわち「いつまで経ってもきちんと解決できない」事態を防ぐことができます。
示談書記載の約束さえ果たしておけば、自身の行うべきことを完了したのですから、不倫慰謝料問題は終わりになります。
それ以外の事柄を要求されても、応じる義務はありません。
たとえば示談書の定める内容が「①100万円を9月末までに払う。②清算条項」であったとします。
しなければならないことは、「100万円を期限までに払うこと」だけです。
払わなければならない金額は、100万円に限定されます。
(備考)期限までに支払わないと、遅延損害金が発生してしまいます。遅延損害金の額は、(約定/法定)利率がいくらなのかと、遅延した日数によります。「期限当日に振込もうとしたら銀行のシステムトラブルで振り込めなかった」といったこともあり得ますので、時間的余裕を持って支払うべきです。
100万円の支払いを期限までに行ったのなら、それ以外のことをする義務はありませんし、100万円を超える支払が発生することもありません。
「100万円を払ったから、本件(不倫の件)はこれで終わりだ」「それ以外のことは何も約束していないから、要求されても応じられない」と言えるわけです。
示談書を作らずに口約束で不倫慰謝料を払うのは避けるべきです。
約束内容が明確でないため、同じことで後から追加請求を受ける可能性があるなど、リスクが高いからです。
慰謝料を請求された側からいうと、示談書を作るというのは、自身の義務が確定されるという意味では不利なものです。
そのため、重要な注意点がいくつかあります。
①一旦示談書を作ると、後から異議を唱えるのが事実上難しくなる
(適正な内容への減額交渉が必要)
②示談書を作成するにあたって、きちんと内容を吟味して詰めておく
③示談書を2部作って取り交わす
①はとても大切なポイントです。
きちんと減額交渉を進めることで、内容を適正なものに落とし込み詰めておかないといけない。
すなわち、納得できない内容で作成してはいけないということです(②の理由が①ということ)
不倫慰謝料を請求された側として、何よりもまず注意しておかないといけない重要なことは、示談書作成後に内容に異議を唱えるのは事実上難しくなることです。
言い換えれば「内容に不満があるのなら示談書にサインしない」「サインする前に示談内容が適正になるようにきちんと交渉しなければいけない」ということです。
きちんと減額交渉をして、内容に自身が納得したその段階で、示談書を作成し取り交わしへ進めないといけません。
現実には「相手方に呼び出されて、言われたとおりに示談書にサインさせられた。どうしたらいいですか」というご相談も多いです。
「サインさせられた」といっても、文字通り無理矢理書かされたというほどではなく、「不倫がバレた手前、サインを断ろうにも断れなかった…」「話そうとしたが条件交渉にもならなかった。高額過ぎて不服だ…」といったケースが多く見受けられます。
(「納得行かないが、断り切れなかった」という感じでしょうか)
しかし、その程度の事情で示談書が無効になるというという可能性は、残念ながら低いと言わざるを得ません。
ではもうどうしようもないのか?というと、そうとは限りません。
項を改め、後記で説明します。
「サインさせられる」のは、相手方からの呼び出しに応じてしまうからです。
出向かず弁護士に依頼すべきです。
「弁護士を通じてきちんとお話し合いをさせてほしい」と言えば、話し合いの意思があることは相手方に伝わります。
出向くことが唯一の選択肢ではありません。
そもそも呼び出しに応じても、相手方が激怒しており交渉にならないとか、相手方への引け目から条件交渉が憚られるというようなことも多いです。
そこで諦めてサインするのではなく、サインせずにその場を辞し、弁護士に任せるべきなのです。
示談書の内容があやふやで読んでも何をすべきかはっきりしないとか、内容が具体的でなく異なる解釈ができてしまうというのでは、約束をする意味がありません。
後でモメる原因にもなってしまいます。
あなたにはそのつもりがなくても、相手方から約束違反を指摘されてしまうかもしれません。
弁護士を入れずに当事者で示談する場合、示談書があなたには渡されず、相手方だけが持っておく、というケースがあります。
これでは何を約束したのか後で分からなくなってしまいますし、示談した証拠があなたのほうに残らないことになってしまいます。
「浮気を自身の配偶者に知られたくないから」といって示談書を破棄してしまう人もいますが、内容が分からなくなってしまったら取り交わす意味がありません。
内容を明確に詰めて示談書を作ったうえで、きちんと取り交わすべきです。
そうしないと、示談書に記載の内容を見ても約束内容が限定されておらず、したがって不倫慰謝料問題も最終的に解決されてはいない、ということになりかねません。
「不倫慰謝料800万円を9月末までに払うという示談書にサインさせられてしまった。内容的に不利すぎると思っている」というような場合、その示談書を持参のうえで弁護士に相談すべきです。
当事者同士で取り交わした示談書には、内容や作成過程において問題が見受けられることも多々あります。
自分1人で悩まないで、弁護士に見てもらいましょう。
(備考)ただし最善なのは、示談書にサインする「前に」弁護士に相談することです。弁護士に依頼すれば、示談内容についての交渉等もしてもらえますから、不満のある内容で示談を強いられることがそもそも無くなります。
参照:不倫で示談書などを書かされた。内容に納得できない、どうしたら…
示談書を作った後に内容に異議を唱えるというのは、先にも述べたように難しいのが現実です。
とはいえあなたとしては、その示談書に不服がある=約束を守れないと現実に主張しているわけですから、相手方としても「示談書で取り付けた約束が、すんなりとは守られなさそうだ」と認識することになります。
そうすると場合によっては、相手方が早期解決のため「多少譲歩するから、その内容はきちんと守れ」と言って、示談書の作り直し(=再示談)に応じてくれるかもしれません。
特に示談書に色々と不備が見られる場合には、その可能性も高まってくるでしょう。
相手方としては、示談書作成によって約束を確実に取り付けたと思っています。
相手方が「示談書で解決済みだ」という姿勢を崩さず、再示談交渉ができないこともあります。
この状況で示談書の約束を果たさないと、相手方が訴訟を提起してくる可能性が高まります。
たとえば800万円で示談書を作ったのに期限までに支払わなかったら、相手方が「800万円を払え」という訴訟を提起してくる可能性が高くなります。
相手方としては、訴訟を提起するために弁護士への依頼などをしないといけないでしょう。
そのため「800万円を払わず支払期日を過ぎたが、相手方から訴訟は提起されていない」という状態がしばらく続くかもしれません。
しかし、消滅時効期間満了までには、訴えられる可能性が極めて高いと思われます。
仮に相手方と再示談交渉ができない場合は「相手方が提起してきた訴訟の中で示談書の不備を指摘して有効性を争っていき、示談よりも有利な解決を目指す」という流れになります。
相手方(原告)としても、判決まで至るとなれば解決までに相当長期間がかかるうえ、判決で命じられた額を現実に回収できるか(きちんと払ってもらえるか、強制執行で取立て可能か)等について懸念を抱かざるを得ないところです。
そのため、示談書よりも有利な内容で和解が成立する可能性もありえます。
和解がどうしてもまとまらず判決となる場合には、法律的観点から示談の無効を裁判官に認めてもらえるかどうかの問題になります。
示談書の内容に全く異存がないという場合なら、あとは示談書を作って取り交わしへ進めばよいことになります。
(義務を限定できるというメリットを確定させる)
「この内容のまま作って大丈夫なのか、不利過ぎるのではないか」と悩んでいるのなら、サインする前に弁護士に相談すべきです。
弁護士に依頼すれば、慰謝料額等についても相手方と交渉してくれることになりますし、相手方の言いなりの内容で示談を強いられることも無くなります。
相手方と示談が調う場合には、弁護士が形式的にも内容的にも整った示談書を作成してくれますし、示談が調わず相手方から訴訟提起された場合でも、適切に対応していくことができます。
参照:不倫で誓約書(念書)にサインしろと言われたら、どうしたらいい?
不倫慰謝料を請求する側にとって、示談書を作成するメリットは、約束内容を獲得・実現できる確実性が増すことです。
示談書を作ることで、相手方に求める内容を明確化し、その約束をきちんと果たすよう心理的圧力を掛けることができます。
(例)
・慰謝料:300万円を9月末までに払う
・接触禁止:「示談日以降、夫と一切会わない」
・口外禁止:「第三者に一切口外しない」
・違約金:「もし再度不貞したら1回あたり●●万円を払う」など
仮に示談書の約束が果たされない場合にも、その履行を求めることが容易になります。
示談書で300万円と合意したのに相手方が100万円しか払ってこなければ、相手方に差額200万円を請求できることになります。
まだ示談していない段階で「不倫慰謝料300万円を払え」という請求をするのと、「不倫・不貞行為について示談書を取り交わした→その示談書の約束に基づいて300万円を払え」という請求をするのとでは、後者のほうが容易になります。
前者では、示談未成立なので、300万円を払うという約束が存在しません。
したがって、精神的損害が300万円であることを最終的には訴訟の場で立証しないといけません。
後者では、示談が成立して300万円を払う約束が存在します。
示談書を見れば300万円で合意したこと(=相手方が300万円の債務を負っていること)が明らかになるので、「自分で約束したのだから、そのとおりに300万円を払え」と言うことができ、請求が容易になるのです。
慰謝料の金額以外にも、示談書でたとえば婚姻継続中の接触禁止を定めることがあります。
(ex.「電話やメールなどでも配偶者に接触しない」「二人で会わない」「交際を解消する」)
そのような約束が無い場合に比べれば、有る場合のほうが「自分で約束したことなのだから守るのは当たり前だろう。接触するな」と言いやすくなったります。
約束に違反した場合の違約金を定めることもあります。
(ex.再度不貞しないという約束に違反したら、違約金●●万円を支払う)
違約金を定めてあれば、再度の不貞があれば、示談書の合意に基づいて違約金を請求することが原則可能となってきます。
(とてつもなく高額な場合など法的には請求を認めることができない場合もありえますが、それは別として)
違約金を定めていなければ、再度の不貞について、改めて不倫慰謝料を請求することになります。
「再度不貞があったので金銭を請求する」という意味では、違約金の定めがあろうとなかろうとどちらも同じことです。
しかし、法的構成や請求の容易さが異なってくるわけです。
配偶者への求償権放棄を定めることも多いでしょう。
(特に離婚せず、夫婦関係を続ける場合)
民法上、不倫・不貞の責任は、金銭で賠償することになります。
示談書に金銭以外のこと、たとえば接触禁止、口外禁止、求償権放棄、違約金といった内容を定めれば、相手方にその約束を果たさせることができます。
このように示談書を作ることによって、そこに記載された約束を相手方に守らせることができる(その確実性が上がる)というのが、慰謝料を請求する側にとってのメリットとなります。
不倫慰謝料を請求する側の立場から言うと、ゴールは示談書作成それ自体ではありません。
重要なのは、示談書締結により事件を解決し、その約束を相手方に果たさせることのはずです。
(接触禁止が設けられている場合は尚更でしょう)
示談書を作成すれば「自分でその内容を約束したのだから遵守しろ」と相手方に言いやすくはなりますが、示談書が無効だという争いが起きると、作った意味がなくなってしまいます。
したがって、示談書の作成経緯や内容について争いとなりうる火種を残すのは避けるべきでしょう。
示談書作成にあたっては、後に相手方から「自由意思でサインしたわけではない」などと言われないように、話し合いをする場所や言動に気をつけておくべきです。
場所でいうなら、たとえば喫茶店のようなオープンスペースで、相手方も直接自由に発言や退出ができるような状況で作成するほうが良いでしょう。
サインするときの状況を録音しておくのも良いかもしれません。
示談書を交わす際、その内容として色々要求したくなる気持ちは分かります。
かといって、たとえば法的にみて許容しがたいような内容だと、いざ相手方を訴えなければならないというときに悪影響が出てくる(権利実現の障害になってくる)ことが懸念されます。
そこまでいかなくても、色々要求された相手方が弁護士を付けてきて、抵抗が強まったり示談がまとまらず訴えなければならなくなったりする可能性も高くなってくるでしょう。
慰謝料を請求する側としても「2人の協議で早期に示談で解決したい」という人は多いはずです。
もしそうならば、示談書の内容としては相場や類似事例をふまえた金額・通常の内容の事項に留めておくとか、書き方・表現も考慮して相手方の懸念や疑念が生じないようにし、双方が「これで解決だ」と安心できるような形で、協議を進めていく必要があります。
「請求内容をあまり大きくすると相手方の強い抵抗を招いてしまうかもしれない(→こちらも弁護士をつけないといけなくなるかもしれない)。かといって、少なくともいくらぐらいでなければ、反省したとは受け止められない」といったような計算(?)が必要になってきますが、それは慰謝料を請求する側としてはいつも悩むところです。
示談書を公正証書で作っておくことも一つの方法です。
公正証書で作っておく大きなメリットとして、①もし慰謝料が期日までに支払われないと、公正証書を基に、裁判を経なくても相手方の財産を対象として強制執行できるという点があります。
(給料差し押さえなど)
公正証書は、不倫問題の当事者ではない第三者の(しかも法律の専門家である)公証人が関与する形で、当事者2人が中立の場所(=公証役場)に赴いて作成するものです。
そのような適正・厳正な手続きを進めて作るものなので、裁判をしなくても公正証書だけで強制執行ができることになっているのです。
(ちなみに、弁護士が関与した示談書(契約書)でも、裁判を経ないと強制執行まではできません。公証人という特別な法律資格を持った人が、公正証書という特別な書面を作成することで、裁判を経ず直ちに強制執行可能となります)
公正証書で作っておくメリットとして、②示談書が有効だと判断される可能性が高くなることも挙げられます。
公証人に示談書の内容をチェックしてもらうことができるうえ、「この示談書(公正証書)は、勘違いや強迫によるものではない。だから有効だ」と後で言いやすくなるわけです。
公正証書にするデメリットとして、作成のための費用や手間が掛かってしまいます。
(公証人への手数料がかかり、公証役場への出頭が必要です)
公正証書にすべき典型的なケースは、慰謝料の支払いが長期分割になるような場合です。
相手方がまとまった額を一括で支払えず分割払いにするとき、支払いが滞ると困ります。
相手方に「しっかり約束どおり支払わないと強制執行するぞ」とわからせることも目的として、公正証書にするわけです。
上記のようなデメリットもありますので、「内容にかかわらずとにかく公正証書にすれば良い」とまで、おすすめできるものではありません。
示談書が公正証書ではない場合は、約束の金額が支払われなければまず裁判で請求する必要があります。
裁判に勝訴すれば、その金額を支払ってもらう権利があると認めてもらえたことになります。
強制執行ができるのはその後のことです。
また公正証書の場合と比べると、示談書の作成状況などを争われやすくなります。たとえば「示談書は脅迫されて仕方なく作らされたものだ」「監禁されてサインしないと帰さないと言われた」というような主張を、相手方がしてこないとは限りません。
公正証書以外にも、簡易裁判所の即決和解という手続きを利用する方法もあります。
「相手方が即決和解で慰謝料100万円を支払うと約束したのに、支払わない」という場合、即決和解の和解調書に基づいて、相手方の財産に強制執行できることになるのです。
公正証書の場合と同様に、裁判を経ず強制執行ができたり有効と認められやすくなったりするメリットがある一方で、費用や手間がかかってしまうデメリットがあります。
即決和解の場合、和解調書(示談書や公正証書に相当するもの)を裁判所から渡してもらえるまで、日にちが結構かかります。
裁判所の状況によって異なりますが、即決和解を申立ててから和解調書をもらえる日まで、おそらく2か月くらいは先になるかと思います。
なので、たとえば「2月頭に示談し、その月末を支払期限とする」というような場合には、即決和解は事実上使えないと思われます。
即決和解の流れは、簡単に言うと以下のようになります(細かくは裁判所にご確認下さい)
①当事者間で内容に合意
・和解条項の文言原案も、この時点で固まっています。
②簡易裁判所に即決和解を申立て
③裁判所と和解条項の文言を最終すり合わせ
・裁判所から「ここの表現は改めて欲しい」といった指示があります。
④期日当日
・双方が裁判所に赴き、裁判官の目の前で内容を確認します。
・和解調書を手渡してもらいます。
以上、この記事では、示談書の知識や不倫慰謝料を請求された側/する側それぞれから見た注意点などについて紹介してきました。
この情報が解決への参考になれば幸いです。
示談書を作成するのは、取り決めた約束内容を明確にしたうえで、その約束を果たすことで不倫慰謝料問題を最終的に解決するためです。
示談書を作成するメリットは、不倫慰謝料を請求する側/された側双方にあります。
①不倫慰謝料を請求する側としては、相手方に約束を確実に守らせることに繋がります。
2人で作成した示談書は一応有効だとみられるからです。
効力をさらに強めたいなら、公正証書等の利用も考えられます。
どちらにせよ最終的に事件を解決すべく作成しているのに、「無効だ、いや有効だ」という争いに形を変えてトラブルが続いてしまうのでは、意味がありません。
紛争を招きかねない要素は、事前に排除しておくべきです。
②不倫慰謝料を請求される側としては、示談書作成により、相手方に果たすべき約束の内容を限定(特定)することができます。
その約束さえ果たしてしまえば、最終的解決がもたらされます。
一旦示談書を作成してしまうと、その無効が認められるハードルは高めですから、約束内容に納得いかない場合には、サインせずに弁護士に依頼すべきです。
弁護士が依頼を受けると、依頼者に代わって交渉を進めていきます。
仮にそれで話がまとまらなくても、裁判を通じて有利な解決を獲得できるかもしれません。
もし不利な示談書にサインしてしまった場合でも、「もう争えない」とすぐ諦める必要はありません。
不倫慰謝料の示談書のことで悩みがあれば、まずは弁護士の法律相談を受けて、今後の対応策を検討しましょう。
更新日:2025.1.7
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
はじめに 不倫がバレて慰謝料を請求されてしまいました。 「自分はこれからどうなってしまうの、訴えられるの?」 「こんな金額、払えない…」 「夫にバレないように解決できるの?」 不安ばかりが先に立って、気が動転してしまうのも無理はありません。 まず、何よりも「これだけはやってはいけない」ということを知っておきましょう。 不倫慰謝料を減額して解決していく道が開け・・・
はじめに Cさんは不倫がばれてしまい、不倫慰謝料を払えという連絡が届いてしまいました。 Cさんは、そのことを交際相手Bに相談しました。 するとBから『請求を取り下げてくれるように、妻Aには自分が頼んでみるから気にしなくていい、放っておいて大丈夫』と言われました。 …このような話を耳にすることも、ままあります。 本当にそのまま放っておいても大丈夫なのでしょうか・・・
はじめに 「不倫がバレて住所を教えろと言われています。教えないといけませんか?」 結論から言うと、相手方に住所を教える義務はありません。 しかし、住所を教えずにいればそれで済む、とは限りません。住所を教えるのも教えないのも、メリット・デメリットの両方があります。 もしあなたが弁護士に依頼すれば、相手方に住所を教えることなく解決できることもあります。 以下、細・・・
はじめに 夫のお気に入りの風俗嬢に不倫慰謝料を請求することはできるのでしょうか? 「単に客から指名されたのでサービスを提供しただけだ」 風俗嬢の立場から言えば、そのようにもいえそうです。 裁判例でも、店内での肉体関係について、不倫慰謝料は発生しないとしたものがあります。 もっとも中には、風俗嬢が店外で夫と不貞関係を持っているというケースもしばしば見受けられま・・・
不倫慰謝料を払えない、どうしたらいい? 「不倫で慰謝料300万円を請求された、とてもそんな額は払えない・・・」 「不倫慰謝料500万円と興信所の費用200万だなんて、払えないに決まってるじゃない・・・」 不倫・不貞行為の慰謝料を請求されたが支払えない、というご相談が寄せられることも多いです。 悪いことをしたのは自分だからと思ってはいても、払えな・・・
ダブル不倫の慰謝料を請求されたら(はじめに) ダブル不倫(W不倫)とは? (1)ダブル不倫(W不倫)とは、既婚者同士の不倫のことです。 「交際している男女がいる。その男性には別に妻がおり、女性にも別に夫がいる」という状況です。 (2)既婚者同士が不倫しているので、当事者双方の家庭に、不倫の加害者と被害者が共に存在します。 &nbs・・・
はじめに 「別居して冷却期間を置いているつもりだったが、いつの間にか夫が他の女性と堂々と交際しているようだ」といったケースもあります。 まだ籍を抜いていないのに、夫は夫婦関係が終わったものとして行動しているわけです。 こうした場合の不倫相手への慰謝料請求は、別居していることの影響を検討する必要があります。 前提知識:破綻後の不貞…慰謝料支払い義務なし 既婚者・・・
はじめに 「旦那にバレずに不倫慰謝料を請求できますか?」 このようなご相談を頂くことがあります。 「不貞相手へ不倫慰謝料を請求しているなんて知られたら、夫から怒られたり揉めたりするのでは・・・」 「不貞の証拠を集めるためとはいえ、探偵をつけていたなんて夫に知られたら離婚になるのでは・・・」 そういった心配からのご質問のようです。 「夫と離婚するつもりはないが・・・
はじめに(設例) 「不倫慰謝料を払えという内容証明が、元交際相手の奥さんから届きました。確かに不倫は事実ですが、10年ほど昔にとっくに終わったことなんです。期間も数か月くらいでしたし・・・。慰謝料を請求されたので久しぶりに元交際相手に連絡して事情を説明したら、今年は結婚25周年で、節目の年に不倫を知って激怒している、離婚話には全くなっておらず夫婦仲は平穏その・・・