このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
「不倫慰謝料を払えという内容証明が、元交際相手の奥さんから届きました。確かに不倫は事実ですが、10年ほど昔にとっくに終わったことなんです。期間も数か月くらいでしたし・・・。慰謝料を請求されたので久しぶりに元交際相手に連絡して事情を説明したら、今年は結婚25周年で、節目の年に不倫を知って激怒している、離婚話には全くなっておらず夫婦仲は平穏そのものだ、とは聞きましたが・・・。不倫をした自分が悪いとはいえ、こんな昔のことで今更慰謝料を支払わないといけないのでしょうか?」
…このように、不倫が終わって何年も経ってから不倫慰謝料を請求されたというケースも、少なくはありません。
「昔の不倫のことで慰謝料を支払わないといけないのか?」というのは、言い換えれば「不倫慰謝料はいつ時効になるのか?」ということです。
民法によれば、①相手方(=元交際相手の配偶者)が「損害及び加害者を知った時」から3年、②「不法行為(≒不貞行為)の時」から20年で、不倫慰謝料は時効となります。以下では、もう少し細かく見ていきましょう。
(備考)上記のとおり、相手方が離婚しないという前提で説明していきます。
消滅時効というのは、権利が長期間行使されない場合に、その権利の消滅を認めるという制度です。
もっとも、権利が長期間行使されない場合であっても、ただそれだけで自動的に権利が消滅するわけではありません。「消滅時効を援用する」という手続きが必要です。
(備考2)消滅時効完成後にそのことを知らず債務承認をした場合、その後に時効を主張しても、消滅時効は認められません(承認時から再度期間が過ぎれば別ですが)
不倫慰謝料を請求する権利も、長期間行使されなかった場合には、時効で消滅することになります。
不倫慰謝料請求権は、法律的には「不法行為による損害賠償請求権」といいます。
それがいつ時効になるのかというと、民法で下記のように定められています。
***(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。***
①被害者(=元交際相手の配偶者)が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、あるいは②不法行為の時から20年間行使しないときには、(あなたが時効援用をすれば)不倫慰謝料請求権は時効消滅します。
ごく大雑把に言えば、「相手方が、不貞の事実と、その相手がどこの誰だと知った時から3年」という意味です。
相手方としては、不貞の相手=あなたの氏名・住所を知ったなら、あなたに対する訴訟を提起して損害賠償を請求することが可能な状況になるからです。
(備考3)最高裁判例によると、加害者を知った時とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度においてこれらを知った時を意味し(最判S48.11.16)、損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう(最判H14.1.29)、とされています。
不法行為というのは不貞行為とほぼイコールですので、肉体関係の時から20年ということになります。
たとえば肉体関係が現在まで30年続いてきているような場合、20年より前のことについては時効になります。
「不倫が終わって20年経った。相手方が不倫を知り、その相手があなただと特定して、そこから1か月で不倫慰謝料を請求してきた」
という場合でも、時効援用をすれば、不倫慰謝料請求権は時効消滅することになります。
(備考4)不倫慰謝料事件において、不法行為に該当する典型例は不貞行為(性交渉)ですが、性交渉に至らない性交渉類似行為のほか、婚姻関係を破壊させるような交際関係も不法行為に該当すると評価されることがあります。
冒頭の設例は、「不倫は10年ほど前に終わった」というものでした。
不倫が終わってから20年は経っていません。しかし、もし相手方が不貞の事実とその相手があなただと知ってから3年経っているならば、消滅時効を援用することで、慰謝料は時効消滅しゼロとなります。
とはいえ、いつ知ったのかというのは相手方の事情ですから、あなたのほうから「3年経ったはずだ」と明確には言えないケースも多いでしょう。
相手方が知ってから3年経ち時効になったかどうかを最終的に明らかにするにはどうしたらいいのでしょうか。
これは、最終的には尋問(法廷で言い分や認識を尋ねること)などによるほかないものと思われます。相手方がどういう経緯で不倫の事実を知り、不倫の相手があなただとどうやって特定するに至ったのかという点を、相手方や元交際相手に法廷で質問することになるでしょう。
あるいは、「実は10年前に不倫を撮られており、その調査報告書を相手方が探偵から受け取っていた。10年前の時点で相手方は不倫を知り、あなたの住所氏名まで特定していた。相手方が今年になって不倫を知ったというのはウソだった」というような場合も、ありうるかもしれません。
(備考5)たとえば「元交際相手が10年前に相手方から調査報告書を突きつけられ不倫を問い詰められていた。相手方が本当は10年前に知っていたということを、元交際相手が教えてくれた」というようなケースが考えられます。
不倫慰謝料の請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権です。①相手方が「損害及び加害者を知った時」から3年、②「不法行為の時」から20年で、時効になります。
もっとも②不倫が終わって20年が経ってから不倫慰謝料を請求されるケースというのは、あまり多くはないと思われます。
①相手方が知ってから3年経ったかどうかというのは、あなたの立場からすると正確に調べることが難しい事柄です。それを突き止めるためには、法廷で相手方や元交際相手を尋問するなど、相応のプロセスや努力が必要かもしれません。
上記のとおり、②の場合は20年が必要です。10年前の不倫というとかなり昔のことというのが一般的な感覚かと思われますが、それだけでは時効にはなりません。
たとえば「相手方が10年前の不倫を知ってその相手があなただと特定し、それから1か月後に不倫慰謝料を請求してきた」という場合には、①も②も満たしませんので時効にはなりません。
「昔の不倫だから慰謝料を払う義務はない」と言って請求を突っぱねておけば済むか?というと、実際問題としては、(ほとんどの場合20年経ってはいないでしょうから)危険なことが多いかもしれません。むしろ、きちんと弁護士をつけて対抗していくべきでしょう。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
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