このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
「肉体関係はないから、不倫慰謝料(不貞慰謝料)を払う義務もないですよね?」
そのようなご質問を受けることがあります。
確かに、不倫慰謝料を支払わなくてはいけない典型的なケースは肉体関係がある場合です。
しかし、「肉体関係がなければ慰謝料を支払う義務はない」とは限りません。
不倫慰謝料請求は、民法の「不法行為」という制度に基づくものです。
民法では、故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は損害賠償責任を負うという形で定められています(民法709条)。
一言でいえば、「他人の利益を侵害する行為(=加害行為)をした人は、損害賠償義務を負う」ということになります。
(備考)損害には経済的損害と精神的損害があります。不倫慰謝料というのは、不倫によって蒙った精神的損害についての損害賠償金のことです。経済的損害については、調査費用や弁護士費用などの損害賠償金が認められる可能性があります。
このことからお分かりのとおり、「肉体関係があれば慰謝料を請求できる」と民法に書いてあるわけではありません。
「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」とされれば、慰謝料支払義務が発生することになるのです。
肉体関係のほかにも、婚姻関係を破綻に至らせる(侵害する)ような接触についても、損害賠償義務が発生する余地があります。
たとえば、性交渉そのものには至らない性交渉類似行為、同棲といったものが考えられます。
肉体関係があった疑いを払拭し切れないが肉体関係があったといえる証拠はない、というケースで、慰謝料支払義務が認められた裁判例もあります。
(参考)東京地裁平成28年9月16日判決「・・・抱き合ったり、キスをしたりしていたほか、Aが服の上から被告の体を触ったこともあったのであるから、その態様は、配偶者のある異性との交際として社会通念上許容される限度を逸脱していたといわざるを得ない。・・・被告の行為は、交際相手の配偶者である原告との関係において、不法行為を構成する」
この裁判例では、社会通念上許容される限度を逸脱した交際をしていたという理由で、損害賠償義務が認められています。
具体的にどのような内容の接触をすれば慰謝料を支払う義務があると裁判所に判断されるのか?というのは、一言では言いきれません。事案の内容に即したケースバイケースの判断となるでしょう。
以上述べてきたこととは別の問題として、「実際には肉体関係はなくても、裁判官から見て、肉体関係があると見られてしまう」という可能性があります。
たとえば「12月24日夜にラブホテルに一緒に入って25日朝に出てきたが、事実として肉体関係はなかった。夜通しでゲームをしていただけだ」ということもあるかもしれません。
これが真実だとしても、その言い分を裁判官が信じてくれるかどうかはまた別問題だ、ということです。
一般論としてラブホテルは性交渉をするために利用するための場所ですから、そこで異性と二人きりで一夜を過ごしておいて何もなかったというのは、なかなか裁判官に信じてもらいづらいのではないかとも思われます。
「肉体関係はないから、慰謝料を払う義務はない」という回答を、不倫慰謝料を請求してきた相手方に伝えたとします。
もちろんその伝え方にもよるでしょうが、この回答を受け取った相手方としては「慰謝料請求に対してゼロ回答された、こちらと話し合うつもりはないようだ」と受け止めてくる可能性が高いです。
それで相手方が慰謝料請求を諦めてくれればいいですが、「穏便に話し合いで済ませようと思ったのに、かくなる上は裁判しかない」ということで、訴えられてしまう可能性もあります。
特に相手方が弁護士をつけている場合だと、ほぼ確実に訴えられるであろうと予想されます。
相手方が弁護士に依頼しているということは、それなりの費用を掛けて本気で請求してきていることが窺われますし、訴訟を進めていくに足りるそれなりの証拠がある(と相手方が考えている)可能性が高いからです。
肉体関係は本当にないとしても、疑われるようなことをしてしまったような場合であれば、このように突っぱねずに話し合いを模索するほうがよいこともありえます。
もしかしたら相手方は、慰謝料よりも交際を絶つと約束して欲しいと考えているのかもしれませんが、突っぱねてしまうと話し合いの糸口すらなくなってしまいます。
場合によっては(真実はどうであれ)裁判官に肉体関係があったと見られてしまうリスクがあります。あるいは肉体関係まではともかくとして、婚姻を破綻させる可能性のある接触はあったと認定されるかもしれません。
そのため、具体的な事実関係を踏まえて慎重に対応すべきかと思われます。
他方、あえて突っぱねてゼロ回答で戦っていくほうが良いと思われる場合もあります。
そのあたりは結局、不倫慰謝料請求を受けるまでの事実経緯やご本人の意向などを踏まえたうえで、ケースバイケースで判断していくしかありません。
不倫慰謝料を支払う義務があるのは、肉体関係がある場合が典型です。
しかし、肉体関係がなければ支払義務は一切ありえない、というわけではありません。
配偶者のある異性との交際として社会通念上許容される限度を逸脱した、という理由で慰謝料が認められた裁判例もあります。
「肉体関係がないから慰謝料を払う必要はない」と突っぱねて戦うほうが良い場合もあります。
しかし、もう少し相手方の意図を探ってみれば穏便に解決できることもあります。
まずは経験豊富な弁護士に、交際から現在に至るまでの具体的な事情を説明したうえで、今後の対処方針を相談してみることをお勧めします。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
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