このコラムの監修者

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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次

不倫関係において「妊娠」という事態が加わると、問題の深刻度は一気に増します。
まず状況として、例えば「あなたが交際相手の配偶者から不貞行為の慰謝料の請求を受けている最中に、妊娠が発覚した」ケースもあれば、「妊娠をきっかけに不倫が露見し、不貞行為の慰謝料を請求された」ケースもあるでしょう。
妊娠したのがあなたなのか交際相手なのか、でも違う状況になります。
「不倫での妊娠をきっかけに、交際相手と揉める」状況になることもあります。「中絶同意書にサインしてほしい。夫のサインなんて無理」などと求められるかもしれません。
さらに抱える問題の内容としても、不倫・不貞行為の慰謝料だけでなく、いろいろなものが出てきます。
以下、この記事では、あなた=「既婚者と不貞関係を持っていた人」=交際相手の配偶者から不倫慰謝料を請求される立場にある人という想定で、解説していきます(あなた自身の性別や、既婚者かどうかは問いません)。
当事務所では、これまで多くの「請求された側」の相談を受けてきており、妊娠の絡んだケースも複数解決しています。
妊娠という重い事実を抱えつつも、あなたの仕事や平穏な生活を最小限のダメージで守るための「戦略」が存在します。
まずは冷静に、解決への道筋を確認していきましょう。
「交際相手の配偶者から不貞行為の慰謝料を請求される立場」のあなたに、「妊娠」という問題も加わった場合、妊娠したのがあなたなのか交際相手なのかによって、検討すべきことが異なります。
あなたとしては、自身の妊娠に伴う諸々の負担を抱えながら、相手方(=交際相手の妻)からの不貞慰謝料請求という法的な攻撃にさらされる、ということになります。
あなたの目下の最大の関心事は、子どもを生むのか中絶するのか、交際相手にどのように責任を取ってもらうのか、ということかもしれません。
それ自体は当然のことですが、相手方からの不貞慰謝料請求に対し、あなた自身の問題として処理するということも、避けては通れません。
(1)あなたの状況からすると、現実問題として中絶を選択せざるを得ないケースも少なくないと思われます。
ところが、交際相手が「妻にバレたから一切助けられない」などと言って逃げたり、誠実な対応をしなかったりするケースも散見されます。
中絶費用を誰がどれだけ負担するかは、本来はあなたと交際相手の二人で話し合って決めるべきことですが、判例・実務上、少なくとも半分程度は男性側も負担すべきとされることが多く、折半が妥当と評価される場合も少なくありません。
参考となる裁判例は後に掲げますが、あなたから交際相手に対して、中絶費用の分担を求めたり、交際相手の不誠実な対応による精神的苦痛についての慰謝料を請求したりすることができます。
(2)なお、もし交際相手が無責任な言動をしているとしても、だからといって相手方からの不貞慰謝料請求を無視するようなことは、絶対に避けるべきです。
例えば、「交際相手に妊娠させられた。その交際相手は逃げ回っている。私ばかり慰謝料を請求されるなんて不公平だ!」というお気持ちはよくわかりますが、それとこれとは法的には別の問題です。
相手方からの不貞慰謝料請求に対しては、あなた自身できちんと対応したうえで、それとは別の問題として、交際相手にはきちんと責任を取ってもらう、という整理になります。
(3)相手方へ慰謝料を支払った後で、交際相手にその一部を請求すること(求償権行使)によって、慰謝料の公正な分担を目指すことになります。
さらに、交際相手が中絶費用を払わない、妊娠した後に責任逃れのような言動を繰り返していた、といった事情がある場合には、そのことで受けた精神的苦痛についての慰謝料を別途請求することで、交際相手にきちんと責任を取ってもらうことが考えられます。
これらは、あなたが相手方に支払った不倫慰謝料についての求償権とは別の理由・法的根拠に基づいて発生するものです。
したがって、仮にあなたが求償権を放棄したとしても、中絶費用の分担請求権や、交際相手の不誠実な対応についての慰謝料請求権を放棄したことにはなりませんし、これらを交際相手に請求することはなお可能です。
あなたがその子を出産する場合、出生した子はあなたの戸籍に入ります。既婚者である交際相手の戸籍に入るわけではありません。
交際相手が自分の意思で認知した場合、その旨が戸籍に記載され、交際相手と子とのあいだに法律上の父子関係が発生します。
認知に応じない場合には、「認知の訴え」という裁判手続き(強制認知)によって父子関係を認めてもらうことができ、そのうえで養育費を法的に請求していくことになります。
相手方は「避妊せず性行為に及んだ、これは極めて悪質だ」として、妊娠に対する怒りの感情を反映し、相場を大きく超える金額を提示してくることも多いです。
妊娠自体は慰謝料増額要素となりうるとしても、無制限に増額されるわけではありません。
例えば「不貞行為よりも前に完全に破綻していた」場合や「交際相手が既婚者だと知らず、知らなかったことに過失がない」場合には、不貞行為の慰謝料を支払う義務はありません。
法的に適正な範囲以内での最終決着を目指して、交渉や裁判で争うことが重要です。
相手方(交際相手の夫)から、妊娠を理由に高額な請求を受けているあなたにとって、最も重要なのは「妊娠は事実なのか」の確認です。
また、相手方からだけではなく、交際相手からも何らかの請求を受ける可能性があります。
相手方から「妻が妊娠した」と告げられたら、まずはそれが事実なのかを確認すべきです。
とはいうものの、あなたで事実確認をしようにも、相手方から「妻に接触するな」などと牽制されていたり、交際相手に連絡をしても応じてこなかったり、応じてきたとしても詳細を説明しなかったりして、すぐには確認が取れないという可能性もありえます。
仮にそのような状態が続く場合、あなたとしては、「妊娠したというのなら証拠を出してほしい。出さない限りは妊娠したという前提は認められない」というスタンスで対応するほかない、ということも考えられます。
交際相手から、子をどうするかや中絶の意向などについて、連絡が入ってくることが想定されます。
あなたとしては、それまでの交際相手の言動から、「本当は相手方や他の男性の子ではないのか?」といった疑念が湧くこともあるかもしれません。
しかし、もし「あなたが誠実な対応をしなかった」と評価されると、交際相手に対する慰謝料支払義務が発生してしまう可能性もありますので、注意が必要です。
不貞行為によって相手方に与えた精神的苦痛についての慰謝料と、妊娠・中絶を巡る場面で誠実な対応をしなかったことで交際相手に与えた精神的苦痛についての慰謝料とは、当然ながら別のものです。
相手方は、妊娠によって甚大な精神的苦痛を受けたとして、高額な慰謝料を求めてきます。
具体的には、「避妊せず性行為に及んだことは悪質だ」とか、「(仮に出産した場合)自分の子ではないことが分かり、嫡出否認の手続きが必要となるなど大きな負担を掛けられた」といった主張をしてきて、相場を大きく超える金額を提示してくることも多いです。
妊娠自体は事実であるとしても、それ以外にもいろいろ減額できる事情が存在することがあります。
例えば、「不貞行為よりも前に完全に破綻していた」場合や、「交際相手が既婚者だと知らず、知らなかったことに過失がない」場合には、不貞行為の慰謝料を支払う義務はありません。
事実関係を精査した上で、法的に妥当な増額幅に収めるための反論を構成していく必要があります。
不倫と妊娠が重なった場合、発生しうる金銭的な問題は、「相手方に対する、不貞行為の慰謝料」だけではありません。
誰が誰に対して、どのような費用や慰謝料を負担する可能性があるのかを見てみましょう。
あなたと交際相手との不倫によって、相手方の婚姻生活の平穏を侵害したことについての慰謝料です。
したがって、相手方に対して支払うことになる費用です。
妊娠が事実なら、不貞行為の存在(性行為があったこと)自体はほぼ明らかですので、不貞慰謝料の減額を目指すには、それ以外の事情を挙げて反論することになります。
具体的にどう反論すべきかは、項を改めて後述します。
中絶にかかる費用(手術費、入院費など)を誰が負担するのかについては、民法上に直接の規定はありません。
しかし、近時の裁判実務や条理(物事の道理)に照らせば、お互いの自由意思で性行為に及んで妊娠した以上、その結果必要となる中絶費用は平等に分かち合うべき、と考えられる傾向にあります。
もし出産に至る場合、子供を養育するための「養育費」の問題が発生します。
例えば次のような場合、あなたと交際相手との間でも、慰謝料の問題が生じる可能性があります。
男性が妊娠を知らされたのに話し合おうともしない、話し合っても責任を取ろうとせず逃げ回っている、というような場合があります。
このような場合、女性から男性に対する慰謝料請求がなされる可能性があり、実際に慰謝料が認められた裁判例もあります(後記裁判例参照)。
例えば「男性が独身だと偽り、女性に結婚をほのめかして肉体関係を持った、女性は、男性が既婚者だと知っていたら関係を持たなかった」というような場合です。
現在の裁判例の傾向からすると、慰謝料が認められやすいのは、男性と女性が結婚を視野に入れて真剣に交際していたようなケースが多いようです。
参照:貞操権侵害の慰謝料とは
相手方(交際相手の配偶者)は、怒りに任せて「妊娠した(させた)のだから、これくらいは払え」「誠意を見せろ」と高額な慰謝料を迫ってくることが少なくありません。
不倫で妊娠した場合、不貞行為(性交渉)がなかったとは言えず、妊娠は一般に慰謝料を増額させる事情にもなり得ます。
しかし、相手方の言いなりになる必要はありませんし、慰謝料を拒絶・減額できる材料が存在することも多いです。
例えば、次のような事情は、慰謝料の発生自体や金額を争ううえでの重要なポイントになり得ます。
不倫開始から現在に至るまでの経緯を丁寧に整理し、少しでも慰謝料を減額できる要素がないかを検討したうえで、反論材料として組み立てていくことになります。
また、不倫での妊娠があると、相手方が激高して不適切な行動に出てくることもあります。
例えば、「会社に不倫をばらす」「配偶者や親族に言いふらす」「退職を強要する」といった行為は、内容や態様によっては名誉毀損や脅迫・強要などの不法行為に当たる可能性があります。
そうした行動からどう身を守るか、もしそうした行動があった場合にどう抵抗するか、そしてそれらを慰謝料の減額や別途の損害賠償請求の材料につなげていくか、といった点も重要になります。
(あわせて読みたい)[不倫・不貞の慰謝料1000万円!?法外請求への対処法と相場、減額方法]
不倫と妊娠が発覚した際、激昂した相手方が実行しがちなのが「職場などへの攻撃」です。
「会社にばらして居づらくしてやる」「辞めなければ実家や近所に言いふらす」といった脅しは、生活基盤を根底から揺るがすものであり、これに屈しそうになってしまうかもしれませんが、ここできちんと対抗することが重要です。
そのための最善の方法のひとつが、弁護士に依頼することです。
たとえ不倫での妊娠が事実であったとしても、相手方に、公然とそれを職場に暴露したり、退職を強要したりする権利はありません。
妊娠を知って感情的になっている相手方に対し、あなた自身で直接話し合いを試みても、火に油を注ぐ結果になりがちです。
弁護士に依頼して間に入ってもらい、話し合いを「法的な枠組みの中」に戻すことが先決です。
(あわせて読みたい) [不倫を職場にバラされた・バラすと脅されたら?名誉毀損と慰謝料減額のコツ]
もし相手方の怒りに押され、その場で不利な誓約書(念書)を書いてしまった場合でも、すぐに諦める必要はありません。無効を争える可能性があります。
(あわせて読みたい)[不倫の誓約書を無理やり書かされたら?無効・取消を争えるケースを解説]
妊娠中絶があった場合の、不貞行為の慰謝料や貞操権侵害の慰謝料などについて判断した最近の裁判例を、参考までにご紹介します。
(1)東京地裁令和4年7月14日判決(50万)
原告の妻が被告との不貞で妊娠・出産し、離婚となって、550万円を請求していた事案です。
裁判所は、不貞行為と妊娠が決定打となって最終的に離婚となったものの、原告自身の過去の浮気があり、原告が妻の会社を離れたこと、会社では離婚したとの噂が立ち、妻も従業員に原告はもういないと述べていたこと等から、すでに「破綻に近い状態」であったと認定して、慰謝料としては50万円を認めました。
(2)東京地裁令和5年11月16日判決(250万)
原告が被告に対して夫との不貞関係を止めるよう求めたものの、被告が双子を出産し、夫と離婚して、550万円を請求した事案です。
裁判所は、不貞発覚直後に原告が関係を止めるよう要請したにもかかわらず、被告がそれを無視して約2年半にわたり不貞関係を継続したこと、その間に双子を妊娠・出産したこと等から、慰謝料としては250万円を認めました。
(3)こうした裁判例からは、①不倫でできた子を出産するにまで至った場合であっても、その他の事情によっては大幅減額が可能である、②逆にそれ以外の悪質と評価される点(不貞期間が長い、止めるよう求められたのに続けた)があれば不利に考慮されてしまう、ということが言えるでしょう。
(1)東京地裁令和5年9月25日判決(貞操権侵害、棄却)
原告(女性)が、被告(男性)は婚姻意思を有していなかったにもかかわらず、結婚を前提とする交際を原告に申し込み、原告と性交渉に及んだなどとして、約197万円を請求した事案です。
裁判所は、被告が原告に対して結婚を前提とする交際を申し込んだとは認められない、双方間において、被告が独身であることが暗黙の前提とされていたとはいえないとして、原告の請求を認めませんでした。
(2)東京地裁令和 5年 8月17日判決(貞操権侵害、50万)
原告(女性)が、「独身者限定」の婚活パーティーで出会った被告(男性)が既婚者であることを隠して交際し肉体関係を持ったとして、330万円を請求した事案です。
裁判所は、原告から結婚前提でなければ交際ができないと言われたにもかかわらず、既婚者であることなどを秘して交際を開始し6回肉体関係を持ったことは貞操権侵害にあたるとして、慰謝料としては50万円を認めました。
(3)東京地裁令和4年5月13日判決(人格権侵害、90万)
原告(女性)が、被告(男性)は約4年9か月にわたり既婚であることを隠したまま交際を継続したとして、330万円を請求した事案です。
裁判所は、原告は婚姻につき一定程度の期待を有し、4年9か月程度にわたり相当高頻度の性交渉を伴う交際をしていたとして、人格権侵害を理由に慰謝料としては90万円を認めました。
(4)東京地裁令和4年11月16日判決(慰謝料60万、中絶費用など約65万)
交際していた未婚男女間で妊娠が判明した後、被告(男性)は原告(女性)の身体的・精神的苦痛や経済的負担を軽減するなどの行為をせず、「産んで一緒に育てよう」と述べるなど、その場しのぎの無責任な対応をとり続け、中絶の決断を遅れさせて母体に危険が生じる状態に陥らせた、と原告が主張して、約658万円(うち慰謝料500万円)を請求した事案です。
裁判所は、①未婚の男女の性行為により女性が妊娠・中絶に至る場合、男性には女性の苦痛や経済的負担を軽減・解消し、等しく分担する「父性としての義務」があり、これに違反した慰謝料として60万円を、②慰謝料以外の損害(中絶費用等)については、共同で行った性行為に由来する結果であるとして、認定された損害額を折半した額(約65万円)を認めました。
(5)概ねの傾向としては、貞操権侵害については、「婚姻に向けた正当な期待が形成されていたか」「積極的に相手を誤信させる言動(欺罔)があったか」といった点が重視される傾向があります。中絶費用については、男女とも合意の上で性行為に及び妊娠・中絶に至った場合には、男性が中絶費用の半額程度を負担すべきと判断している裁判例が目につきます。
①既婚男性の子を妊娠し、出産を決意した女性のケースと、②既婚女性から妊娠を告げられ、中絶同意書にサインした男性の実例を、それぞれご紹介します。
Q1. 中絶できる条件、期限などはどうなっていますか?
A1. 概ね下記のとおりですが、詳細は医師にご相談ください。
現実の医療現場では、「経済的理由による母体の健康への影響」の解釈として、生活状況や家庭環境なども含めて総合的に判断されている実情もあるためです。
当事務所の上記解決事例2も、夫ではなく不貞相手の男性(依頼者)の同意で中絶手術がなされたケースです。
【中絶が「法律上」認められる主な条件(母体保護法、行政通知などによる)】
| 項目 | 概要 |
| 中絶できる時期 | 「胎児が母体の外で生き続けることができない時期」(母体保護法2条)に限られ、具体的には厚生労働省通知により、通常妊娠満22週未満(21週6日まで)とされています。 |
| 中絶できる場合① | 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの(母体保護法14条1項1号) |
| 中絶できる場合② | 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫(かんいん)されて妊娠したもの(母体保護法14条1項2号) |
| 必要な同意 | 妊婦本人と、その配偶者(法律上の夫)の同意。 なお、配偶者が知れないとき、配偶者が意思表示不能のとき、妊娠後に配偶者がなくなったときは、本人のみの同意で足りるとされています。DV等で実質破綻していて同意を求めるのが現実的でない場合に本人同意のみで足りるとする行政通知もあります。「配偶者が知れない」というのは「父親が夫か浮気相手かどちらか分からない」という意味ではない、と理解されています。 |
【手術内容、費用等】
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 妊娠初期 (12週未満) |
子宮内容物を掻き出す方法や吸い出す方法。日帰り手術。 |
| それ以後 (12週以降) |
人工的に陣痛を起こし流産させる方法。数日間入院。 ※妊娠12週以降に中絶した場合、役所へ死産届を提出し、埋葬許可証をもらう必要があります。 |
| 中絶費用 | 原則として健康保険は使えません。12週以後の場合は入院費用もかかります。 最終的な負担としては男女(父母)で折半するケースが多くみられますが、事情によって全額をどちらかが負担することもあります。個別具体的なケースにより判断が異なります。 |
Q2. 妊娠(中絶、出産)がある場合、慰謝料は高くなりますか?
A2. 妊娠等を知った相手方の怒りは強いため、相場(裁判所が認めるだいたいの範囲)を超える多額の慰謝料を請求されることも少なくありません。
不倫慰謝料の基本的な相場は、離婚に至らない場合で数十万~100万円程度、離婚となる場合で150~300万円程度ですが、不倫の結果として妊娠・中絶・出産があると、その上限の近くになったり、それを超えたりする可能性もあります。
もっとも、「妊娠・中絶があれば自動的にプラス何十万円」といった機械的ルールがあるわけではなく、妊娠に至った経緯、その後中絶・出産するに至った事情、女性・男性双方の対応など、個別の事情を総合的に考慮しながら(あなたにとって有利な材料を挙げていきながら)減額を求めていくことになります。例えば、「あなたはいつも通り避妊具装着を求めたのに、交際相手がこれを拒否した」といった事情が考えられます。
Q3. 上司(既婚)の子を妊娠しました。上司の妻(=相手方)から、要求通り慰謝料を払わなければ不倫・妊娠を職場にバラすと言われています。どうしたらいいですか?
A3. 「要求どおり慰謝料を払わなければ職場にばらす」といった言動は、内容や態様によっては違法な脅し(脅迫・恐喝)や名誉毀損に当たる可能性があります。
一般的には、弁護士から受任通知を送付し、職場への通告をしないように相手方へ警告する対応が考えられます(警告としてどのような内容を記載するか、どこまで強く書くかはケースバイケースです)。
受任通知を送付することで、実際に職場へ知られることなく、相手方との交渉が進んでいくケースも多い傾向にあります。
Q4. 妊娠したのは私ですが、そもそも既婚者にもかかわらず言い寄ってきた交際相手が悪いのに、私だけ慰謝料を請求されるのは不公平です。交際相手のほうで(夫婦間で)解決してほしいです。
A4. あなたのお気持ちはもっともですが、現在の日本の法制度上では、不貞行為によって精神的損害を受けたと主張する相手方(=交際相手の妻)としては、その夫とあなたのどちらに対しても慰謝料を請求することができ、そしてそのうち誰に請求するのかを選ぶことができます(あなただけ、夫だけ、両方)。
法律上は、あなたと交際相手の双方が「共同不法行為者」として責任を負う立場にあり、あなたが相手方に慰謝料を支払ったあとで、その一部を交際相手に請求する(=求償請求)という形で、交際相手と負担を分かち合うことが可能です。
負担の割合は、事実上折半(5:5)とされることも少なくないようですが、裁判実務上は責任の重さによって決められ、貞操義務違反を犯した交際相手の責任のほうが重いとされる傾向にあります(例えば、あなた:交際相手=4:6など)。
一方で、「交際相手のほうで(夫婦間で)解決してほしい」とだけ伝えて相手方からの慰謝料請求に全く対応しないでいると、「誠実に話し合うつもりがない」と受け取られ、そのまま訴訟を起こされるおそれもあります。早期に弁護士に相談し、相手方への返答内容や求償の進め方も含めて、一体として戦略を立てることが大切です。
Q5. 中絶でかかった費用や中絶の慰謝料を、交際相手に請求できますか?
A5. 一般的には、中絶費用(手術費・通院費などの実費)については、交際相手にも負担を求めるケースが少なくなく、少なくとも半分程度は負担してもらう、事情によっては全額を負担してもらうケースもあります。
一方で、「妊娠や中絶したことそれ自体」を理由に、必ず中絶慰謝料が認められるわけではありません。男性が避妊に協力しなかった、妊娠が分かったあとに一方的に連絡を絶った、中絶を強く迫ったのに費用は払わないなど、妊娠から中絶に至るまでの言動が不誠実だった場合には、中絶費用とは別に慰謝料が認められた裁判例もあります。
また、独身だと偽られていたような場合には、貞操権侵害を理由とする慰謝料が認められることがあります。
(「6. 参考裁判例」もご参照ください)
Q6. 交際相手の既婚女性から妊娠したと連絡がありました。本当に私の子かどうかもわからないのに、対応しなければならないのですか?
A6. そのお気持ちはもっともですが、「本当に自分の子かどうか分からない以上、無視してよい」とまでは言えません。
まずは妊娠の事実や週数などについて、交際相手に産婦人科を受診してもらうなど、できるかぎりで、冷静に事実関係を確認しておくことが大切です。
交際相手が相手方(=交際相手の夫)や別の男性など、あなた以外の男性との性交渉をしていた可能性がある場合のように、自分の子だと確信が持てない場合には、安易に中絶同意書にサインしたり、「認知する」といった発言をしたりすることは避けるべきです(Q7参照)。
しかし、根拠無く感情的に突き放したり、誠実に対応しなかったりすると、後になって交際相手からそのことについて慰謝料を請求される可能性もあり、かえってトラブルが大きくなるおそれもあります。
なお、当事務所の解決事例については、「7. 解決事例」をご参照ください(自分の子か疑いつつも中絶同意書にサインした事例。請求825万円→100万円で解決)。
既婚女性を妊娠させた場合、法律上は「婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定される」という原則も絡んできますので(民法772条)、あなたの子かどうかという問題だけではなく、交際相手と相手方との夫婦関係・家族問題にも重大な影響がでてきます。
一人で判断せず、早い段階で弁護士に相談しておくことをおすすめします。
Q7. 相手方(=交際相手の夫)から不貞行為の慰謝料として莫大な金額を請求され、「妻が妊娠した」とも言われています。交際相手に連絡を取ったところ中絶したというのですが、本当かどうかもわかりませんし、そもそも私の子かすらわかりません。どうしたらいいですか?
A7. かなり当惑されるのも無理のない状況ですが、性交渉を持ったこと自体は事実だということであれば、まずは①妊娠・中絶が事実なのか、②それはあなたの子なのか、➂請求額は妥当なのか(妥当な慰謝料はどの程度か)を分けて検討すべきです。
①については、診断書や中絶手術の領収書などの客観的資料の提示を求めるべきでしょうし、②については、例えば交際相手が夫との性交渉もあると説明していたのなら、中絶したのは夫の子の可能性がある、という主張のポイントになりえます。
そもそも、相手方が妊娠・中絶を慰謝料の増額要素として主張する以上、それらが事実として存在することや、中絶したのはあなたの子である(可能性が高い)ことは、相手方が立証すべき事柄です。
こうした点について相手方が十分な説明や証拠提示をしないのであれば、あなたとしては「現時点ではその点は認められない」と反論していくことになります。
交際相手との交際の経緯、LINEのやりとりなどを保存した上で、早めに弁護士に相談し、妊娠・中絶部分をどこまで認めるか、いくらまでなら支払うのか、あるいは徹底的に争うのか、といったラインを一緒に整理していくことをおすすめします。
不倫と妊娠が重なるという事態に、かなり重い精神的重圧がかかっていることでしょう。
相手方からの執拗な連絡や法外な金銭請求、「職場バレ」の恐怖などで、夜も眠れない日々を過ごしているかもしれません。
妊娠・中絶などが慰謝料の増額事情になることはあっても、慰謝料が青天井で認められるわけでは決してありません。
妊娠に至った経緯や、その後中絶・出産を選ばざるを得なかった事情を一つひとつ紐解いていくことで、慰謝料の金額を相場以下まで減額していく道筋が見えてきます。
時間が過ぎるほど、中絶のタイムリミットや相手方の感情の悪化などにより、あなたが取り得る選択肢は刻一刻と狭まっていきます。また、妊娠をめぐって、交際相手と向き合い、費用負担や今後の関係について話し合わざるを得ない場面も出てきます。
パニックになって、後で後悔するような不利な約束をしてしまう前に、「請求される側の味方」として戦う専門家に、一度ご相談いただければと思います。
(修正日:2026.3.16)
このコラムの監修者

秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
(1)債務不存在確認訴訟というのは、裁判所に「被告に対する義務はない、と認めてほしい」と訴え出る裁判のことです。 不倫問題でいえば、「不倫慰謝料を払え」と請求されている人が、裁判所から「慰謝料支払義務はない」と認めてもらうために、自分の方から相手方(慰謝料を請求してきた人)を被告として訴える、というものです。 不倫問題が裁判に持ち・・・
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