このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
「今回の不倫については慰謝料50万円で手打ちにするが、二度と不倫しないように違約金を約束させたい」
「今は慰謝料ゼロでいい。ただし今度不倫したらペナルティを与えたい」
このようなご希望をいただくことがあります。
離婚せずに配偶者とやり直す選択をされた方にとっては、不倫相手に近づかせないのが再優先だからです。
違約金がペナルティの典型です。
たとえば「再度不貞したら違約金100万円を払う」と約束させたとします。
再度の不貞があると100万円のペナルティ、となります。
二度と不貞しようという気を起こさせないように、というわけですね。
もっとも、ペナルティなり違約金を取り決めさえすれば全てその内容は有効だ、というわけでもありません。
その内容は無効だと後で言われないように、気を付けておく必要があります。
違約金というのは、約束違反をした場合に支払うと約束したお金のことです。
小難しく言うと、約束違反(=債務不履行)により発生する損害賠償額を予め定めておく、というものです。
「再度不貞したら違約金100万円を払う」という約束なら、再度不貞したときの損害賠償額(=慰謝料額)を100万円にする、と事前に取り決めていることになります。
(備考)違約金は、民法上、損害賠償額の予定であると推定されています(民法420条)。
(備考2)違約金が、約束違反をしたことについての罰(=違約罰)という趣旨で定められることもありえます。その場合、違約金とは別に損害賠償を請求することができます。しかし、請求する側で、違約金が違約罰の趣旨で定められたことについて立証する必要があります。
ある特定の約束を相手方に守らせるためです。
「再度不貞しない。もし再度不貞したら違約金100万円を払う」
この例でいえば、「再度不貞しない」というのが守らせたい約束です。
もし相手方がその約束に違反したら、違約金100万円を払う義務が発生します。
「再度不貞しないという約束を守ろう」というインセンティブとして働くわけです。
違約金は、双方が合意することで、設定することができます。
相手方が設定を拒否している場合には、一方的に定めることはできません。
違約金を損害賠償額の予定として取り決めたとします。
この場合、約束違反があったことさえ立証すれば、その額を相手方に請求することができます。
相手方は、損害は発生していないとか、実際の損害額は違約金額よりも小さいはずだといって反論するかもしれません。
しかし、その言い分は裁判所には認められません。ただし後述のとおり、公序良俗違反で無効とされたりする可能性はあります。
(備考3)債権法改正前の民法では、当事者が損害賠償の額を予定したときは、「裁判所は、その額を増減することができない」と定められていました(改正前民法420条)。改正後民法ではこの部分が削除されています。裁判所が無効にしたり減額したりできることを明確化するため、という趣旨です。
違約金の額を双方が自由な意思で取り決めたのなら、違約金の約束は原則として有効となります。
しかし場合によっては、違約金の約束が無効とされることもあります。
そもそも自由な意思で取り決めたといえない場合(ex.相手方を強迫した場合)がそうです。
ほかにも、違約金の約束内容自体が公序良俗違反だという場合には、無効だと判断されてしまう可能性があります。
(備考4)強迫というのは、相手方を畏怖させて(怖がらせて)意思表示させることです。この場合は、強迫を受けた相手方に取消権が発生します(民法96条)。取り消された行為は初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。
(備考5)違約金の約束の全部が無効になるのか、あるいは一定限度を超える部分が無効になるのかというのは争いがあるところです。一般的には後者だと考えられています。
公表裁判例である東京地裁平成25年12月4日判決は、面会・連絡しないという約束に違反した場合には違約金1000万円を支払うという約束をしたケースです。
裁判所は、150万円を超える部分については無効だと判断しています。
一言で言えば、違約金を定めることで達成したい目的(=配偶者に面会・連絡させない)に釣り合う部分はともかく、それを超える部分は無効だということです。
人によっては、次のように考えるかもしれません。
「ある限度を超える部分が無効になるだけなら、あえて高めにふっかけて設定しておいたほうがよいのでは?その限度までは認められるんだし、相手方に約束を破らせないという抑止力にもなるし…」
確かにそれはそれで一つの考え方なのかもしれません。
しかし、そういう要求をすることで、相手方はどういう行動に出る可能性があるでしょうか。
ふっかけた額の違約金を約束せよと相手方に要求することで、相手方は、あなたとは全く話にならないと思って連絡に応じてこなくなるかもしれません。
あるいは、弁護士を付けて対抗してくるかもしれません。
もし要求どおりの違約金を設定できたとしても、いざ後で違約金を請求した際に、無効だと反論される可能性もあります。
相手方は「無茶苦茶な内容だから守る道理はない」などと言って、約束を無視するかもしれません。
そうしたリスクを考慮すると、ふっかけすぎるのも考え物です。
本来の目標は、これまでの不倫についての慰謝料問題をきちんと解決し、今後不倫させないこと、のはずです。
その約束を相手方に守らせることが重要です。
なのに、自らその目標から遠ざかってしまいます。
不倫・不貞で受けた精神的苦痛(損害)は金銭で賠償してもらうというのが法律上の大原則です。
「もし今度不倫したらペナルティを与えたい」というのも、やはり金銭で償ってもらう形が原則になります。
金銭以外(違約金以外)のペナルティも考えられなくはないでしょう。
しかし、実際にそのペナルティを実行しようとしたときに、相手方がすんなり応じてこない可能性が高いものと推察されます。
(備考6)例えばペナルティが「相手方が職場を辞める」というものだったとします。後日、相手方がそれに応じる可能性は低いと思われます。応じない相手方を無理やり退職させられるわけでもありません(そのペナルティ自体が公序良俗違反ではないかというような話は別としても)。
あなたがいざそのペナルティを与えようとしたときには、おそらく実現困難なことが多いでしょう。
そうなると結局、違約金の形で定めておくほうが良いのではないかと思われます。
なお、違約金にしろペナルティにしろ、約束違反をさせないためのものです。
違約金やペナルティを獲得することそれ自体は、最優先目標ではありません。
「再度不貞したら違約金100万円を払う」なら、「再度不貞しないという約束に違反させないこと」が優先すべきことです。
もちろん実際に約束違反があったら、「約束どおり100万円を獲得すること」は重要なことです。
しかしそれは事後的に重要になるだけで、約束を守らせることのほうが大事です。
違約金を設定するのは、接触禁止や再度の不貞の防止など、守らせたい約束があるからです。
ところが、どういう場合に違約金が発生するのか不明確なことがあります。
そもそも(違約金部分に留まらず)示談書全体としての内容自体が怪しい場合もあります。
違約金も含めて示談書全体をきちんと整えて作っておかないと、後から無用の争いが生じることがあります。
違約金を相手方が支払おうとしない場合には、弁護士に依頼して内容証明郵便で請求を行い、それでも応じてこなければ、訴訟を提起して違約金の支払いを請求することになるでしょう。
「●●の約束に違反したら▲▲円の違約金を支払うと相手方は約束した。相手方は約束違反をした。だから▲▲円を払え」
というように求めていくことになります。
(備考7)約束違反があったことは、あなたが主張立証することになります。
違約金▲▲円と損害賠償額の予定として定めておけば、訴訟で▲▲円が認められやすくなります(公序良俗違反で無効とされる可能性があるのは別問題です)。
違約金の定めがなければ、金額について争われる余地が、相対的にみて大きく残ることになります。
相手方と示談する場合、二度と不倫させないようにするため、違約金を設定することも効果的です。
違約金は一方的に設定できるものではなく、双方の合意が必要です。
違約金額を決めると、約束違反があったことを証明すれば、その額を相手方に請求できることになります。
ただし、守らせたい約束の内容に比較して違約金額が高額すぎるような場合には、違約金の定めが(一部)無効になってしまうことがあります。
弁護士を付けず本人同士で示談する場合、違約金以外のペナルティを付けることがまま見られます。
しかし、いざペナルティを科そうと思っても実行が難しい場合もありますので、違約金の形で設定しておくのが無難です。
とにかくペナルティや違約金を大きくしておけば良いのだろうと思って圧力を相手方に加えていく人もいます。
しかしその結果、相手方との交渉自体が上手く進まなくなってしまうことがあります。
優先すべきは約束を取り付けることです(「二度と不倫しない」とか「接触しない」とか)。
重要なのはその約束を守らせることですが、違約金はそのための手段です。
将来争いになったときに違約金の約束が無効だなどと言われるリスクを低めておくことも重要です。
違約金も含め相手方とうまく交渉したうえ、きちんとした内容の示談書として取り決めておくためには、弁護士に依頼して進めていくほうが良いでしょう。
(参照)弁護士に依頼するメリット
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
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