このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
慰謝料コラム
目次
不倫で略奪というと穏やかではありませんが、「不倫関係を続けるうち、交際相手が配偶者と別居して、あなたのもとに転がり込んできて同棲中」とか「妻子ある交際相手とあなたが同棲している」というようなケースも、少なくはありません。
「離婚していない交際相手が、あなたと浮気し同棲を開始した」という状況です。
その後、交際相手の配偶者(=相手方)が浮気・同棲を知って、あなたに不倫慰謝料を請求してきた場合、どうなるのでしょうか?
①不倫開始より前に婚姻関係が破綻していたことを証明できれば、慰謝料を支払う義務はありません。
(交際相手の「破綻している」という説明を信じただけではダメですが)
②破綻していたとまではいえない場合、不倫関係解消済みの場合に比べると、同棲中のほうが慰謝料額が上がってしまう可能性があります。
示談や和解、判決の形で解決し、不倫慰謝料を支払ったとします。
その後も同棲や肉体関係を続けると、慰謝料をまた別途請求されてしまう可能性も出てきてしまいます。
(「再度慰謝料を請求しない」といった契約・約束を取り付けることができれば別ですが)
以下、詳細を解説していきます。
一般論としては「年頃の男女が2人で同棲していれば、肉体関係があっても不思議ではない」という経験則があることは、否定できません。
あなたが交際相手と同棲していることがバレると、相手方は「肉体関係がある」と理解して、不倫慰謝料を請求してくる可能性が高くなってきます。
同棲と一言でいっても、いわゆるルームシェア・シェアハウスといったものもありますし、「物理的に一緒に住んでいれば即肉体関係が認められ、反論の余地はない」というわけではありません。
とはいえ、たとえば「家賃節約のためにワンルームマンションをシェアしているだけで肉体関係はない」と反論しても、(それが事実であろうとなかろうと)説得力に乏しいように思われます。
特に相手方が、あなたと交際相手が同棲する以前から親密であったことを示す写真・動画などの証拠を集めており、それが裁判で提出されると、「従来から親密であった上に同棲を始めたのだから、肉体関係はあるはず」と裁判官が考える可能性は高くなってしまうでしょう。
不倫の末、略奪して同棲するに至っている場合は、不倫慰謝料額は高くなる傾向にあります。
ただしその前に婚姻関係(結婚関係)が破綻していれば、不倫慰謝料を支払う義務はありません(既に婚姻関係が破綻していた場合、そもそも略奪とは言えないかもしれませんが)。
そのため「不倫・略奪と婚姻破綻のどちらが先であったのか」という点で、お互いに激しい争いとなることもしばしばあります。
(備考)あなたと交際相手との関係が内縁関係である場合(重婚的内縁関係)で、かつ交際相手と相手方の婚姻関係が破綻している場合には、あなたの内縁関係は法的保護に値すると判断されることがあります(内縁不当破棄による慰謝料が認められる余地がでてくるなど)
略奪した交際相手と同棲しているということは、「交際相手と相手方との婚姻生活の平和を、あなたが日々侵害し続けている」と裁判官に評価されてしまいます。
したがって、例えば「不貞行為を2カ月間続けたが今は交際解消済み」というケースと比較すれば、略奪・同棲中の場合のほうが、どうしても不倫慰謝料額は高くなってしまいがちです。
2カ月で解消した場合と比べれば、現在同棲中の方が侵害期間は長い(侵害の程度が大きい)からです。
「不貞行為2カ月間、今は交際解消済。相手方は夫婦で同居しており離婚しない」というケースと比べると、「略奪して同棲を続けていることで、あなたが実質的に婚姻を破綻させた」と裁判官に評価されてしまう可能性が高くなります。
婚姻破綻していないことは、基本的には慰謝料の減額要素になりえます。
破綻していない場合、破綻した場合と比べると、婚姻生活の平穏が害されている程度が少ないからです。
相手方が交際相手と同居中の場合なら、「交際相手と同居中なのだから、交際相手との婚姻関係は破綻しているわけではない」という反論も考えられます。
しかし、あなたの方が現に同棲しているのですから、そのような反論はできなくなってしまいます(破綻していないと言うのが難しい状況になってしまいます)。
その結果、不倫慰謝料の額は高くなってしまう傾向にあります。
先述のとおり、不倫より前に婚姻関係が破綻していた場合には、形式的に略奪したように見えても、不倫慰謝料を支払う義務はありません。
破綻していたということは、保護すべき婚姻生活の平和が存在していないからです。
婚姻破綻後の不倫であるという反論は、非常によくあるものです。
したがって、具体的事情を挙げて説得的に述べない限り、(言葉は悪いですが)裁判官に聞き流されてしまいます。
破綻後だと言いうる典型例は、交際相手と相手方が離婚前提に別居を開始した後で不倫が始まったという場合です。
単なる単身赴任というだけでは不十分です。
この場合「夫婦関係(家庭)を維持するために、仕事で単身別のところに住んでいる」というだけのことであり、一緒に住んでいないという事実は、婚姻・夫婦関係の破綻を示すものではないからです。
もっとも、不倫慰謝料金額を裁判官が決めるにあたっては諸々の事情が考慮されます。
厳密な意味で破綻といえるかどうか微妙な場合でも、夫婦仲が相当悪かったことを示す事実を説得的に主張することができれば、不倫慰謝料額をゼロにはできないまでも、減額材料にはなりえます。
「仮にこの不倫がなかったとしても、既に夫婦仲が悪く、離婚に至る可能性が高い状況だった」という場合、不倫・略奪による損害が小さいと判断され、慰謝料が減額される可能性はありえます。
妻が同棲の差止めを求めて女性を訴えたという事件があります。
この事件では、同棲の差止めは認められませんでした(大阪地方裁判所平成11年3月31日判決)。
裁判所は、「差止めは、相手方の行動の事前かつ直接の禁止という強力な効果をもたらすものであるからこれが認められるについては、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別な事情のあることが必要である」と述べたうえ、夫婦のこれまでの経緯を踏まえると、「同棲することによって…平穏な婚姻生活が害されるといった直接的かつ具体的な損害が生じるということにはならない」として、差止めを認めなかったのです。
「不倫の露見をきっかけに、交際相手とは関係解消済だ」という場合はともかくとして、すでに同棲中の場合、「今回の慰謝料は支払うが、同棲は今後も続けたい(関係解消は約束できない)」と希望されることがあります。
(たとえば「交際相手の子供を出産し育てており、『家族三人』で暮らしている」といったような場合が想定されます)
法律の理屈からいうと「同棲が続く限り慰謝料が発生し続ける→相手方との紛争も続いてしまう」というリスクがあります。
それを回避する一つの方法として、相手方との示談・和解交渉の際、「慰謝料●円を支払う。その代わり、今後同棲を継続したとしても再度慰謝料を請求しないと約束してほしい」といったように、提案・交渉していくことは考えられます。
(当事務所では実際、訴えられた後の和解で、原告からそうした約束を取り付けたこともあります)
但し相手方から「同棲継続を大っぴらに認めろというのか、許せない」などと反発を受けてしまうリスクが考えられます。
相手方に約束をしてもらうためには、それなりに高額のお金を支払うなど、代償が大きくなってくる可能性もあります。
相手方が「今回の支払いだけで十分だ、再度請求はしない」とすんなり約束してくれるか?というと、それは交渉してみないと分かりません。
断られる可能性ももちろんありますし、反発を招くだけで終わってしまうかもしれません。
そのため「同棲継続しても慰謝料を再度請求しない約束」を相手方に求めていくことが、全ての場合におすすめできるわけではありません。
あくまでケースバイケースで、一つの方法としてそういうやり方もありうるということです。
もし慰謝料を再度請求されたり相手方とトラブルになったりする可能性を完全に無くしたいということであれば、「交際相手との同棲や男女関係を解消して、交際相手の離婚がきちんと成立した後で再開する」という形にすべきです(言うまでもありませんが・・・)。
「交際相手とあなたがある意味一緒になって相手方と協議を進める→交際相手と相手方との離婚問題と、相手方とあなたとの不倫慰謝料問題とを一緒に解決する」ということも、あり得なくはありません。
法律的に見れば、不倫慰謝料について、あなたと交際相手とは連帯債務を負う関係にあります。
そのため、慰謝料の点について「連帯して●円を払うから」と協議することそれ自体はおかしなことではありません。
そうした協議を進めるなかで、相手方が婚姻継続を断念する方向になってくる可能性があるかもしれません。
もっとも法律上は、不倫慰謝料問題と離婚問題とはあくまで別の問題です。
あなたと交際相手が相手方に不倫慰謝料を支払ったからといって、相手方が離婚しないといけない、というわけではありません。
同様に「相手方が離婚しないなら、慰謝料なんて一切支払わない」という言い分も通りません。
(離婚しないことだけを理由として、慰謝料支払を拒むことはできません)
不倫慰謝料問題と離婚問題との比較でいえば、基本的には慰謝料のほうが早く解決に至ることが多いです(お金だけの問題なので)。
「離婚は正式には成立していないが、事実上破綻しているようだ(破綻させた責任がある)から、それを前提とした金額を支払わなくてはならない」という状況が先行してしまう可能性があります。
その場合、形式的にはまだ離婚未成立なのに、破綻前提の金額の負担が先行することになってしまうリスクがあります。
「離婚と一緒に解決したい」という希望が実現することもありますが、そうなるとは限りませんので、その点は注意が必要です。
「略奪した交際相手と現在同棲している」となると、肉体関係を持った(不貞行為をした)だけの場合とは、事情が変わってくることがあります。
「不貞行為をしたが今は交際解消済み」ということなら、婚姻生活の侵害行為がなされたことそれ自体は過去のことです。
「略奪している・同棲している」となれば、現に侵害している・破壊していると評価される可能性があります。
言い換えると、慰謝料の減額要素として「相手方と交際相手はまだ同居中で婚姻破綻していないから、精神的損害は(相対的に見れば)大きくない」という理屈を使えなくなってしまいます。
したがって、不倫慰謝料の額が大きくなってしまいがちです。
一般論として、不倫・略奪が婚姻関係破綻後であれば、不倫慰謝料を支払う義務はないということになります。
また、厳密に破綻後だといえなくても、関係を持つより前から夫婦仲が相当悪かったということを立証できれば、不倫慰謝料の減額材料となり得ます。
したがって、破綻していたか否かという点で、激しい争いになることが予想されます。
道義的には「同棲も交際も解消し、交際相手の離婚成立後に再開すべき」ということになるでしょうが、何らかの理由で同棲を解消できないことも無くはないでしょう。
もし「相手方の離婚が成立していない、あなたのほうでは和解・判決後にも同棲を続ける」ことを選択する場合には、その代償として、「慰謝料を一度支払っても、その後再度請求されてしまう」という立場が続く可能性があります。
相手方から「再度慰謝料を請求しない」約束を取り付けるよう試みることが、重要になってくるかもしれません。
今回の記事では、略奪・同棲を理由に相手方から不倫慰謝料を請求された場合の特殊性について紹介してきました。
不貞関係解消済みのような場合に比べると一般的に対応が難しくなる傾向にありますので、経験豊富な弁護士に相談のうえで進めていくことをお勧めします。
(参照)不倫慰謝料を請求されたとき、弁護士に依頼するメリット
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
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