はじめに

どのような場合に離婚を認めるのかという考え方としては、①一方の配偶者の有責行為がある場合に認めるという有責主義、②婚姻が破綻している場合に認めるという破綻主義がある、といわれています。離婚を①有責側への罰とみるか、②破綻した婚姻からの解放とみるか、という違いです。さらに細かく言えば、②破綻主義の中にも、ⅰ)破綻さえあれば有責配偶者からの離婚請求を認める積極的破綻主義と、ⅱ)破綻があっても有責配偶者からの離婚請求は認めない消極的破綻主義がある、といわれています。

破綻主義の採用

離婚原因の一つとして、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」というものが定められています(民法770条1項5号)。そして、この要件を満たすかどうかを考える際には、有責かどうかは基本的に関係がないとされています。そのため、日本の民法は②破綻主義を採用している、と理解されています。

最高裁判決

かつては、有責配偶者からの離婚請求は許されないという趣旨の最高裁判決があり(昭和27年2月19日判決)、消極的破綻主義を採用しているといわれていました。しかしその後、原則として婚姻破綻がある以上離婚請求は認められるが、例外的に有責配偶者からの離婚請求は許されないことがあるという趣旨の判決(昭和62年9月2日判決)が下され、積極的破綻主義に近づいたといわれています。

昭和27年2月19日判決

「…婚姻関係を継続し難いのは上告人が妻たる被上告人を差し置いて他に情婦を有するからである。上告人さえ情婦との関係を解消し、よき夫として被上告人のもとに帰り来るならば、何時でも夫婦関係は円満に継続し得べき筈である。即ち上告人の意思如何にかかることであつて、かくの如きは未だ以て前記法条にいう「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するものということは出来ない。」「結局上告人が勝手に情婦を持ち、その為め最早被上告人とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであつて、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気侭を許すものではない…前記民法の規定は相手方に有責行為のあることを要件とするものでないことは認めるけれども、さりとて前記の様な不徳義、得手勝手の請求を許すものではない」

昭和62年9月2日判決

民法770条1項5号は「夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなった場合には、夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであって、同号所定の事由…につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない」「有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である」