生活保持義務って何?

自分と同じ程度の生活を保障する義務のことです。その義務を負担すべき人にたとえ余力がなくても,その資力に応じて負担すべき義務であるとされています。すなわち,その人に資力がないからといって免除される義務ではありません。端的には「最後に残された米一粒までも分かち合う義務」というように表現されます。

よく似た言葉として「生活扶助義務」というものがありますが,それよりも非常に重い義務です(後述)。

生活保持義務の具体例

夫婦間の婚姻費用支払義務,あるいは離婚後の養育費支払義務というのは,この生活保持義務に基づくものです。すなわち,夫婦あるいは親子である以上,夫(妻)は妻(夫)に対し,あるいは親は未成熟子(※)に対し,自分と同水準の生活を保障する義務があります。そのことの具体的な表れが,婚姻費用あるいは養育費の分担義務というわけです。

(※)自分の生活費を稼ぐことが期待できない子どものことです(成年だが未成熟子,ということもあります)。
   (参照:「養育費はいつまで?未成熟子って?」

生活扶助義務とは?

その義務を負担すべき人が,自分の地位相応の生活をしてもなお余力がある場合に,その限度で,相手方の生活を援助する義務のことです。この場合の援助は,相手方が最小限度の生活を立てられる程度で構わないと考えられています。

具体的には,一般の親族間の扶養義務(兄弟姉妹間など)はこれにあたります。また,親子間であっても,子が親を扶養する場合や親が成熟した子(=未成熟子ではない子ども)を扶養する場合も,生活扶助義務の問題となると考えられています。

養育費分担義務を生活保持義務であると述べた裁判例

元夫が失業保険受給中で自分の借入れの返済を両親に頼っていたというケースです。

裁判所は,「親の未成熟子に対する扶養義務は,親に存する余力の範囲内で行えば足りるようないわゆる生活扶助義務ではなく,いわば一椀の飯も分かち合うという性質」の生活保持義務であるとしています。そして,元夫が負債を抱えていたとしても,自らの生活が維持されており,債務の弁済すらなされている以上,未成熟子の扶養義務を免れる余地はないと述べています(大阪高裁平成6年4月19日決定)。