はじめに

たとえば月に1度の面会交流を調停で取り決めたうえで離婚したとしても、相手方が面会交流に応じないことがあります。この場合、面会交流に応じないからといって養育費を支払わなくてよいということにはなりません。面会交流を取り決めたとおり行うように促すための方法はいくつかありますが、実効性に乏しい面もあることは否定できません。

以下では、「調停や審判で決められた面会交流に、相手方が応じない」という場合について解説しています。ちなみに、夫婦間協議で決めた約束どおりの面会交流に応じない場合には、面会交流を求める調停(あるいは審判)を申し立てることになります。

面会交流と養育費支払義務とは連動しません。

面会交流を実現するための手続きを進めましょう。

「子どもに会えないのに養育費だけ支払いたくはない」という気持ちになるのも当然ですが、面会交流と養育費支払義務とは連動するものではありません。子どもに会えないのなら、面会交流を実現するための手続きを進めるべきです。「面会交流できないから養育費を止めてよい」ことにはなりません。

養育費を勝手に止めると、強制執行される可能性が出てきます。

調停や審判で決まった養育費を勝手に止めてしまうと、それが子どもの生活にとって望ましくないのは当然です。さらにはあなたにとっても給与差押えなどの強制執行を受ける可能性が出てきます。その意味でも、養育費を勝手に止めてはいけません。

面会交流に応じない相手への対応は?

このような場合の対応策として考えられるのは、①履行勧告、②再調停、③間接強制、④損害賠償請求の4つです。実務上は②再調停の手段を取ることが多いようです。③間接強制や④損害賠償請求の方法を取ると、相手方の感情を害してしまいかえって面接交渉の妨げになることもありますので、注意が必要です。

履行勧告

家庭裁判所を通じて面会交流をするよう働きかける方法です。裁判所が電話や手紙で面会交流できない事情などを聴取して調整してくれます。もっとも、この手続きに強制力はありません。そのため相手方が断固として応じない場合には、この手続きは不奏功という形で終わってしまいます。そうなると、以下の再調停などの方法を検討する必要があります。

再調停

面接交渉を求める調停を再度申し立てることです。面会交流できない側から言えば、「以前に調停・審判で決めたにもかかわらず面会交流できなかった。それなのに、わざわざもう一度やる意味があるのか」という気持ちになるでしょうが、この手段を取ることが実務上は多いようです。

調停委員や裁判官は、相手方が面会交流に応じない理由などを踏まえ、何らかの障害があるのならそれを取り除いたり、面会交流の内容を実現可能性のあるものに変えたりすることで、面会交流が実現できるよう試みることになります。

間接強制

家庭裁判所から「面会交流の不履行1回につき●●円を支払え」という命令を相手方に対して出してもらうことです。金額的には、1回につき数万円程度という場合が多いようです。ちなみに面会交流自体を無理やりさせること(直接強制)は、現在の法制度上では不可能とされています。

「面会交流することを認める」という一般的な形で合意しただけでは、間接強制はできません。間接強制が認められるためには、面会交流の日時、頻度、面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法などが具体的に定められている必要があります(最高裁平成25年3月28日決定)。「月1回程度」といった内容では具体性がありませんので、間接強制は認められません。

損害賠償請求

調停で合意した面会交流を相手方が拒絶したことについて、損害賠償が認められる可能性はあります(横浜地裁平成21年7月8日判決)。そのため、面接交渉に応じない相手方への心理的プレッシャーにはなりえるでしょう。

まとめ

面会交流に相手方が応じない場合に養育費を勝手に止めてしまうと、差押えを受けるなど不利益が発生する可能性があります。面会交流を実現するための手段として損害賠償請求や間接強制という手段も確かにありえます。しかし、面会交流に応じなければすぐにこれらの手段をとれるというわけではありませんし、これらの手段を無条件に使えるわけでもありません。迂遠なようですが、再調停を申し立てて、相手方が応じない理由や誤解を解きほぐしながら面会交流の実現にこぎつけていく方法が望ましいと思われます。