はじめに

一言で「性の不一致」と言っても、性交渉が全くない(セックスレス)という場合もあれば、身体の相性が合わない、性交渉はあるが頻度に不満がある、相手方が同性愛者だと分かったなど、色々な場合がありえます。性の不一致によって夫婦間の愛情が失われ、通常の婚姻関係を送ることが期待できない場合には、「婚姻関係を継続し難い重大な事由」があることを理由として裁判離婚が認められる可能性があります。

性の不一致と離婚原因

離婚原因って?

相手方が話し合いによる離婚に応じてこない場合に、それでも離婚をしたいなら、離婚を認める判決を裁判所からもらう必要があります。そのための要件が離婚原因です。

性の不一致で裁判離婚が認められる可能性はあります。

性の不一致が「婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとき」にあたる(=離婚原因がある)と裁判官に判断され、結論として裁判離婚が認められる可能性はあります。もっとも、一言で性の不一致といっても内容は夫婦によって様々ですから、その具体的な事情を検討していく必要があります。その結果、すでに夫婦間の愛情が失われており通常の婚姻関係を続けていくことがもはや不可能な状態になっていると裁判官に判断してもらえれば、婚姻関係を継続し難い重大な事由があることを理由に裁判離婚が認められることになります。

 

性の不一致についての公表裁判例

性交渉拒否・性的不能

夫がポルノビデオで自慰行為をする一方で妻との性交渉を拒否していたケース(福岡高裁平成5年3月18日判決)、睾丸を切除しても夫婦生活には大して影響がないという医師の説明を聞いて結婚したものの、性交渉を遂げることがなく、顔面蒼白の夫からただ身体の一部を撫で廻されているだけの状態が常であったというケース(最高裁昭和37年2月6日判決)で、裁判離婚が認められています。

性癖、頻度

性交渉の際には必ず靴を履くよう妻に要求し、昼夜を問わず一日に数回も性交渉を妻に求めることがあったというケース(大阪地裁昭和35年6月23日判決)で、裁判離婚が認められています。なおこの判決では、頻度の問題というよりはむしろ、布団の上で靴を履かせるという行為が正常な性行為の範囲に属するものではないこと、妻がそれを極度に忌避嫌悪しているにもかかわらず夫がこれを強要し続けたことが問題視されています。

同性愛

夫が他の男性と同性愛関係に陥り、その男性と別れたあとも執拗に付きまとっていたというケース(名古屋地裁昭和47年2月29日判決)で、裁判離婚が認められています。もっとも、夫が妻との性交渉を拒否していた事情もありますので、性交渉拒否のケースともいえるでしょう。

性の不一致に不満。もし他の人と性交渉をしてしまうとどうなる?

あなたの側に離婚原因が発生します。

性の不一致はしばしば耐え難いものとなりますが、だからといって配偶者以外の異性と性交渉を持ってしまうと、離婚原因の一つである「不貞な行為があったとき」に該当します。つまりあなたの側に離婚原因が発生するわけです。いいかえれば、相手方配偶者としては、(仮にあなたが拒否しても)裁判離婚を求めることができる状態になるということになります。なお、性交渉(ないしそれに類似する行為)の相手が同性である場合には不貞行為とはなりませんが、先にみたように婚姻を継続し難い重大な事由として(あなたの側の)離婚原因となりうることは同様です。

離婚となる場合、離婚慰謝料が発生する可能性があります。

不貞行為がある場合は離婚慰謝料が発生する典型です。他の人と性交渉を持ったことがバレて離婚話となると、離婚慰謝料を請求される可能性は高くなってきます。

有責配偶者となり、離婚請求が難しくなる可能性があります。

不貞行為をした側=有責配偶者からの離婚請求の場合、裁判離婚が認められるためのハードルは、通常の場合と比べて上がってしまいます。仮に相手方が話し合いで離婚に応じない場合、すぐに離婚できない可能性が高くなってしまいます。

浮気相手が不倫慰謝料を請求される可能性があります。

あなたが既婚であることを知りつつあなたと関係をもった浮気相手は、あなたの配偶者から不倫慰謝料を請求される可能性が出てきます。

まとめ

性の不一致にも色々な内容がありえますが、夫婦間ではしばしば深刻なストレスとなります。婚姻関係において夫婦生活、性生活というのは一つの重要な要素ですので、この点で満たされないというのは婚姻を継続し難い重大な事由として離婚原因となる可能性はあります。

もっとも、単に身体の相性が合わない、頻度・回数が物足りないというような不満をそのまま述べていればそれだけで裁判離婚が認められるというわけではありません。これまでの経緯として具体的に夫婦生活はどのようなものであったのか、性の不一致を解消するためにあなたはどのような努力をしたのか、相手方の反応はどうだったのか等々の様々な事情を総合して、通常の婚姻生活を続けていくことがもはや不可能であることを、裁判官に対して説得的に主張していく必要があります。

また、性の不一致があるからといって他の人と性交渉を持つと、あなたの側に離婚原因が発生してしまうほか、あなたが有責配偶者となることで逆にすぐに離婚できなくなってしまう可能性があります。離婚となるかどうかはさておき、あなたの浮気相手が不倫慰謝料を請求される可能性もあります。

性の不一致で離婚問題になっている、あるいは不倫慰謝料を請求されているということでお悩みであれば、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。