はじめに

不倫した妻から婚姻費用を請求された場面として、次のようなケースを想定してみます。

あなたは年収350万円の会社員、妻は専業主婦で、子どもはいません。妻が不貞していることが分かり、そのことを問い詰めると、妻は何も言わずに家を出ていってしまいました。妻が今どこにいるのかも分かりません。別居からしばらく経って、妻は不貞について一切謝ることもなく、今月の生活費を払えと要求してきました(婚姻費用請求)。同居時にあなたが渡していたのと同額の15万円を払え、と言ってきています。

…このような妻の態度に愛想が尽き離婚したいと思っていますが、さしあたって、婚姻費用請求にはどのように対応したらよいでしょうか?

妻との話し合い

同居時と同額をそのまま払わなければならない、という理由はありません。また、有責配偶者からの婚姻費用請求は認められない、という判断をした裁判例がいくつかありますので、頭に入れておきましょう。

大阪高裁平成28年3月17日決定

「夫婦は、互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。この義務は、夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが、別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地からして、子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当である。」

妻からの婚姻費用分担請求調停申立て

話し合いがまとまらないと、妻が婚姻費用分担を求めて、調停(審判)を申し立ててくる可能性があります。この場合、あなたは、妻が有責配偶者であることから、婚姻費用を支払う義務がないことをきちんと主張すべきです。

妻が自ら不貞行為をしたことを認めている場合や、明確な証拠がある場合などは、調停委員から妻に対して調停の取り下げを打診することもあります。

一方で、妻が有責配偶者であることを示す証拠がなく、妻が不貞行為をしたことを認めていないような場合は、婚姻費用の支払い義務があるという前提で、金額について話し合うことになるでしょう。

なお、証拠不足などで不貞行為があるかどうかがはっきりしないとみなされるような場合には、話し合いにより、最終的に算定表より低額の婚姻費用を支払う内容で調停がまとまることもあります。

調停での話し合いがまとまらない場合は、調停が終了して審判に移行します。

婚姻費用分担請求調停が審判に移行した場合

妻が有責配偶者であること、妻からの婚姻費用分担請求が権利の濫用であることについて、きちんと主張立証する必要があります。

明らかに妻が有責配偶者であり、別居に至る経緯等においても妻に同情の余地がないような場合は、婚姻費用はゼロと判断される可能性があります。

一方で、不貞行為の事実の有無が明らかではない場合や、不貞行為があるとしても、それ以前の夫婦関係や別居に至る経緯において妻ばかりが責められる状況ではないと判断される場合は、算定表による金額、もしくは、状況によって、それよりも低額の金額が認められる可能性があります。

まとめ

妻が有責配偶者であることを立証して、「婚姻費用分担請求は認められるべきではない」と争うことになります。最終的には裁判官を説得する作業となりますので、感情のまま自己の正当性を主張するのではなく、法的理論に基づいた合理的な主張立証が必要です。

婚姻費用をゼロないしできるだけ低額に抑えておけば、妻にとって、離婚するデメリットが減ることになりますので、妻が早期に離婚に応じる可能性が大きくなります。別居した妻が、婚姻費用を請求し続けたいという動機で離婚に応じないことはよくありますが、その動機を崩すことができるからです。

したがって、婚姻費用額が調停・審判で決まってしまう前に、弁護士に相談し、状況次第では依頼を検討するほうがいいでしょう。