はじめに

「離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)から、『もし弁護士に依頼すると、あなたが離婚拒否でも無理やり離婚させられてしまう。だからあなた自身で対応した方がいい』と言われた」というような方が、たまにいらっしゃいます。しかし、「カウンセラーに言われたから…」といって自分だけで対応した挙句、不利な状況に追い込まれている方も少なくありません。

相手から離婚したいと言われてしまったり、別居を提案されてしまったりしたとき、誰に相談すればいいのでしょうか。いずれにしても、相談した結果を引き受けるのは貴方自身です。したがって、後悔しないためにも、誰に何を相談するのかについても、予めよく検討した上で、相談することをお勧めします。

離婚拒否の私。弁護士から無理やり離婚させられることってあるの?

ありません。

離婚請求を受けた場合、離婚に応じるのか応じないのかを決めるのはあなた自身です。あなた自身が離婚拒否を貫くのなら、あなたから依頼を受けた弁護士は、その意向に即して活動することになります。いいかえれば、離婚を拒否しているあなたに対して、あなたが依頼した弁護士が無理やり離婚に応じさせることなど、ありえません。

離婚に応じるメリットを説明することはあります。

相手方が離婚条件を具体的に提示してきた場合(ex.財産分与を2000万円払う、など)、「相場より有利な提示をしてきているので、離婚に応じるのも一つの方向です」などと説明することはありえます。この場合、弁護士は、あなたが離婚に応じるかどうかを判断するための材料を提供しているだけです。あなたに離婚しろと迫っているわけでは決してありません。あなたが離婚に応じたくなければ、提案に応じない、と弁護士に回答すれば足ります。

誰にどういう目的で相談するのか、はっきりさせて相談しましょう。

離婚問題が具体化して、どうしたらいいか分からなくなりとりあえず弁護士に相談に来た、という方もいらっしゃいます。最初はそれも仕方ないのかもしれませんが、的確な助言を得るためには、誰に対して何についてどういう目的で相談するのかをきちんと考えた上で、ふさわしい機関に相談することをお勧めします。

離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)

気持ちの整理

離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)が得意とするのは、相談者の気持ちの整理です。離婚を切り出してきた相手に対する気持ちを聞いてもらいすっきりした、悩みを聞いてもらって落ち着いた、というような方もいらっしゃるでしょう。

弁護士

法的手続きの専門家

裁判所の見解を踏まえたうえで、手続き(協議→調停→審判・裁判)を進めることを得意とします。もちろん依頼者が離婚したくない場合は、離婚を拒否して手続きに対応していく(=離婚を求める相手方に反論し、離婚という結果にならないことを目指して闘う)ことになります。

あなただけの味方

弁護士は、一般的には、夫婦双方に中立的な立場で関与することはあまりありません。利害対立している両当事者から依頼を受けるようなことは禁じられているからです。いいかえれば、弁護士に依頼するということは、弁護士をあなただけの味方にするということです。

カウンセラーとしての側面も

弁護士は、法律の専門家ではありますが、離婚手続きに関わる弁護士は、依頼者の気持ちを無視して手続きを進めることはできせん。したがって、弁護士が離婚事件を進めるためには、あなたの気持ちや悩み・希望をしっかりと理解することが必要です。したがって、弁護士が、結果的にカウンセラーとしての役割も担うことが多いと言えます。逆に言えば、自分の気持ちや希望にしっかりと向き合ってくれる弁護士を探すべきでしょう。

相談相手を間違えると…

弁護士

弁護士に対して、「私は離婚に応じるべきでしょうか?」と相談する意味はあまり大きくありません。もちろん弁護士は、主に経済的な面や子どもの問題を中心として、離婚に応じるメリット・デメリットを説明することは可能です。しかし、あなたのこれまでの人生・あなたの全人格や相手の性格などを踏まえたうえで離婚が最善かどうかを判断することは、弁護士の仕事ではありません。

一方で、離婚手続きの内容や相手に請求すべきこと等については、弁護士に相談すべきです。離婚手続きを進める際は、相手の動きを予測しながら進める必要があります。また、調停委員や裁判官を説得・誘導するためには、明確な法的根拠・理論等を踏まえておく必要があるからです。

離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)

離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)に相談しているときに、相手から離婚請求されたり離婚調停を申し立てられたりして、「相手方の離婚主張にどう反論すべきでしょうか?」、「離婚調停を申し立てられた。どう進めればいいですか?」というような質問も、カウンセラーに相談したくなるのが人情かもしれません。

しかし、離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)は、一般の方よりは離婚問題に詳しいのかもしれませんが、本人自身が当事者でない限り調停手続きに関わった経験などはないはずです。また、本人自身の経験がある場合でも、調停・訴訟は千差万別ですし、また、書籍等には記載されていない暗黙のルールも多くありますので、経験者だからといって、他人に助言することができる状況ではないはずです。さらに言えば、弁護士資格がない場合は、財産分与・慰謝料・養育費などの法律上の権利や、調停・訴訟などの法的な手続きについて相談に応じることはできないことになっていますし、実際問題、的確な助言をすることは不可能と考えられます。

一方で、離婚すべきかどうか、夫婦関係の悩みを聞いてほしい、どうすれば相手方の気持ちを取り戻せるか…といった相談であれば、弁護士よりは離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)のほうが得意とする分野でしょう。

間違えるとどうなる?

期待した回答がもらえず相談料を無駄にしただけなら、まだ被害は小さいです。しかし実際には、取り返しのつかない実害が発生する場合があります。

たとえばあなたが離婚拒否だとして、相手方に弁護士がついて離婚実現のために手続きを着々と進めて来ているのに、離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)から「離婚に応じなければ離婚にはならないので、離婚をきちんと拒否するべき」等との助言をうけて、離婚を拒否しているうちに、いつの間にか外堀を埋められていることもあります(※)。

(※)的確な反論や根拠資料の提出などをしていないために、低額の婚姻費用に応じるよう調停委員からプレッシャーをかけられ、応じてしまった場合など。

離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)に相談する際の注意点(※)

本来なら弁護士に相談すべきことであっても、相談された離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)としては、あなたのためと考えて、善意で色々回答するかもしれません。回答を聞いた相談者は、ますますそのカウンセラーを信用し、そのまま進めてしまうこともあるかもしれません。 極端なケースですと、カウンセラーを唯一の理解者と思い込んで心酔してしまった結果、相談者本人が自分で判断することを止めてしまい、とにかくそのカウンセラーの言うとおりに進めないと気持ちが落ち着かない状況に陥ってしまうことがあります。こうなってしまうと、不利な状況に置かれていることが傍から見て明らかでも軌道修正できなくなってしまいます。

もっとも、万が一、そのような事態になったとしても、離婚カウンセラー(夫婦カウンセラー)を責めるのはある意味筋違いです。冒頭でも述べたとおりですが、そのカウンセラーに相談するのを決めたのも、あるいは助言内容にどこまで従うかを決めたのも、相談者自身だからです。

(※)上述のとおり、弁護士はカウンセラーと違って、離婚すべきかどうかを助言するようなことは、一般的には行いません。また状況によっては、ご相談者のためとはいえ、ご相談者にとっては想定外と感じるような法的見解をお伝えせざるを得ないこともあります。そのため、相談者が弁護士に心酔してベッタリ依存するような事態には、なりにくい傾向にあります。

まとめ

離婚拒否なのに弁護士に依頼すると無理やり離婚させられてしまう、と思っている方が一部いらっしゃるようですが、完全に誤解です。そもそも弁護士は代理人にすぎないので、依頼者本人の意向に反した活動はできないからです。もし、あなたが依頼している弁護士が、あなたの意思に反して事件を進めるようなことがあれば、その弁護士との契約を考え直したほうがいいでしょう。

離婚問題の相談相手としては弁護士かカウンセラーを選ぶ方が多いと思われますが、上記のとおり、得意とする分野が違いますので、相談したい内容を踏まえて選ぶべきです。