はじめに

法律で定められた離婚原因がなくても、夫婦で話がまとまれば離婚できます。

(備考)ここでいう離婚原因は法律用語です。日常用語の「離婚の原因・理由」とは違います。

とは言っても、どうしても相手方が離婚に応じないことがあります。別居は、そういう場合に法律上の離婚原因を作りだすための手段です。

別居してある程度の期間が経過すると、「夫婦の実態がない」という客観的な事実が存在することになり、裁判所によって離婚が認められる可能性が出てくるというメリットがあります。そういう意味では、別居は「離婚への第一歩」ともいえます。

しかし、離婚したいならとりあえず別居すればいい、というわけではありません。別居に踏み切るデメリットや、別居で相手方に有利になる点もあります。別居すべきかどうか、別居するとしても、いつ・どのようにすべきかを、よく考える必要があります。

別居ってそもそも何?

別居とは、簡単にいえば、夫婦共同生活がなくなっている状態のことです。たとえば夫が単身赴任している場合は、形の上では別の住居に住んでいますが、夫婦共同体を維持するために別の住居に住んでいる状態であるといえます。そのため、ここでいう別居にはあたりません。

参照:単身赴任の夫との離婚手続き

家庭内別居だと意味がない?

離婚したいなら完全別居を…

家庭内別居は、同じ住居に住んでいても性生活どころか家庭内での会話すら全くないような状態のことです。

家庭内別居は、当事者夫婦の認識としては、(完全)別居とほぼ変わらないかもしれません。

しかし、別居と家庭内別居では明確な違いがあります。それは、家庭内別居の場合、第三者から見ていて「夫婦共同生活がなくなっている」とはっきり分からない点です。ですから、離婚裁判で「何年もの間、ずっと家庭内別居が続いていた」と主張しても、裁判所が離婚を認めてくれる可能性は相対的に低くなります(相手方も認めれば別かもしれませんが)。

別居を、離婚に向けて離婚原因を作り出すために実行する。

その場合は、家庭内別居ではなく、物理的に住居を別にしておく必要があります。その上で住民票も移しておけば、別居がいつから続いているかは、住民票を見れば一目瞭然です。このような形で別居しておけば、夫婦共同生活が無くなっていること(婚姻破綻)を強く裁判官に印象づけることができます。

参照:家庭内別居の離婚手続き

離婚を希望する側にとっての別居のメリットは?

別居は離婚原因になります。

別居の最大のメリットは、別居期間が長期に及ぶとそれ自体が離婚原因になってくる、という点です。

別居で夫婦関係の実態がなくなっている=「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる(離婚原因がある)と裁判所に認めてもらえる可能性が出てくるのです。

「離婚が認められるには何年間別居すればいいの?」

そういうご質問をしばしば受けますが、一概に●年間と言うのは非常に困難です。実際は、婚姻期間や事案の内容によって、裁判所の判断が異なるからです。それでもあえて言うならば、少なくとも3年程度といわれています。

離婚へのプレッシャーとなります。

別居の事実上のメリットとして、別居を選択することで、本気で離婚したいという意思を相手方に明確に伝えることができます。

さらに相手方より収入が少ない場合は、別居後に婚姻費用分担請求(生活費の請求)をすることによって、相手方に対して離婚へのプレッシャーを強めることができます。

なぜなら、離婚に応じない限り婚姻費用を支払い続けなければならないという立場に、相手方を追い込むことができるからです。

別居のデメリットは?

別居を理由に、逆に離婚を請求されるリスクがあります。

別居すると、相手方から逆に「別居が『悪意の遺棄(※)』にあたる」として離婚を請求されるリスクがあります。不思議に思われるかもしれませんが、離婚請求された側が、逆に「悪いのはお前の方だ」と離婚請求をし返すこともあるのです。

(備考2)悪意の遺棄も、離婚原因の一つです。

婚姻費用が減額されるリスクがあります。

別居の経緯が極めて悪質な場合(※)、婚姻費用が減額されたり認められなかったりすることがあります。もっとも、単に相手方の意思に反して出ていったというだけなら、それを理由に減額されることはまずありません。

(備考3)妻が不貞して家出し、その不貞相手と同棲している状況で、夫に婚姻費用を請求するような場合です。

別居すると証拠収集が難しくなることがあります。

別居の大きなデメリットとして、財産分与に備えて証拠を集めることが難しくなる、という点があります。

同居している場合なら、例えば相手方に届く郵便物をチェックして、●●銀行●●支店に口座を持っているようだと判明する可能性もあるでしょう。

しかし別居後だと、このような証拠集めは困難になりがちです。

別居で後戻りできなくなる可能性があります。

別居に一度踏み切った後に、一人でやっていく大変さを実感することがあります。

「やっぱり離婚したくない、戻らせて」

別居を後悔してそう言ってみたところで、相手方が愛想を尽かして同居再開に応じなかったり、逆に離婚を請求したりしてくるかもしれません。それだけ別居によって相手方に与える精神的ショックは大きいのです(だからこそ離婚へのプレッシャーになるのですが)。

別居が続いているという事実は、あなた側の離婚原因にもなります。別居に踏み切った側だけが離婚原因として主張できるわけではありません。たとえば、あなたが家を出て別居後に離婚を拒否したとしても、その別居を離婚原因として、相手方が裁判離婚を認めてもらうことも可能となってきます。

別居で時間をかけるか、譲歩するか…何を優先する?

別居は離婚原因を作り出すために行うのですが、離婚原因として認められるには前述のとおり時間がかかります。何より早く離婚したい場合、そのように悠長にはしていられないでしょう。場合によっては、金銭的条件でかなり譲歩することによって、相手方に早期離婚に応じてもらう方法を模索すべきかもしれません。別居で時間をかけて裁判離婚を目指す方法は、逆にそのような譲歩が難しい場合に有効です。

別居で時間をかけてでも離婚するのか、相手方に譲歩してでも早期に離婚するのか、何を優先するのかをよく検討する必要があります。

まとめ

別居には自ら離婚原因を作り出せるという大きなメリットがありますが、同時にデメリットやリスクも存在します。

したがって、離婚したくなったからと言って、安易に別居に踏み切るというのは賢明ではありません。

別居を実行する前に、本当に離婚すべきなのか、離婚するとしたらどのような方法をとるべきなのか、何を優先するのか、などをきちんと検討しなければなりません。金銭的条件などで譲歩することで、別居せずとも早期に離婚できる可能性もあります(もちろん相手方にもよりますが)。これらを検討した上で、避けられるリスクは避け、どんなデメリットがあるのかも把握した上で、別居を考えることをお勧めします。