はじめに

離婚というと慰謝料の問題がついてまわることが多いです。例えばワイドショーで芸能人の離婚話が流れると、「慰謝料で揉めているようです」などとコメンテーターが話していることがあります。

しかし慰謝料(=離婚慰謝料)というものは、離婚すれば必ずもらえるというものではありませんし、必ず払わないといけないものでもありません。中には財産分与と混同されている方もいらっしゃいますが,これとは全く別のものです。

逆に言うと、もし慰謝料が認められなくても財産分与などが認められることはあります。そのため、財産分与についても別途検討が必要です。
以下,離婚慰謝料に絞って解説していきます(※1)。

(※1)配偶者が不倫したときには,配偶者とその不貞相手に対して慰謝料請求が可能です。①不貞相手には不倫慰謝料を請求することができ,そして②離婚する場合は,配偶者に「不倫を理由とする離婚慰謝料」を請求することができます。このコラムでは②について述べています。

離婚慰謝料って何?

離婚によって受ける精神的苦痛を慰謝する(=なぐさめる)ための損害賠償金のことです。平たく言えば「離婚することになった原因を作った配偶者が、他方の配偶者に対して支払う慰謝料」のことです。

中身としては,①配偶者の地位を失うことから生じた精神的苦痛に対する慰謝料(言ってみれば「離婚自体に対する慰謝料」)と②個別の加害行為から生じた精神的苦痛に対する慰謝料(「離婚原因に対する慰謝料」)との両方が含まれます。

例えば「夫の度重なる不貞行為(=第三者の女性と肉体関係を持つこと)で結婚生活が破綻し離婚になった」という場合を考えてみましょう。

この場合、個別の(一回一回の)不貞行為によって受けた精神的苦痛(上記の②)と、離婚せざるを得なくなったことによって受けた精神的苦痛(上記の①)と、その両方をひっくるめたものとしての離婚慰謝料が妻には認められることになります。

(※2)離婚しないで相手方配偶者に請求する慰謝料や,第三者(例えば不貞相手)に対する慰謝料というものもありますが,これらについては別稿に譲ります。リンク先「不倫慰謝料を請求したい」,あるいは「不倫慰謝料を請求された」をそれぞれご参照ください。

離婚慰謝料が認められる場合とは?

離婚につき責められて当然の理由が相手方にある場合

離婚慰謝料が認められるのは、例えば次のようなことが理由で結婚生活が破綻した、という場合が典型です。

  • 配偶者の暴力(DV),犯罪
  • 結婚生活維持に協力しない
  • 性交渉拒否

ちなみに、他にも例えば言葉の暴力やモラハラなどがある場合にも、離婚慰謝料が認められる可能性はあります。しかし、これらがあったと言うためにはそれなりの証明が必要であり、簡単に認められるものではありません。日々の記録や録音・診断書などそれなりの証拠が必要となります。

簡単に言えば、離婚となったことに関して、責められて当然の理由が相手方にあるという場合に、離婚慰謝料が認められることになります。

離婚慰謝料が認められない場合とは?

離婚となった理由がどっちもどっちの場合

「性格の不一致」「価値観の違い」が原因での離婚はよくありますが、この場合にはまず認められません。

この場合、どちらかが責められるべきというよりは、極論すれば「結婚してはみたものの、たまたまこの人とは合わなかった」というだけの話だからです。また、例えば次のような場合にも、離婚慰謝料は認められません。

  • 加害行為(不貞行為、暴力など)が証拠上認められない
  • 有責行為がさほどではない(慰謝料を支払わせるほどではない)
  • 結婚生活破綻の責任が双方同程度である
  • 離婚慰謝料によって償うべき損害がない(注1)
  • 加害行為と結婚生活破綻に因果関係がない(注2)

平たく言えば,離婚となったことについて,どちらか一方だけが責められるべき状況ではない,どっちもどっちだという場合には認められない,ということです。

(注1)仮に精神的苦痛があっても,離婚することでその苦痛自体が収まることもありますので、離婚のほかに慰謝料を認める必要がないと裁判所に判断されることがありえます。
(注2)結婚生活が不貞行為以前に既に破綻していたような場合のことです。

離婚慰謝料請求のポイントは?

その他の条件と合わせた交渉を

離婚が問題となるとき、慰謝料以外にも財産分与や養育費などの財産給付が問題となってきます。離婚慰謝料とこれらの財産給付と合わせた交渉をしていくことが多いでしょう。

慰謝料の名目にこだわる必要はありません。

請求する側からいえば納得できる金額をもらえることが重要ですので、名目が離婚慰謝料であろうと財産分与であろうと、客観的に見ればそれ自体はあまり重要ではありません。

「そちらの側に落ち度があるのだから非を認めて慰謝料を払え」と言いたくなる気持ちは分かりますが(相手方にはっきりとした落ち度があり、言い逃れさせないような証拠が揃っているという場合であればそれでも良いでしょうが)、相手方も人間ですので、「お前の側こそ○○だったじゃないか」云々と言い返されてしまい、話がどんどんこじれてしまうこともしばしば見受けられます。

相手方としても、例えば財産分与や養育費といった名目で支払うという形の方が納得しやすい面があります。慰謝料の名目にこだわりすぎると、請求する側が自分で解決を遠のかせてしまうことにもなりかねません。

裁判を見据える必要があります。

請求する側もされる側も、離婚協議や調停で離婚慰謝料について合意がまとまらないとなると、最終的には裁判となる可能性があることを踏まえておく必要があります。そうなると、離婚の実現までに時間が掛かってしまうかもしれません(そのことは、婚姻費用を支払う側からすると不利になります)

仮に裁判となった場合、請求する側としては、辛かった、悲しかった…というようなことをいくら語っても、うっぷん晴らしにはなるかもしれませんが、それだけで裁判所を説得することは難しいです。暴力については医師の診断書、不貞行為については調査会社の調査報告書・写真やメールのやりとりなど、裁判官を納得させられるだけの客観的な証拠を集める努力が必要です。

離婚慰謝料の相場は?

一般的には300万円程度までで、500万円を超えることは少ないと言われています。一般論としては慰謝料請求よりも財産分与や養育費などの請求の方が確実性があります。そのため、慰謝料が問題になっている場合であっても、それらを検討しておくことは重要です。

結論

相手方の不貞行為などが原因で離婚となる場合、財産分与とは別に離婚慰謝料が認められる可能性があります。いわゆる「性格の不一致」の場合は、認められない場合が多いです。

請求する側から言うと、離婚慰謝料という名目で支払いをすることに相手方が抵抗する場合であっても、離婚後の当面の生活の手当てのために財産分与を増額する、子どものために養育費を相場よりも増額する、といった名目であれば合意しやすいこともあります。そのため、慰謝料という名目にこだわりすぎるのも考え物です。また、協議や調停でまとまらず裁判となってしまった場合に備えて、各種の証拠を集めておくようにこまめに努力しておく必要があります。

請求される側から言うと、慰謝料の有無やその額について争う以外にも、財産分与なども考える必要があります。

「慰謝料の点でまとまるまで正式に離婚はしない」という場合、離婚実現が遠のくことになりかねませんので、婚姻費用を支払う側にとっては厳しい状況になり得ることがあると思われます。